包丁のトギノン ブログ

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スチール棒について

2012-01-27 | 包丁の切れ味考察
今回は「スチール棒」についてお話したいと思います。

そうです、お肉屋さんが包丁をカシャン、カシャンとこすり付けて研いでいる金属の棒の事です。
TVや映画など特に外国で多く観られる様子ですね。


スチール棒で研いでいると、なんだかプロフェッショナルになった気分さえしてきます。
しかし、厳密に言うと「研ぎ」という意味ではあまり意味をなしません。
驚かれる方も多いかと思います。プロの人が使っているのに意味が無いとは?と。

それは「日本の高硬度の包丁にはほとんど必要ない。というか、無駄になることが多い。」ということ。

スチール棒は言わば包丁用の「ヤスリ」です。【目】も細かめ、荒めと番手が幾つかあります。
また、ヤスリだから当然、熱処理された金属が使われていますが、日本の包丁も負けないくらい高硬度の熱処理鋼材を使用しています。
つまり、スチール棒の硬度はHRC換算で54~62°くらい。日本の包丁は56~62°くらいのものが多い。
同じようなHRC硬度のもので包丁を削り研ぐことができるのか?
答えはおのずと出てきます。
しっかり、熱処理された包丁は通常ヤスリではほとんど削れませんよ。(研げない)

では、外国の包丁はどうでしょうか?
鋼材の特製や熱処理の方法、食文化の違いから日本の包丁より軟らかいものが多いので有効です。
材質面で見ると外国製の包丁は46~56°のものが多く、十分スチール棒に乗る(削れる・研げる)。

なぜ日本のような高硬度の刃物が必要ないか?それは食文化の違い。生食で食べることが多いか否か。
日本は刺身や野菜も生で食することが多く、食材の切断面にまでこだわる。初めから切り分けられたものを箸で食すことが多い。
外国はぶつ切りしたあと煮たり焼いたりして、ナイフandフォークで切り分けて食する。
ほとんど生で食しません。その理由は、水が悪いからだとも言われています。

また、お肉屋さん特有の使い方で「チョッピング」を多用している点も関係してきます。
チョッピングとは大雑把に言うと、叩き付けるようにぶつ切りすること。
日本の包丁は硬いのでやりすぎると欠けてしまいますが、海外製は柔らかめで欠けるより刃先が波状に曲がることが多い。
この波状に曲がった刃先を「刃ならし」(スチール棒にこすり付け曲がりを修正)するのにスチール棒は有効です。

さらにお肉などを多量に切った場合に切れ味を落とす大きな原因が1つ発生します。
それは、脂(あぶら)です。包丁に脂が巻く(からみつく)と滑って刃先や刀身が食材に食い込んで行きにくくなります。
野菜も実は同様で「アク」が多量に付着すると切れにくくなります。(こちらはすべりが悪くなる方向ですが。) しかし、布や洗剤では刃先の汚れの膜が手早く落とせません。
多量に連続使用するプロ場合、この脂など包丁に付着した不純物を手早くこそぎ落とす、擦り取るのに役立つのがスチール棒なので一般家庭ではほとんど必要ないかも。


また、一概にスチール棒が日本製の包丁が研ぎにくいというわけではありません。
最近はダイヤモンドの粒子をコーティングしたものも出回っています。これなら硬くて遂げなかった日本の包丁も研ぐことができます。
さらに棒の部分がセラミックでできたセラミックシャープナーなるものも市場にはあります。金属ヤスリでは目がつぶれて削れなくなりますが、セラミック=砥石のものですと磨耗して目がつぶれますがつぶれながらも粒子が落ち新しい目が出てきます。減るから金属が削れるんです。金属加工の現場でも熱処理された高硬度のものは砥石で研削するんですよ。逆に生材(熱処理されていない金属)はビットなど超硬刃物で削ります。

もう一つ問題点があります。
慣れてくれば良いのでしょうが、製品の特製上研ぎをする場合に刃角が安定しないこと。
1回1回違う角度で刃物がスチール棒に当たるのは容易に想像できますよね。その結果研ぎムラが出来て野菜を切ったのに繋がっているという場面を良く見ます。
まあ、慣れの問題でもありますが、研ぐだけなら無難に普通の砥石のほうが良いですよ。

それではまた。

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