図書館から借りていた 平岩弓枝著 長編時代小説「御宿かわせみシリーズ」第32弾目の作品 「十三歳の仲人」(文春文庫)を 読み終えた。
読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう爺さん、読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも その都度、備忘録としてブログに書き留め置くことにしている。
平岩弓枝著 御宿かわせみ(三十二)「十三歳の仲人」
本書には 表題の「十三歳の仲人」の他、「十八年目の春」、「浅妻船さわぎ」、「成田詣での旅」、「お石の縁談」、「代々木野の金魚まつり」、「芋嵐の吹く頃」、「猫芸者おたま」の連作短篇8篇が収録されている。
「十八年目の春」
平川町の菓子屋丸屋と同じ菓子屋老松屋は3代前から犬猿の仲、18年前に丸屋の倅新兵衛と老松屋の娘おそのが行方不明になり、駆け落ちしたのか、そうでないのか、生きているのか、、死んでしまったのかも分からなかったが・・・。実は・・・・。東吾、「・・・要するに二人とも 親がうっとうしかったのさ」、「我々も親として考えておかねばなりませんね」源三郎が続けた。
「浅妻船さわぎ」
元々、渋谷から広尾ノ原を抜けて江戸湾に流れる川は古川と呼ばれていたが 元禄の頃、大掛かりな川ざらえ拡幅工事が行われ、川名も新堀川と変わっている。その工事の際の人夫の持ち場が一番から十番に分けられ、麻布一ノ橋付近は十番にあたり 自然に「麻布十番」という地名が生れたという。その近くに「十番馬場」という馬場があり、飼葉屋の馬秣の中から掛け軸 英一蝶の「浅妻船之図」(贋作)が出てくる。岡っ引き仙五郎が探索中、経師屋参次(竹彦)が殺され、隠居市兵衛の妾宅でお久麻、徳蔵が殺される。政右衛門、善吉、お久美、・・・・。東吾、源三郎、長助も真相解明に乗り出す。東吾は小気味よくどなった。「玄関をみて来い。上がりかまちに足駄がある筈が」、足駄と草履・・・、下手人は?
「成田詣での旅」
喜寿を迎えたるいの茶の湯の宗匠寂々斎楓月から成田詣での申し出を受けたるいは 早速段取り、るいと千春、嘉助、源三郎の妻お千絵、源太郎、お千代に加えて、長助が駆け回り、主に楓月の弟子達が参加、総勢17名が江戸を出発した。大川、小名木川、中川、行徳までは船旅、行徳から成田は陸路。往路、復路、船橋の布袋屋で宿泊したが、同行した深川の料理茶屋辰巳屋の主人新兵衛、女番頭お篠が・・・。お篠の幼馴染み弥七とは?、後日、新兵衛が釣り船転覆で死ぬ。お篠、弥七に掛かる嫌疑は?
「お石の縁談」
深川の蕎麦屋長寿庵の亭主で岡っ引きの長助が お石の縁談を持ち込んできた。相手は、旅籠「かわせみ」にも出入りしている薪炭問屋奥津屋の若旦那仙太郎(25歳)。野老沢(ところざわ)から初めて「かわせみ」に奉公した頃のお石は まるで山出しの猿公だったが 女中頭お吉の仕込みと 本人の努力で いまやお吉の片腕となっており、18歳の愛らしい娘になっている。しっかり者のお石は 乗り気でない。
深川門前町で出火。奥津屋の主人六兵衛、おさだ夫婦が焼死、仙太郎も自殺。お石には心のキズが残るが どこかに 大工の棟梁小源の存在がほのめかされている。
「代々木野の金魚まつり」
東吾は 女中お石を伴って、かっての漢学の師稲垣内蔵介の四十九日法要のために、代々木野へ出掛けた。縁談の有った奥津屋の出来事の後で、るいも東吾も お石の気分転換になると考えたからだったが、そこでまた 大工の棟梁小源と関わることに。金魚まつり見物に行った大工の佐吉とお石、二人の足元には大の男4人がひっくり返っており・・・。「強いのなんの、まるで岩見重太郎を女にしたみてえな娘っ子で・・・」、
「小源なら いいなあ」、東吾は からっとした声でいった。「もしかすると この冬には お石を家から嫁に出すことになるかもしれませんね」るいが小さくささやき、東吾は夕空へ目を細めた。
「芋嵐の吹く頃」
このところ、旅籠「かわせみ」の女中頭お吉が凝っているのは曲物。曲物とは薄い木板に熱を加えて曲げ、丸い容器に作り上げたもので 地方によっては ワッパ、メンパ、メッパ等と呼ばれている。曲物問屋大杉屋に出掛け帰ってくるお吉は手ぶらということはなく その講釈や、仕入れてくる大杉屋の内情、情報に東吾は辟易する。東吾、「源さんが 冗談半分にいっていたよ。お吉が男だったら、さぞかし有能なお手先になったろうとね・・・」、大杉屋弥兵衛の倅弥七(18歳)が江戸に出てきた。深川清水屋の隠居金右衛門が川に落ち、助けるが・・・、身投げ?、倅金太郎、おかつ夫婦とは・・、「俺、明日 宇都宮に戻ります」だしぬけに弥七がいった。微妙な親子関係、祖父との関係、職人魂、「おい、こいつを芋嵐というのか」・・・、弥七は夕焼け空へ目をやった。その瞼の中に浮かんでいるであろう日光の栗山村の秋景色を東吾も亦、思い浮かべた。寂しさが漂ってくる。
「猫芸者おたま」
旅籠「かわせみ」を定宿にしている佐原の醤油問屋木島屋庄兵衛が隠居、倅敬太郎が当主となり江戸にでてきて滞在しているが・・・、嘉助が ちょっと気になることがあるという。「驚いたな。佐原の若旦那は もう金猫銀猫なんかで遊んでいるのか」、嘉助が答える前に るいが訊いた。「なんですの。金猫銀猫って・・・」、寝子?、山猫?、呼び出し?、伏玉?、羽織?、子供屋?・・・るいは長火鉢の中の火箸を握りしめた。「うちの旦那様は なんでもよく御存知ですこと」、きりりと柳眉が上って 東吾は素早く立ち上がった。怖い、怖い。敬太郎から頼み事で 東吾、長助、源三郎が おたまと関わり・・・、おひろが殺され、「長助、裏へ廻れ、正太が逃げるぞ」、」、弟をかくまっただけなら島流しにはならないものを・・・、「島はこれから冬だなあ」
「十三歳の仲人」
9月半ば、江戸は大嵐に襲われ、神田川が氾濫、多くの死者行方不明者が出て、家屋の被害が甚大だった。大型台風の直撃を受けたというだろう。東吾の兄八丁堀組屋敷内に有る神林通之進の屋敷も奥座敷に大木が倒れ屋根が損壊、大工の棟梁小源が修繕工事を行っており、麻太郎は 小源の引いた鉋屑に感動しきり。一方で 旅籠「かわせみ」の千春は 女中お石が 野老沢(ところざわ)実家の差配で嫁いでしまうことを悲しんでいる。麻太郎が香苗にその話をしている時 それを耳にした小源が 梯子ごと転落、お石が看病。「・・・母上のようなお石は 小源にとってこの世の格別な人だろう・・・しっかりしろ、小源、男らしくないぞ」、「若様、あなたという御方は・・・」、お石と小源のすれ違いをみごとに解決した麻太郎(13歳)、千春(7歳)。小源、お石が揃って「身分不相応は承知でお願い申します。仲人を 麻太郎坊っちゃまと千春嬢さまにお願い出来ないものでございましょうか」・・・・、「えれえことになりました。神林の殿様が・・」、神林通之進と香苗が 「かわせみ」に。麻太郎の仲人ぶりが心配でやって来たことだと分かって 東吾は苦笑した。東吾とるいの娘千春、東吾の子供であろうと推定されている麻太郎が仲人。次回以降 どんな展開になっていくのだろう。
(つづく)