「ヒューマン・シティ」を考える。
「フェミニスト・シティ」という本。男性中心の都市計画から女性が排除されている⇒だから女性目線で見ると「街」の見え方が全然違ってくる、という刺激的な内容
3月に行われた日本地理学会で、カナダのフェミニスト地理学・都市地理学の研究者であるレスリー・カーンの「フェミニスト・シティ」(東辻賢治郎訳・2021年・晶文社)というエッセイを紹介されて半分ほど読みました。
都市を「女性視点」で捉え直す:フェミニスト・シティとは何か? 【NGG Research #9】|黒鳥社|blkswn publishers Inc.|note
なぜ「公正な都市」を考えなければいけないか?——『フェミニスト・シティ』他
この「フェミニスト・シティ」という本、このブログでもご紹介しました。
Narashino Geography 124 「地理学」のトレンド - 住みたい習志野
学術書ではなく、翻訳もこなれているので読みやすいのですが、なかなか刺激的な内容です。男性中心社会の権力は都市計画においてもホモソ※(ホモソーシャル:男性だけの強い結びつき)な思想によって街づくりを進めてきたという指摘から、女性にとっては「街」の見え方がまったく違う、と空間論、場所論の切り口からさまざまなアイデアを示しています。
※「ホモソ」については、
NarashinoGeography113 話題の「少子化」だが - 住みたい習志野
の中で、こんなふうに書きました。
(注)ホモソーシャル(英: homosocial)とは、女性及び同性愛(ホモセクシュアル)を排除することによって成立する、男性間の緊密な結びつきや関係性を意味する社会学の用語。 イヴ・セジウィックによる「男性のホモソーシャル(同性間の結びつき)への欲望」という議論によって普及した。
「女性をモノにし、支配する」ことと「女のような男(同性愛)ではない」ことを証明することで男は「男になる」「男社会に男として認められる(ホモソーシャル)」という前時代的あり方
(上野千鶴子氏は「女ぎらい」という本の中でこんな説明をしています。)
イヴ・セジウィックは女性嫌悪(ミソジニー)と同性愛嫌悪(ホモフォビア)とを、男同士の連帯(ホモソーシャリティ)を成り立たせるわかちがたい一組の契機とした。ホモソーシャルな集団の一員になる、すなわち自分が男であると他の男たちに認めてもらうためには、自分が「女ではない」ことを証明しなければならない。
男性中心で考えられた通勤システムでは、女性の通勤行動(ベビーカーをバスや電車に載せる、子どもを保育所に預ける)は考慮されていない
例えば女性の通勤、特に子どもを連れての通勤は、通勤システムでは考慮されていません。同じ時間帯にいっせいに同一方向に移動すること自体が女性を排除しているといえます。最近もベビーカーをバスに乗せることの是非が話題になりました。混んでいるバスや電車にベビーカーを乗せて、子どもを連れて通勤することがそもそも想定されていないということです。子どもを保育所に預けて職場に向かい、帰りがけには買い物をしながら保育所に子どもを迎えに行くという複雑な通勤行動は、一般的な男性の通勤行動とは大きく違います。「主夫(?)」だったボクも職場で「今日一杯やっていかない」と誘われても、「保育所のお迎えと夕飯の支度があるので、急には無理、数日前に予約して…」と何度も断りました。
社会に蔓延する「男性中心主義」を支え、女性に立ちふさがるのは「オールド・ボーイズ・ネットワーク(OBN)」の壁
都市計画や街づくりのマスタープランを作っているのは男性中心の権力です。先日の統一地方選挙では女性議員の増加が話題となりましたが、世の中の半分は女性なのですから、まだまだスタートラインの手前と言えるでしょう。女性議員の増加についていろいろな分析や意見が発信されています。ボクは女性が女性議員候補に投票することへの抵抗感が薄れてきたと言えると思います。社会に蔓延する「男性中心主義」を支え、女性に立ちふさがるのは「オールド・ボーイズ・ネットワーク(OBN)」と呼ばれる大きな壁です。性別役割分業の意識は男性だけが強く持っているわけではありません。社会や都市のシステムに埋め込まれた強固な思想性といえます。女性の中にも「性別役割分業」に安住したいという意識があります。特に日本のような同調圧力の強い社会では目立たぬように、みんなと一緒の「フツー」が、良いように思う人も多数です。よく言われるように「女性が女性のみかたとは限らない」ということです。多くの研究で企業で女性の意志を経営に取り入れると業績が伸びると言われています。実生活では女性の決定権が大きく、家庭内ではさらに大きいと言えるでしょう。世の中は「オールド・ボーイズ」が考えるほど男性中心ではないということです。つまり、社会システムがリアルな社会とはマッチしていない現状があります。
一人ひとりが尊重される「ヒューマン・シティ」へ。賢くプロデュースして住みよい社会を
真の「ダイバーシティ(多様性)」は一人ひとりが尊重される社会となるはずです。ボクは「ヒューマン・シティ」という名前をつけました。
「5月3日」、テレビでは延々と渋滞情報を流しています。ボクが子どものころ(60年前)、遠くに出かけるには高速道路もなく、航空機や新幹線もなく、各駅に停車する列車で長い時間をかけるしかありませんでした。混雑は乗車する列車を待つ駅のホームから始まったものでした。ホームで数時間待つのは当たり前で、年末などには乗車する時間より長くホームで待つことが当たり前でした。ボクは混んでいるのがわかっていてお出かけする人たちを「渋滞マニア」と呼んでいます。特に高速道路で渋滞に巻き込まれるのがわかっていてお出かけすることが理解できません。鉄道なら、車内が混雑していても、決まった時間で着くからです。渋滞に突入する人たちは、渋滞が好きだとしか思えないのです。日々の暮らしを賢くプロデュースすることをもっと考えることが住みよい社会を構築することにつながると考えています。(近)
(編集部より)
「フェミニスト・シティ」という本の中でLGBTQに関して
トランスジェンダー(出生時にわりあてられた性別と性自認が異なる人びと)
シスジェンダー(出生時にわりあてられた性別と性自認が一致する人びと)
という語句の説明がされていました。
男(あるいは女)としてうまれてきて、「たまたま」自分を男(あるいは女)だと思っている人がシスジェンダー
男(あるいは女)としてうまれてきたけど、「たまたま」自分を女(あるいは男)だと思っている人がトランスジェンダー
それだけの違い、ということですね。
その他にも「レイプカルチャー(性犯罪の加害者でなく、被害者の「落ち度」が指摘される風潮)」という言葉や
フェミニスト建築家ドロレス・ハイデンの「超高層オフィスビルは、棒、オベリスク、尖塔、柱、時計塔といった歴史上の男根的モニュメントの系譜」という意見を紹介する、など、興味深い内容も書かれていて、教えられることが多いです。
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