ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

世界ミドル級王座統一戦 バーナード・ホプキンスvsフェリックス・トリニダード

2001年09月29日 | 海外試合(世界タイトル)
大方の期待を裏切り、WBC・IBF王者のバーナード・ホプキンスが、
ここまで無敗で3階級を制したプエルトリコの英雄、
WBA王者フェリックス・トリニダードを終始圧倒し、最終12ラウンド
KO勝ちで3団体の王座を統一した。

ミドル級の3団体統一はマービン・ハグラー以来14年ぶり。また同時に
ホプキンスはIBF王座の14度目の防衛に成功したが、これはカルロス・
モンソンが達成したミドル級連続防衛記録に、24年ぶりに並んだものである。
これでホプキンスは、現在の評価はともかく、間違いなく後世のボクシング史に、
偉大な選手として名前を刻むことになるだろう。

ホプキンスはこれまで、常に地味な存在に甘んじてきた。最も大きな理由は、
ライバルの不在だろう。かつて彼とミドル級王座を争ったロイ・ジョーンズ・
ジュニアは、ホプキンスに判定勝ちして王座に就いた後、すぐに階級を上げて
スーパー・ミドル級を制し、現在は3階級目のライト・ヘビー級で王座を統一、
瞬く間にスーパースターへの階段を駆け上がっていった。

ジョーンズが返上したIBFミドル級王座を手に入れたホプキンスは防衛を
重ねたが、いかんせん対戦相手に華がなかった。そしてホプキンス自身にも。
地味な彼が名を上げるためには、名のある選手を倒さなければならない。
そこで登場したのが、輝かしい戦歴を誇るトリニダードだったのだ。

IBFウェルター級王座を15度も防衛し、その中にはヘクター・カマチョ、
パーネル・ウィテカー、オスカー・デラ・ホーヤというスター選手もいた。
無敗のWBC王者デラ・ホーヤに勝ってウェルター級最強を証明したトリニダード
は当然の如く階級を上げ、アトランタ五輪金メダリストでこれまた無敗だった
デビッド・リードに完勝、WBAのスーパー・ウェルター級王座を奪う。

さらにこれだけでは飽き足らず、またまた無敗の若きスター、IBF王者の
フェルナンド・バルガスをKOしてスーパー・ウェルター級でも2冠達成。
そして今年5月、ついにミドル級にまで進出、WBA王者ウィリアム・ジョッピー
をわずか5ラウンドで料理、堂々たる成績で3階級制覇を成し遂げたのだ。

片やホプキンスはその1ヶ月前、キース・ホームズを下してWBC王座も獲得。
2つのミドル級タイトルを手に、トリニダードとの統一戦に気合い充分だ。
トリニダード陣営には、ホプキンスに勝つという前提のもと、さらに上の
スーパー・ミドル級ウェートでロイ・ジョーンズ・ジュニアと対戦するという、
少し前なら考えられなかった夢のカードが視野に入っていた。

もちろん両者ともに負けられない大事な試合だが、ボクシングファンの心理
としては、さらなるビッグマッチが期待できるという意味で、やはりトリニダード
に勝ってもらいたい、というのが本音だっただろう。しかし勝負というのは
非情なものだ。ホプキンスは目論見通り名を上げ、トリニダードはその戦績に
初めての黒星をつけ、同時にジョーンズ戦という「夢」を失った。

僕はひねくれ者なので、実は日陰者ホプキンスの存在がずっと気になっていた。
防衛記録を地道に伸ばしていくたびに、心の中でひそかに喝采を送った。
と同時に、いつか彼がもっと大きな舞台で観客の期待を「裏切る」ことを
夢想していたのだ。

どういうわけか彼には、ずっと「悪役」のイメージがつきまとっていた。
確かに年を取って(現在36才)パワーが落ちたのか、最近はダーティな
テクニックを駆使した乱戦で、僅差の勝ちを拾うパターンが増えてきていた。
またその振る舞いにおいても、トリニダード戦の前には彼の母国であるプエルト
リコの国旗をもみくちゃにして投げ捨てるなど、悪役ぶりを発揮している。

しかしそれは彼なりの「敵に敬意など不要。敵には敵意だけだ」という闘志の
高め方なのだろうし、プロレスのヒールがよくやるような、「営業用」の
パフォーマンスなのかもしれない。プロ入りする前の彼は実際に収監されたり
するほどのワルだったが、プロになってからリング外で問題を起こしたという
のは、聞いた事がない。いずれにせよ、36才でなお一線で活躍するなどという
ことは、日々の自己管理がよほど厳しくなければ出来ないはずだ。

ただ、敗れたトリニダードも、まだまだ巻き返しはきくだろう。先ほど「夢を
失った」と書いたが、これで完全にジョーンズ戦が消えたわけではない。
何より今まで数々の強敵に恐れず立ち向かっていった、そのチャレンジ精神は
賞賛されるべきだし、その精神があればこの挫折からもきっと立ち直るだろう。

デラ・ホーヤはトリニダード、そしてシェーン・モズリーに敗れた後、再起して
WBCスーパー・ウェルター級王座を奪取、5階級制覇に成功した。
バルガスはまだ完全復調とは言い切れないが、それでもWBAスーパー・
ウェルター級王座を獲ったことで徐々に自身を取り戻すだろう。

今回のトリニダードの敗戦で一つの「筋書き」は崩れ去ったが、逆にこれで
また中量級が混沌としてきて、かえって面白くなったかもしれない。