カゲロウの、ショクジ風景。

この店、で、料理、ガ、食べてみたいナ!
と、その程度、に、思っていただければ・・・。

死の棘/島尾 敏雄

2011年02月16日 | 日記
およそ10年間、作家である夫の浮気を知りつつ、献身的に尽くしてきた妻の心が、
ついに壊れゆく過程、もしくは壊れた末を描いた、意外にも世界的に評価を受ける、
日本の作家による物語である。

正直、ただ、あった事を描いただけのドキュメンタリー、
自らの汚点を記しただけの、私小説にしか見えない本作、
作家たるもの、その経験を肥やしにして、
それとはまた違った物語を紡いでいくのが、いよいよ本領なのではないかなどと、
思えなくもないのであるが、諸外国においてはこの作品、
ある種、ある面、男女関係の原型を詳細に描いた作品として、
かなり評価が高く、名作の誉れ高い。

だが、評価が高いから面白い作品なのかというと、それはまた別問題で、
やはり、読んでいて、しんどい事に間違いはなく、実際に心当たりなどなくとも、
その登場人物、つまり作家の心情が、どこか魂に微かに訴えてくる事、夥しく不快である。

現実に、世の中の出来事に照らし合わせてみれば、
本人的には、信じていたい、唯一の相手に裏切られるという、
生きる根本から耐え難い状況であるのは勿論なのであるが、
ただ、そんなよくある話の中でも、然程、残酷な仕打ちを、
この妻が受けているという訳ではないというのも、ひとつの事実で、
もっともっと酷い現実、浮気された上に、更に貢がされたり、
状況的に逆ギレして、暴力を振るわれたりという事例が、世の中には山程あって、
言うなれば、この、あらゆる意味でホドホドの状況、
それでも夫婦関係の再生を目指す、そのような描写であるからこそ、
多くの人間が、まだしも読むに絶え得る作品足り得るのであり、
その事が、本作が広く世界中で読まれる理由の、その一理なのではなかろうかと、
少々酷薄な考察ながらも、そこはかとなく思える次第ではある。


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