治しやすいところから治す--発達障害への提言

花風社・浅見淳子のブログ
発達障害の人たちが
少しでもラクになる方法を考える場です。

本分を尽くす

2010-09-06 08:28:31 | 日記
去年の秋、藤家さんと講演に出かけたとき
講演終了後、一人の女性が近づいてきました。

アスペルガーという診断を受けているとのこと。
こういう質問を受けました。

「私も藤家さんのように世の中の役に立ちたいです。どうすればできますか?」

私はききました。
「今何か仕事をしていますか?」
「しています。でも契約で、もうすぐ切れるんです」
「じゃあ契約が切れたら、また仕事を探せばいいと思います」
「…」
「そして、見つけたら見つけた自分の仕事を一生懸命やるといいと思います」
「え?」
「本を書いたり講演をしたりだけが世の中の役に立つことじゃありません。自分の与えられた仕事をきちんとやり遂げることが世の中の役に立ちます」

鳩が豆鉄砲を食らったような顔をなさっていました。

この話を定型発達の人、平凡でもきちんと社会人(主婦を含む)をしている人にすると
「え~知らないんだ、そういうこと」というリアクションが返ってきます。
「親が教えないのかしら?」

そらそうでしょ。だって当たり前のことだもの。
言わなくてもわかることだもの。

それによく考えたら
私たちだって親に習ったわけじゃない。

学校に習ったわけでもない。

「地道に、自分の与えられた仕事をすることが社会貢献につながる」ってことは。

世の中に出て、あるときは縁の下の力持ちをやり、あるときはその人たちに支えられ
自分で稼いだお金を消費して誰かの雇用を支え

という循環を繰り返すうちに「自分の仕事をきちんとやることが世の中の役に立つこと」と学んできたのでしょう。
たとえそれが、一般的に目立つ職業ではなかったとしても。

たぶん「見えないものは、ない」人たちには、それを明文化して伝える必要があるんじゃないかな。

それと、なんらかの理由で世の中に出る機会にめぐり合わなかった人には。

じゃないと「見える」仕事をしている人たちだけが世の中の役に立っていると思い込んだり

地道な仕事しか機会のない自分達のセルフ・エスティームを勝手に下げていったり

一歩方向が違えば、ジェラシっ子化してしまうのかもしれません。

そのときの女性は、その後新しい職場を見つけ、一生懸命仕事に励み、職場での評価もまずまずで
今は部署間で取り合いになっているそうです。
もちろんそれは、大いにセルフ・エスティームに寄与していて
この暑い夏もフルタイムをきちんとやり遂げ、それもまた自信になり

「浅見さんのあの言葉は私の心に届いたようです」

そういうメールをくださいました。

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