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1325話)日中水フォーラム(2004年、北京)での発言(1)

前回に2004年4月に北京で開催された日中水フォーラムで発言したことを書いたら、当日、会場で私の話をきかれた方がコメントしてくださいました。うれしいですね。それに刺激されてさがしたら、そのときの発言原稿を私が以前に送っていたメルマガ「黄土高原だより」に残していました。長文ですので2回に分けて掲載します。

私たち緑の地球ネットワークは1992年から山西省大同市の農村で緑化協力事業を継続してきました。私自身も、日焼けと酒焼けで、こんなふうにまっ黒になりながら、農村を歩き回っています。そのなかで危機感、というより恐怖を感じるようになったのは、この一帯から、底がぬけたように、水がなくなっていることです。

最初に気づいたのは、県と県の境に位置する辺鄙な農村でした。井戸や湧き水が涸れ、何キロも離れたほかの村にもらい水に通います。見るに見かねて2つの村で井戸を掘るのに協力しました。幸い水は出ましたが、深さは176メートルと182メートル。村の人は大喜びだったんですね。お年寄りは泣きながら「生きている間にこんないいことに出合うとは思わなかった」といって、私の手を放しません。私も、もらい泣きしました。

そこで知り合った、井戸掘り隊のリーダーの話が、また衝撃的でした。「県境の一帯は例外なく水がなくなっている。水のない暮らしの困難さは、自分たちが一番よくわかるから、お金にならなくても掘ってやりたい。しかし、そういう村は素寒貧で、井戸を掘るお金なんてない。井戸掘りの注文も少なくて、自分たちの賃金も遅れるくらいだから、どうにもならない」。そうだとすると、井戸を掘ることは、緊急避難にはなっても、根本的な解決にはならないんですね。ここの水不足は、井戸で解決できるレベルを超えているわけです。

私たちは、かつて、21の村の900人を対象にアンケート調査したことがあります。1人1日の水使用量は平均で23.8リットル、少ない村は15.6リットルでした。そして、水が少ない村ほど「最近の減少が激しい」というのです。

つぎに気づいたのは、大同中の河という河、ダムというダムが干上がったことです。大同の中央部を桑干河が横切りますが、最後に流れをみたのは1997年夏で、それ以後、毎年10回以上この河を渡っているのに、流れを見たことがありません。はなはだしきは昨年9月、応県でこの河を渡るときのことです。川底の全面がトウモロコシ畑になって、水の流れる余地がまったくありません。橋の表示を見なければ、そこが河だとは誰も思わないでしょう。地元の農民は、水が流れてくることを期待も恐れもしていないのです。丁玲の有名な小説に『太陽は桑干河を照らす』がありますが、これでは『太陽はトウモロコシ畑を照らす』です。

都市の水不足も深刻です。昨年、大同の炭鉱職員住宅を訪れました。水道の給水時間は1日にわずか20分。バスタブに貯める100リットルが、4人家族の1日分でした。 地下水位も急速に低下しています。地元の新聞は「主要地域では毎年2~3メートルも低下しており、2008年には完全に涸渇する」と報道しました。

広い中国ですから、そういう地方もあって不思議ではないでしょう。しかし大同は北京の水源にあたります。先ほどの桑干河は官庁ダムに注ぎますが、官庁ダムは、密雲ダムに次ぐ北京の水ガメなんです。 1か月ほど前、大同にいく途中で高速道路を降り、官庁ダムをみました。水際が、以前のそれから1キロ以上も後退しています。干上がったダム湖の底が畑に変わり、春耕の最中でした。リンゴやブドウの果樹園、ヤナギの苗畑もありました。水際に近いところに貝の死骸が転がり、水草が腐っていました。農民の話では「この5、6年の水位低下が激しい」とのことです。

昨年の国慶節直前、大同の冊田ダムの水門が開かれ、5000万トンの水が官庁ダムに流されました。そのときの儀式で「首都を守るのは光栄な任務だ」と強調されました。しかし大同の水不足は、北京に比べずっと深刻で、大同からみれば、北京の水の使い方はぜいたくです。大同市民がどんな思いであの5000万トンを見送ったか、北京の人はわかっているのでしょうか?

日本からみる北京は大発展・中国の頂点で、私も通過するたびにその変貌に驚かされます。しかし、大同から見る後ろ姿の北京は、「砂上の楼閣」のように思えてならないのです。昨日から中国側の報告もたくさんありました。節水その他、みなさんの努力に敬意を表します。しかし、いまのような勢いで、北京が膨張をつづけるなら、それも限度のあることでしょう。

このような話を、外国人の私がするのは、非常識で、無礼きわまりないことでしょう。それは私も承知しています。しかし、毎年100~120日、大同に滞在している私は、この席に立った以上は、話さないわけにはいかないことを、理解していただきたいと思います。
【写真】漁網の手入れをする官庁ダムの漁民
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