Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「珍妃の井戸」浅田次郎著(講談社)

2009-01-31 | 日本の作家
「珍妃(ちんぴ)の井戸」浅田次郎著(講談社)を読みました。
「蒼穹の昴」に次ぐサイドストーリー。ネタバレありますのでご注意ください。
義和団の乱を制圧するため列強の軍隊が介入し荒廃した北京で、ひとりの美しい妃が紫禁城内の井戸で命を落としました。彼女の名は、戊戌(ぼじゅつ)の政変に敗れ、幽閉された皇帝・光緒帝の愛妃、珍妃。

事件の調査に乗り出したのは四カ国の貴族たち。
英国の海軍提督ソールスベリー卿。
独国のフォン・シュミット大佐。
露国の銀行総裁、セルゲイ・ペトロヴィッチ。
日本の松平忠永教授。

物語は珍妃の死の謎を知る関係者の証言で構成されています。
ミステリー仕立ての歴史物語です。

新聞記者トーマス・バートン、元太監の蘭琴(ランチン)、袁世凱(ユイアンシイカイ)将軍、皇帝の側室で珍妃の姉・瑾妃(きんぴ)、瑾妃おつきの宦官・劉蓮焦
(リウリエンチャオ)、廃太子プーシー。

それぞれ語る人物が抱いている感情が絡むため、聞くたびに珍妃の死の場面の状況も、犯人も違う。
視点が違うという点もありますが、もちろん嘘もある。自分を良く見せようとする見栄もある。
いったい真実は何で、犯人は誰なのか?

聞き込みを続けるうちに傾きかけている清国の悲しい状況も浮き彫りになります。
瑾妃の語る袁世凱の姿。
「科挙の試験に二度も敗れた袁世凱はね、儒教の教えを逆手に取れば、周囲の進士出身の連中はみんなやっつけられると考えたわけ。理に適っているわよ、それって。
上に対しては「悌(てい)」に見せかけた「おべんちゃら」。下に対しては「慈」に見せかけた「圧迫」。仲間には「信」に見せかけた「裏切り」。
でもあいつは見かけによらず臆病者よ。もともと「侠気(きょうき)」のない男だからね。ということはつまり、袁世凱という人物は限りなく文明から退行していく、人間から獣へと退行していく獣です。でも、獣が天下を取れば、大変な時代がやってきますね。」

そしてついに四人は皇帝自身の口から真実を聞き出すため、幽閉された光緒帝の元へ・・・。

皇帝が語る珍妃の死。
皇帝が訴えたかったのは、真の犯人が誰かではなく、珍妃はどうして死ぬことになったのか、だと思いました。
そこまでわれわれ大清国を追い詰めたのはおまえたち外国の勢力だろうと。

エピローグは珍妃自身の言葉。
歴史の本当の真実はどうだったのでしょうか・・・。