161)醋(す)

 30年以上前のことです。列車が太原駅に停車すると相客たちがみやげ物を買いに走り、ビン入りの黒い液体を下げて帰ってきました。と同時に正体不明の臭い。それが醋だったんですね。「北京の醤油、山西の醋」といって、有名な特産なのだそう。でもそのころは、この私が山西省で長く活動することになるなんて思いもしませんでした。
 醋の原料はトウモロコシ、コーリャン、アワ、エンドウ、ハダカエンバクなどの雑穀です。これをまずアルコール発酵させ、さらに酢酸発酵させます。醋の字は「昔は酒」でしょ。山西の醋は酸っぱさとあわせてコクがあるんですけど、それは何年もかけて醸造したうえに濃縮するからなんだそう。厳寒の冬、カメで貯蔵すると氷が張ります。凍るのは水だけですから、氷を取り出すたびに濃縮されます。いまでも伝統的な製法が守られているのでしょうか。
 食卓に着くと小皿にまず醋が配られます。なんにでも醋をつけますし、なかには飲む人もいます。でも「喫醋」は焼き餅を焼くという意味ですから、ちょっとご注意を。そしてホストが、醋がどんなに健康にいいか、長々と講釈をはじめるでしょう。
 食卓を離れてすぐ、北京からきた幹部が舌打ちをしました。「山西人が醋の無理強いをしなくなったら、いまほど田舎者扱いされずにすむだろうにね」。好みは人それぞれですからね、なにごともほどほどがいいようです。
 【写真】スーパーの特産品売り場。大小の容器に入った何十種類もの黒醋がならんでいる。
 (2008年3月15日号)
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