株高の先に透ける恐ろしい近未来、「通貨の信用失墜」と「超インフレの到来」は早ければ…
2024.4.5(金)市岡 繁男
日経平均株価は4万円の大台も突破。果たして上昇は続くのか?
- 日経平均株価が34年ぶりに最高値を更新した日本のみならず、世界各国が株高に沸いている。
- だが、好景気でも金融緩和でもないのに高値を継続するのは理に適っていない。
- これが「通貨の信用失墜」と「超インフレの到来」を先取りする動きであれば、いったい、いつ起こるのか。
(市岡 繁男:相場研究家)
非金融部門の債務総額は15年で約3倍に
英国の経済学者、J・M・ケインズは、1930年代に世界経済を混乱に陥らせた大恐慌に対する処方箋として、財政政策(インフラ等への政府投資)と金融政策(利子率の引き下げ)を取り混ぜて需要を刺激するよう求めました。その考えをまとめた『雇用・利子および貨幣の一般理論』は戦後、資本主義国における経済政策のバイブルとなりました。
しかし、そこには副作用があります。
民主主義体制下で経済が低迷すると、為政者は選挙民を意識して、景気を回復させようと財政を拡大し、中央銀行も金利を下げて後押しすることになりやすくなったのです。2008年のリーマンショックや、20年のコロナ禍に際し、各国が打ち出した政策も、国債増発と金利低下を柱とする典型的なケインズ政策でした。
その結果、何が起きたでしょうか?
世界の非金融部門(政府+企業+家計)の債務総額は08年からの15年間で78兆ドルから227兆ドルへと約3倍に拡大し、過剰債務体質になってしまったのです(図1)。
【図1】出所:国際決済銀行(BIS)
(本記事は多数のグラフを基に解説しています。正しく表示されない場合にはオリジナルサイト「JBpress」のページでお読みください)
これは大変な水準です。米国の過去100年の債務比率(非金融債務÷名目GDP)の推移をみると、今は大恐慌期のピークに近い1933年に匹敵する水準となります(図2)。
【図2】出所:米国歴史統計、FRB
名目GDPに対する利払い費の割合はリーマン・ショック直前のレベルに
もっとも、債務が増加しても金利が低下している間は、それほど心配することはありません。しかし、2020年のコロナ禍で債務の拡大ペースが急加速したこともあって、ついに40数年ぶりに金利が上昇し始めたのです。
債務を返済する原資は、企業の売上高に相当する名目GDPです。そのGDPを増やすためには、労働投入量(働き手×労働時間)の増加、および労働生産性(単位時間あたりの付加価値算出量)の向上が求められます。
残念ながらそれは実現できそうにありません。日米欧中4カ国・地域の生産年齢人口(15-64歳)は、2014年をピークに減少に転じています(図3)。これでは、よほど労働生産性が改善しない限り、GDPが大きく増加することは見込めません。
【図3】出所:国連、国際決済銀行(BIS)
ここまで債務が極大化した段階で、各国の金利は上昇基調に転じ、米国を除く各国ではGDPや鉱工業生産が低迷しています。その結果、世界の「利払い費÷名目GDP」は2001年のITバブル崩壊前や、2008年のリーマン・ショック直前のレベルにあるのです。いつ新たな金融危機が起きてもおかしくありません(図4)。
【図4】出所:国際決済銀行(BIS)、セントルイス連銀
問題は、その場合に国債増発と金利低下を柱とするケインズ政策で対処が可能なのか、ということです。
すでに巨額の債務が積み上がっている中での国債増発は、金利上昇に直結します。かえって事態が悪化しかねません。
ギリシャやイタリアの株価は日本以上に上昇
それを防ぐには、第二次世界大戦中のように各国の中央銀行が国債を全額引き受けるしかないのです。しかし、そうなれば不換紙幣である通貨の信認は損なわれ、インフレが激化することは明らかでしょう。
いま注目したいのは、世界中の株価が高騰していることです。米国株が直近の底値をつけた昨年9月末以降、日本株は約6割も上昇し、日経平均株価は34年ぶりに史上最高値を更新しました。株高は日本だけではありません。ギリシャやイタリアなどは日本株以上に上昇しているのです(図5)。
【図5】出所:Investing.com
いったいなぜこれほど株価が高騰しているのでしょうか? 筆者は腑に落ちる説明にお目にかかったことがありません。
政府支出の拡大で潤う米国株はともかく、日本やドイツはGDPや鉱工業生産が低迷しており経済が好調とは言えません。しかも、欧米では中央銀行が量的引き締めを続けているというのに、株価が最高値を更新しているのです。
つまり今の株高は、好景気や金融緩和といった従来の常識とは違う局面で起きているわけです。
このため株価の先行きに弱気な人も多く、空売りポジションが積み上がりやすくなっています。そこに謎の投機筋が大口の買いを入れて、ショートカバー(空売りの買い戻し)を誘発する「踏み上げ」が株高の原動力となってきました。
超インフレ時には、株価が実物資産として評価される
しかし、その大口の買い資金は一体どこから来ているのでしょうか。海外勢が日本の超低金利マネーを用いて投機を行っている可能性はあるものの、それは今に始まったことではありません。また、もしそうだとしても、なぜ世界中の株価が高騰しているのか説明がつきません。
そこで思うのは、マーケットの深層では、「中央銀行の国債引き受け→通貨の信用失墜」と「超インフレの到来」を察知し、債券や預貯金から株式に資金を移し始めたのでないかということです。
昨今のアルゼンチン株や、1920年代のドイツ株の高騰(図6)が示すように、超インフレ時には、株式が持つ実物資産としての側面が評価されるのです。
【図6】出所:勝田貞次「独逸のインフレーション」(景気研究所1939年)
だとしたら今の世界的な株価高騰は、インフレが止まらなくなる近未来を先取りしているのではないでしょうか。その近未来が本格化するのは、ウクライナや中東での戦火拡大に起因する「原油価格の上昇→長期金利の上昇」などがきっかけで、いったん株価が急落した後でしょう。
そうなれば、各国政府は国債を増発し、長期金利の上昇を防ぐべく、その国債を中央銀行が買い支える第二次量的緩和(QE)が発動されるはずです。筆者は早ければ今秋にもその時期が来るとみています。
※本稿は筆者個人の見解です。実際の投資に関しては、ご自身の判断と責任において行われますようお願い申し上げます。