米企業の7割、市場予想下回る業績 株価の重荷に
グローバルマーケット
2022年3月31日 14:00
米欧日の企業収益に減速感が出てきた。米国では25日までに2022年1~3月期の業績見通しを発表した約100社のうち、7割がアナリストの予想値を下回った。4月中旬から発表される米主要企業の22年1~3月期の純利益は前年同期比6%増にとどまる見通し。2ケタ増益が続いた21年と比べ増益率は縮小。欧州や日本企業の利益でも市場予想は引き下げられている。ウクライナ危機に伴う原油高騰などに伴うコスト高や、人件費の上昇が収益を圧迫する。4月以降の株式相場の重荷となる可能性がある。
金融情報会社リフィニティブがアナリスト予想などを集計した。3月25日時点でS&P500種株価指数を構成する企業の22年第1四半期(12~2月期などを含む)の純利益は6%増で、売上高は11%増となる見込み。純利益は新型コロナウイルス下で業績が回復に向かった20年10~12月期(4%増)以来の低い伸び率となる見通し。
米ヤルデニ・リサーチのエドワード・ヤルデニ氏は「20年後半以降、決算発表期に入るにつれアナリストは収益予想を引き上げてきたが、その傾向は終わりそうだ」と潮目の変化を指摘する。
業種別にみると、原油高の影響で3.2倍と大幅増益を見込むエネルギーを除くと1%増にとどまる見通しだ。公益事業を除く全業種で増収となる見通しだが、燃料や人件費などのコスト増が利益圧迫の主因となりそうだ。
前四半期に減益だった公益事業以外、全ての業種で増益率が縮小、もしくは減益となる。特に金融(21%減)や一般消費財(12%減)、通信サービス(5%減)が減益だ。
3月下旬に21年12月~22年2月期の決算を発表した米スポーツ用品大手ナイキは純利益が4%減と減益に転じた。値下げを減らして利益の確保を目指すが「原材料など製造コストの上昇で一部は相殺される」(マシュー・フレンド最高財務責任者=CFO)と先行きを慎重にみる。
米銀は21年1~3月期にあった貸倒引当金の戻し入れがなくなるほか、前年同期で投資銀行業務が好調だった反動減で減益となりそうだ。
米調査会社データトレックのニコラス・コラス氏は「ウクライナ情勢の悪化で原油が高騰しない限り、4~6月の市場の関心は企業業績に集まる」と指摘する。特に4月は米連邦公開市場委員会(FOMC)が開かれないため、企業決算次第で株価が乱高下する可能性がある。
業績の伸びの鈍化を理由にUBSグローバル・ウェルス・マネジメントのマーク・ハフェル氏はS&P500が22年末に現状より約2%高の4700と、小幅上昇にとどまると予想する。ウクライナ侵攻などで「企業収益が(下振れする)リスクがある」とみる。
もっとも、米経済は底堅く推移しており「22年1~3月期決算のハードルは低く、中長期的に株価の上昇幅は広がる」(米JPモルガンのマルコ・コラノビッチ氏)など強気の見方もある。カナダのスポーツ用品ルルレモン・アスレティカは29日に発表した22年1月期の純利益が前年比65%増だった。「(この先も)楽観視している」(メーガン・フランクCFO)と23年1月期についても自信を示した。
ウクライナ侵攻の影響が一番大きいと市場関係者が危惧するのは欧州企業だ。米シティグループは3月中旬の欧州株のリポートで、英国を除く欧州の企業について22年の1株利益成長率を従来想定の前期比8%増から同3%増に引き下げた。
シティによると小売りや自動車など、消費関連企業の業績の下振れ懸念が特に強い。物価の上昇による家計の負担増が響く。資本財も下方修正リスクがあり、天然ガスの供給不安に直面するドイツでは鉱工業生産が00年代半ばの金融危機時と同レベルの落ち込みをみせるリスクがあるという。景気鈍化により、金融機関の融資需要が落ち込みかねない点も不安視されている。
日本企業の業績見通しも下振れを免れない。ゴールドマン・サックス証券は原油価格の大幅上昇を前提に、22年度の日本企業の1株利益成長率予想を従来より3.6ポイント低い前期比2.8%増に下方修正した。「欧州などに比べて資源高の恩恵を受けるエネルギー企業が少なく、原油価格の上昇が企業全体の業績悪化に直結する」(同社の建部和礼日本株ストラテジスト)。
ただ、欧州の企業に比べれば、ウクライナ侵攻が日本企業の売り上げに直接与える打撃は小さいとみられている。為替相場で円安・ドル高が進むことも輸出企業の業績の下支え要因になる。
日米欧の株価指数の21年末比の下落率をみると30日時点でS&P500が3.4%、日経平均株価が2.7%、ストックス600が5.7%と、業績見通しの悪化幅が大きい分、欧州株の方が下げがきつくなっている。
(ニューヨーク=大島有美子、北松円香)