米連邦公開市場委員会(FOMC)は、市場の予想通り、0.25%追加利上げを全会一致で決定。フェデラルファンド(FF)翌日物レートの新たな誘導水準は1.75―2.0%で、片足が2%台に乗った。そろそろ「低金利」とは言いにくい水準になりつつある。
FOMC参加者による金利見通しでFFレートの「長期」(中立金利)として示されたのは2.875%(誘導レンジに書き換えると2.75―3.0%)。実際のFFレートはそこまであと1%ポイント(0.25%利上げ4回分)に迫っている。
今回のFOMC声明文は、物価について、総合、コア(除く食品・エネルギー)ともに前年同月比で「2%に近づいた」と記し、5月の前回会合時と同じ表現を用いた。
そして、FOMC参加者による個人消費支出(PCE)価格指数・総合の見通し(中央値)は、前回(3月)から18年と19年が上方修正され、いずれも2.1%になった。2020年の見通しも同じ数字である。PCE価格指数・コアの見通し(中央値)は、2018年が2.0%に上方修正され、2019年と2020年は前回と同じ2.1%だ。
こうした物価の公式シナリオは、下振れず、大きく上振れることもなしに、向こう3年間にわたって2%の物価目標がほぼ完璧に達成されるという、にわかには信じ難い姿になっている。
失業率はかなり低い水準まで下がっている。シナリオ通りの物価パスの実現に自信があるなら、物価安定と最大雇用という二重の責務を負っている米連邦準備理事会(FRB)は、大喜びで「勝利宣言」をしてもおかしくない。
しかし、雇用統計の時間当たり賃金などを見ると、経済のグローバル化や情報技術(IT)革命の影響(デジタル化)といった構造的な要因が作用し続けている結果、米国の賃金(およびサービス分野の物価)の上昇は、基本的には抑制されたままである。
PCE価格指数・総合の前年同月比が3月・4月に目標水準である2.0%に到達したのは、昨年春の携帯電話料金引き下げの「裏」(反動)が統計上出てきたことや、原油価格の水準切り上げによるものである。少なくとも現時点では、持続性を伴った物価目標達成が実現しているとは言えない。
FRBの利上げ路線継続に対しては、イールドカーブのフラット化を通じて、米国債市場が「警告」を突き付けている。2年債と10年債のスプレッドは40ベーシスポイントを下回っており、この先も利上げが継続されるなら、逆イールド化は時間の問題である。
むろん、年金マネーなどによるイールドハント的色彩の濃い米30年債の根強い買い需要が存在するため、米国債イールドカーブの今般のブルフラット化には需給の要因も相応に寄与しているとみられる。だが、基本的にはやはり、リセッション警告シグナルの点灯が近づきつつあると考えるべきだろう。
逆イールドが出現すればリセッション入りが確実というような因果関係はない。だが、そのことにより市場参加者の心理が不安定化して株価急落や金融市場全体の動揺が引き起こされやすくなることを見逃すべきではあるまい。
FRBは利上げを止めて様子を見るべきだというブラード・セントルイス地区連銀総裁の見解に、筆者は賛成である。しかし現実には、6月のFOMCで追加利上げが決まり、ドットチャート(FF金利の予想分布)は上方シフト。年内あと2回の利上げがFOMCの中心シナリオになった。
FOMC後に記者会見したパウエルFRB議長は、強気一辺倒ではなく、「われわれは勝利宣言をするつもりはない」と述べた。最近のインフレ指標は心強いものの、これまで多くの年で物価が目標を下回ってきているためだという。