インド経済、世界一の成長エンジン狙う-28年までに中国を逆転か
Dan Strumpf、Anup Roy、Abhishek Gupta 2024年4月8日 14:42 JST
- インド、28年までに世界経済最大の成長エンジン-BE基本シナリオ
- ミドルクラスが8億人にも広がる可能性、外国人投資家には魅力
欧米各国は経済成長が鈍化している中国を経済パートナーとしてではなく、ライバルとして見なすようになっている。そして、中国に隣接するもう一つの新興大国インドが、世界の次なる経済成長のけん引役として台頭しつつある。
インドの株式市場は活況を呈し、外国からの投資が殺到。各国政府は年齢層が若く人口14億人を抱えるインドの市場取り込みを狙い、新たな貿易協定を結ぼうと構えている。
米ボーイングなどの航空機メーカーは記録的な受注を獲得し、米アップルはスマートフォン「iPhone」の現地生産を拡大している。
How India Could Overtake China as World’s Growth Engine
According to a Bloomberg Economics analysis, India could become the world's no.1 contributor to GDP growth as early as 2028.
Source: Bloomberg Economics
Notes: The analysis is based on real GDP growth rates being weighted by purchasing power parity GDP levels. The optimistic scenario assumes India's growth rises to a potential level of 10% by 2030. The pessimistic scenario assumes the IMF forecasts for the next five years and extends them forward with potential growth dropping from 6.5% currently to below 6% over the next decade.
ただ、インドの経済規模は3兆5000億ドル(約531兆円)で、17兆8000億ドル規模の中国経済にまだ遠く及ばない。劣悪な道路環境や一貫性のない教育、煩雑な官僚主義的な手続き、熟練労働者の不足は、欧米企業がインドに進出する際にぶつかる多くの問題のほんの一部に過ぎない。
それでも、インドは世界経済の成長エンジンとして、中国を追い抜く公算が大きい。
インドで近く始まる総選挙は、与党のインド人民党(BJP)が勝利すると広く見込まれている。インドに強気なバークレイズのような投資銀行は、続投が有力視されているモディ首相が次の3期目が終えるまでにインドが世界経済の成長に最も大きく貢献する国になり得ると考えている。
28年までに逆転
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の分析はさらに楽観的で、インドは購買力平価ベースで28年までにその節目に到達できると見込む。
How India Can Win China's Growth Crown
中国経済は減速しており、インドが世界最大の成長エンジンとして台頭しつつあるSource: Bloomberg
ただ、そのためには、モディ首相は重要な発展4分野で野心的な目標を達成する必要がある。インフラ改善と労働者の技能強化・参加拡大、働き手全員が住めるより快適な都市の建設、雇用を提供する工場の誘致だ。
手本はある。中国だ。1970年代後半の改革によって自国経済が世界に開放された後、中国は30年ほど年平均10%の成長を遂げた。その結果、外国資本を招き寄せ、世界で大きな影響力を持つようになった。世界的な大企業は皆、中国戦略を持たなければならなかった。
ディクソン・テクノロジーズの携帯電話組み立てライン(3月)Photographer: Prashanth Vishwanathan/Bloomberg
しかし、不動産危機に、中国のサプライチェーン支配やセンシティブなテクノロジーの進歩に対する欧米の懸念増大が重なり、「奇跡」と呼ばれた中国の急成長期はもはや過去のものとなっている。
そこでインドの出番だ。モディ政権はインド経済の競争力強化を目指しており、安価な労働力を求め中国からの事業分散を目指す欧米企業にとっては魅力的な政策だ。
モディ首相はインドの成長加速を選挙遊説の主要なテーマとしており、昨年の集会では、政権3期目を担えばインド経済を「世界トップの地位」に引き上げると誓った。
エア・インディアとインディゴの航空機(フランスにあるエアバスの引き渡しセンター、2月)Photographer: Matthieu Rondel/Bloomberg
2025会計年度のインフラへの政府予算は5年前の3倍以上となる11兆ルピー(約20兆円)を超え、各州の支出を加えると20兆ルピーを上回る可能性がある。
インドは30年までの6年間に鉄道や道路、港湾、水路などの重要なインフラを整備するため143兆ルピーを投資すると想定されている。
India’s Infrastructure Is Due for a Substantial Boost
Sources: Centre for Monitoring Indian Economy’s Capex Database, Bloomberg Economics
Note: Chart shows estimated values of projects completed or due for completion
モディ政権は一方、小麦とコメの輸出を禁止することでインフレの抑制を図っている。政府は20年代に入ると国内で製造業を奨励するため、約2兆7000億ルピーの優遇策を展開。企業は優遇税制や土地価格の引き下げに加え、州政府からも工場設置の資本を得た。
BEの基本シナリオでは、インド経済は20年代末までに9%成長に加速する一方、中国の成長率は3.5%に低下する。インドが28年までに中国を抜いて世界経済最大の成長エンジンとなるという筋書きだ。
今後5年のインド成長率が6.5%未満にとどまるという国際通貨基金(IMF)の予測に沿った最も悲観的なシナリオでも、インドは37年に中国の貢献度を追い抜く。
もちろん、全ての予想は不完全な情報に依存している。可能性が極めて低いものの、いったん起これば大きな影響を及ぼす「ブラックスワン」などの大きな経済ショックがあれば、どんな見通しであれ外れ得る。
「最大の長所」
インドの首席経済顧問V・アナンサ・ナゲスワラン氏は最近のインタビューで、中国の経済規模がはるかに大きいことから、インドと中国の比較に注意を喚起した。
同時に、インドの潜在的な成長力や若者の多さ、インフラ構築、そして中間所得者層(ミドルクラス)が8億人にも広がる可能性は、外国人投資家にとって明確な価値命題だと主張。
「それが最大の長所だ」と述べ、「コスト競争力だけではない。市場や経済的リターンを生み出す能力、法の支配、国際的な投資家が比較的容易に資金を本国へ送金できるという政策の安定性がある」と指摘した。
航空など一部の分野では、インドの高い成長期待が現実のものになるとの確証が深まりつつある。
インド最大の航空会社インディゴとエア・インディアは昨年、ボーイングと欧州のエアバスから計970機の航空機を購入するという記録的な規模の契約を交わした。インドで最も新しい航空会社アカサも今年、ボーイングにジェット機150機を発注した。
India's Labor Advantage In Manufacturing
Most of the world's new factory workers between 2020 and 2040 will be in India
Source: Bloomberg Economics
Notes: Bloomberg Economics' analysis looks at the world’s 25 biggest exporters and weighs the working-age population in these countries by their exports-to-GDP ratio. For example, India’s 486 million secondary-school educated workers in 2020 and an exports-to-GDP ratio of 0.187 means that 91 million workers from the country participated in global labor markets. The analysis defines these workers as medium skilled and use them as a proxy for factory workers.
ボーイング・インディアのサリル・グプテ社長は、新しい空港や数々の航空スタートアップ、ミドルクラス拡大による国内旅行需要の増大が旅客機需要を高めていると説明。
「インドではここ1年にわたり、航空史上どの新興航空会社より最も速いスピードで成長している新興航空会社が生まれている。こうした要因全てが民間航空市場に大きなチャンスをもたらしている」と話した。
ボーイングは今年1月、インド南部ベンガルールで新しいエンジニアリングセンターを始動させた。総コスト2億ドル(約300億円)の同センターが完成すれば、同社にとって米国外で最大の投資となる。
India's Labor Advantage In Manufacturing
Most of the world's new factory workers between 2020 and 2040 will be in India
Source: Bloomberg Economics
Notes: Bloomberg Economics' analysis looks at the world’s 25 biggest exporters and weighs the working-age population in these countries by their exports-to-GDP ratio. For example, India’s 486 million secondary-school educated workers in 2020 and an exports-to-GDP ratio of 0.187 means that 91 million workers from the country participated in global labor markets. The analysis defines these workers as medium skilled and use them as a proxy for factory workers.
モディ政権は減税などの優遇措置でメーカー誘致を図っているPhotographer: Prashanth Vishwanathan/Bloomberg
原題:Booming India Prepares to Take China’s Global Growth Crown (抜粋)
METHODOLOGY:
Bloomberg Economics long-term forecasts of potential growth are based on an augmented version of the Solow-Swan growth model that includes human capital as an additional factor of production. The model explains the long-term growth dynamics as a function of labor, human capital, physical capital and the productivity of these factors of production. To estimate the contribution of each country to world real growth, Bloomberg Economics weight their individual growth rates by GDP in current dollars adjusted for purchasing power parity. Bloomberg Economics’ base case for India's growth is higher than the consensus of economists. Bloomberg Economics expect more people to participate in the labor market because of a rapidly expanding manufacturing sector, increased construction activity to bridge the gap of deficient infrastructure and more demand by multinationals to set up back and front-end service centers in India. Each worker is also likely to be more productive as geopolitical tailwinds allow for a more rapid knowledge sharing from western partners. India's GDP figures have also consistently exceeded the consensus forecast over the last four quarters. The average miss was 1.2 percentage points.
--Abhishek Gupta, Senior Economist, Bloomberg Economics
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