銀行の持ち合い株削減加速に期待、損保問題が契機-強固な関係に変化
浦中大我、Jin Wu、中道敬
2024年3月27日 8:56 JSTブルームバーグ
売却「第2波」の到来を予測、次の銀行株動意のきっかけに-専門家
トヨタ株保有は7550億円、ダイキンや伊藤忠株なども保有-3メガ銀
国内3メガバンクなど大手銀行による政策保有株(持ち合い株)の解消がさらに加速するのではとの期待が高まっている。戦後の日本企業の成長を支える要因の一つとされてきた株の持ち合いを通じた強固な取引関係は、近年のコーポレートガバナンス(企業統治)に対する意識の高まりから批判を受けてきた。
銀行業界はこれまでも保有株の削減に取り組んできたが、金融庁が保険料の事前調整問題を受けて損害保険会社に対し、持ち合い株式をなくすよう迫ったことで、メガバンクなどが保有する政策株式に注目が集まっている。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(FG)、みずほフィナンシャルグループの2023年3月末時点の持ち合い株の残高は約10兆円(665億ドル)。この中には約7550億円以上のトヨタ自動車株への投資も含まれる。
What Japan's Biggest Banks Own
Toyota, Daikin and Itochu are top on the list
Source: Company regulatory filings as of March 2023
Notes: Market values of "special investment shares" based on amounts on balance sheet as of March 2023. Data excludes foreign companies shares held for business alliance.
JPモルガン証券の西原里江チーフ日本株ストラテジストはインタビューで、今年は保険会社や銀行も含め、株式持ち合い解消の第二波が来るだろうと指摘。野村証券の高宮健アナリストらも18日付のメモで「今後、損保各社から政策株が売却されるようになると、銀行も売却を加速させる可能性があり、注目される」と述べた。
アムンディ・ジャパンの石原宏美株式運用部長は、日本銀行がマイナス金利を解除したいま、次に銀行株を動かすきっかけとなるのは、持ち合い解消になるだろうとの見通しを示した。
大手行の関係者らはこれまで、売却を進めれば法人顧客が他の銀行に取引を移してしまう可能性があるなどとして、政策株削減の難しさを指摘してきた。ただ、あるメガバンクの役員によると、海外投資家の圧力などもあり、状況は5年前から一変したという。
MUFGと三井住友FGの政策保有株で最大のものはトヨタだ。これは同社とこれら銀行グループとの歴史的つながりを象徴する。
しかし昨年末、トヨタはサプライヤーへの出資比率を引き下げ、他の株式持ち合いも見直すと発表。これにより銀行側もトヨタ株を減らしやすくなる可能性が出てきた。3メガバンクは他にダイキン工業や伊藤忠商事などの株式を大量保有している。
トヨタの広報担当者は、銀行の保有株にコメントする立場にないとしつつ、打診があれば売却手法やタイミングについてさまざまな影響を鑑みながら対応していきたいと述べた。
ダイキンの担当者は銀行に限らず、保有先から申し出があった場合は取引関係、先方の経営方針、両社の今後の見通しなどを踏まえ、対話に応じているという。伊藤忠の担当者は、保有は取引関係構築が目的で、原則として投資リターンの実現確度の高いものまたは将来の子会社化・関連会社化など戦略性の高いものに限定するとした。
一方、MUFGの広報担当者は、安定株主として持ち合いを重要視する企業も少なくないが、投資家と企業の対話が進んだことなどもあり、売却で同意を得られる例も増えているという。企業の資本効率への意識の高まりから、持ち合い解消が一層進む可能性も見込まれるとしている。
みずほFGの担当者は、政策保有株の削減に取り組んでおり、引き続き顧客企業との対話を通じた丁寧な交渉を進めていくと述べた。三井住友FG傘下銀行の担当者は、計画を上回るペースで削減を進めているとし、連結純資産に対する時価残高の割合が20%未満となるめどをつけるべく、着実に削減を進めていく方針と述べた。
丁寧な対応が必要
銀行が数十年にわたって保有してきた大企業の株式が外部に放出されることで、証券会社などにとっては、売却の仲介などで大きなビジネスチャンスとなる。一方、銀行は株式売却により大きな利益を得る代わりに、重要な顧客との関係を損なうリスクもある。
金融庁は昨年12月、大手損保4社に発出した業務改善命令の中で、株式持ち合いが不正行為の遠因であると指摘。損保各社は全体で6兆円超に上る保有株をゼロにすると公表した。MS&ADインシュアランスグループホールディングスは2030年3月までに、SOMPOホールディングスはその1年後に期限を設定した。
国内3メガ銀は政策保有株の売却を進めている
Source:Companies
MUFGと三井住友FGは取得価格、みずほFGは簿価
金融庁幹部は、すでに何年も前から同庁は銀行に政策保有株の売却を促しており、損保会社と同様にゼロにまでの削減を迫ることはないと述べた。
持ち合い株式は「過去何十年もの間、企業のDNAに組み込まれている」と、日本株市場の専門家であるトラビス・ランディー氏はブルームバーグのポッドキャストで今月初めに語った。 「莫大な数の関係を丁寧に解きほぐす必要がある」と言う。
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