世代交代進む日本のCEO、ガバナンスに新風-株主との距離にも変化
佐野日出之
2024年6月20日 5:00 JST
佐野日出之
2024年6月20日 5:00 JST
21年以降にTOPIX500銘柄の45%でCEO交代、平均年齢62.5歳
若い世代は企業価値の最大化に脅威、戸惑い感じず-Tロウプライス
近年の日本株上昇の原動力になってきたコーポレートガバナンス(企業統治)改革。従来は政府主導の受け身の改革と捉える向きが多かったが、ここに来て改革に本腰が入り始めたとの見方が海外投資家の間でも広がっている。一連の流れを支える大きな要因の一つが経営者の世代交代だ。
東証株価指数(TOPIX)採用の時価総額上位500社で構成されるTOPIX500指数企業のうち、45%で2021年以降に最高経営責任者(CEO)が交代している。これは米国の36%、欧州の42%を上回る。経営者が若返った企業にはトヨタ自動車や三越伊勢丹ホールディングス、リクルートホールディングスなどがある。
ブルームバーグがまとめたデータによると、日本のCEOの平均年齢は現在62.5歳。水準自体は10年前から大きく変わっていないが、この10年で米国と欧州ではCEOの平均年齢がそれぞれ59歳と56歳に2歳上昇しており、欧米との格差はやや縮まった。
CEOの年齢
Source: Bloomberg
現在60代前半となる世代の多くは1960年代前半の生まれだ。社会に出てすぐに80年代後半のバブル経済の狂騒と崩壊を経験し、必ずしも従来型の日本的経営に固執していない。63年生まれのマネックス・グループの松本大会長は「昭和の大成功体験を持つ経営者層はなかなか変わろうとしないが、私の代くらいからはグローバルに良いものがあれば、取り入れなければならないという発想がある」と言う。
米運用会社ティー・ロウ・プライス・ジャパンのシニアアナリストで、日本の金融市場を25年間見てきたマイケル・ジェイコブス氏は、若い世代は「日本の伝統的な企業文化に見られた仲間内的な心地良さに対する親和性や馴れ合いがあまり見られなくなっている」と指摘。以前の世代と比べ、「企業価値の最大化を目指すことに対し脅威や戸惑いを感じてはいないようだ」と話した。
TOPIX500銘柄で2021年以降に経営者が若返った企業の株価を見ると、東京証券取引所が上場企業へのガバナンス強化の働きかけを強めた23年初め以降、平均で41%上昇しており、それ以外の企業の38%を上回っている。
実際、情報開示や取締役会の多様性、新技術の採用などの点で若手のCEOが積極的に改革を進めている例は少なくない。CEOの発想の変化は日本のポジティブな変化の一つであり、ジェイコブス氏は「株式市場が活気に満ち、ダイナミックであることは国益にかなう」との認識が広がっていることの表れだとみる。
ガバナンス改革への意識は、今月末にかけて開催が相次ぐ株主総会を前に経営者の間でさらに高まりそうだ。ゴールドマン・サックス証券のチーフ日本株ストラテジスト、ブルース・カーク氏は経営者が自身の取締役選任に対する賛成率を気にするようになってきており、総会シーズンはガバナンス改革への関心をさらに強めるだろうと指摘した。
JPモルガン証券の西原里江チーフ日本株ストラテジストも5月末のリポートで、決算で企業改革の加速を確認したことは長期的に日本株をサポートするとの見方を示し、幾つかの注目企業を挙げた。その1社がリクルートHで、ネットキャッシュ削減のコミットメントに注目する。リクルートHは49歳の出木場久征氏が21年から代表取締役を務め、TOPIX500銘柄の中でも若い経営者の部類に入る。
利益成長率の上振れが顕著な三越伊勢丹も西原氏が注目する1社だ。江戸時代の1673年創業の呉服店「越後屋」がルーツで、百貨店不況から株価の低迷が長年続いたが、21年に就任した細谷敏幸氏(59)が経営改革に取り組んだ結果、大幅な増益を続けている。同社の時価総額は細谷氏就任以降に約4倍となり、5月には8年ぶりにオンライン衣料販売大手の新興企業ZOZOを上回った。
西原氏はトヨタにも改革の進展が見えるとしている。同社は昨年4月、佐藤恒治氏(54)がCEOに就き、その後過去最大の自社株買いを発表するなど投資家に変化を印象付けた。
しかし、伝統的に年功序列が重視されてきた日本では企業トップの年齢層は依然として他の国よりも高く、女性CEOの登用ではさらに遅れが目立つ。
女性CEO比率の国際比較
Source: Bloomberg
全ての日本企業がガバナンス改革に積極的なわけではない。関西経済連合会は昨年9月にまとめた提言で、政策保有株式の縮減や独立社外取締役比率の引き上げなどコーポレート・ガバナンス・コードが求める項目について、一律の適用は望ましくないと政府に修正を求めている。
取締役会の多様性という点でも日本は欧米に見劣りしており、独立社外取締役の比率は45%と米国の86%、欧州の69%を下回る。早稲田大学大学院経営管理研究科の佐藤克宏教授は、取締役会では「異質なものの健全なぶつかり合い」が必要とした上で、まだ多くの日本企業ではそれが欠けていると言う。
ただ、経営者の若返りが取締役会の多様性の面でもポジティブな作用をもたらしつつあるようだ。ブルームバーグのデータによると、経営者が若い企業の方が多様性の確保にわずかながらでも積極的であることが分かる。
CEOの年齢と取締役会の多様性
Source: Bloomberg
Note: Topix500指数構成企業
資産や家計の管理ツールを提供するマネーフォワードの辻庸介社長(47)は、同社のビジネスモデルは日本では新しく、欧米投資家の資金を呼び込む必要があったと説明。そのためには、強力なガバナンスを目指すことは当然で、上場以前から社外取締役の知見は成長を目指す上で役に立ったと語った。
東証の一連の改革を推進する「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」のメンバーでもあるマネクスGの松本氏も、従来は生え抜きの考え方が強くあったが、「最近は社外取締役の意見を聞こうという会社経営者が増えた。大きな変化だ」と受け止める。
さらに松本氏は、男性偏重、年功序列の人的資源配分、巨大に積み上がる内部留保、非効率な生産要素にメスを入れることで生産性を上げることが重要だと強調。「ヒト・モノ・カネの経営の3要素が最適配置されていない。最適配置が進めば、日本企業はまだまだ成長の余地がある」と見ている。
最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
まあ簡単に言うとシナジーということで
1+1=2 だけではなく
1+1=3 という世界を
数理的に表現しようとしたもののように受け止められる。