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曽田修司の備忘録&日々の発見報告集

「これさえやっていればいい」では文化は創れない

2006-01-10 22:30:24 | アーツマネジメント
昨9日、滋賀県栗東市にある栗東芸術文化会館さきらの指定管理者選定問題をめぐる第二回市民シンポジウム「さきらはいったいだれのもの?」が開催された。
音楽ジャーナリスト渡辺和氏が第一回に続いて栗東に現地取材を敢行、前回と同じく帰路電車の中から速記録を自身のブログに公開しておられる。
ここぞという勘所を逃さない嗅覚と機敏な行動力にあたまが下がる。

その速記録にざっと目を通させてもらっての私なりの感想。

市がJRと文化体育振興事業団の提案の何を比べようと思ったかわからない、という発言が複数の方からあったようだが、結果を見れば、効率性(コストダウン)だけを比べていることはかなりはっきりしているように思える。

今回、専門家中の専門家として参加された中川幾郎氏の説明の用語を使わせていただくと、(駐車場と同じく)ファシリティとしての選定基準が適用され、大規模な専門文化施設であるにも関わらずインスティテュートとしての扱いではなかった。このことは誰から見ても明白だろう。
(管理経費の縮減という項目についての配点が非常に高かったようだし。)

市の選定基準がどこにあったかを市民から問いただしても市からははっきりした答えが出て来ないという状況のようだが、それは、答えが返ってこないことで、逆にどこに真意があったかを読み取れると考えるのが素直である。
こういう問題は、当事者がどう言ったとか言わないとかいうことではなくて、外に見える事実はこうだ、ととらえるしかない。外から見るとこう見えるというのを、事実としてとらえるのが適切である。
(もっともこのあたりはシンポジウムに参加された人たちは先刻承知のことだろう。)

シンポジウムの最後のまとめとして、どこが指定管理者になろうと、選定基準や評価基準を市民がつくって提案する、というのはアイデアとして素晴らしい。ぜひ、それを実現して「栗東方式」を確立していただきたいと思う。

それから、市が、市のサイトで「市民に対して情報公開をしています」と言っているという件。私も目を通させてもらったのだが、市の考え方の説明のうち、次の一点だけ指摘しておきたい。Q&Aの中で「いの一番」に取り上げられている質問とそれに対する回答に関してである。

→ 栗東市のサイト

(以下、引用)

Q1 「民」が管理者になることで、サービスの低下や営利第一の事業ばかりが優先されるのではないか?
A1 ㈱ジェイアール西日本総合ビルサービスが提案した計画書では、既存の文化関係団体(例えば文化協会や音楽振興会など)・さきら友の会会員の代表などが定期的に運営委員会を開催し、事業への意見や情報交換などを行うこととなっています。

(引用終わり)

このQ&Aは、端的に言うと「質問に答えていない」。

上記の回答中の「既存の文化関係団体(例えば文化協会や音楽振興会など)・さきら友の会会員の代表などが定期的に運営委員会を開催し、事業への意見や情報交換などを行う」ことは、当然、文化体育振興事業団にもできることである(当たり前すぎて指摘するのも恥ずかしいくらいだが)。

質問の本来の意味は、「経費の縮減と、文化施設本来の効用の最大化は相矛盾する面があるのではないか。とすれば、経費の縮減について優れた提案をしているJRBSの方は、その優れているという同じ理由故に、効用の最大化については逆にマイナスになるのではないか」という趣旨だととらえるべきである。

この質問に対して、上記の回答で事足れりと思っているのは、単に「効用の最大化について関心がない」、ということを問わず語りに語っているということだ。
再び言うが、書き手にそういう意図があろうとなかろうと、客観的にそう読める、ということをここでは言っているのである。

(補足)本来、上記の質問は、「㈱ジェイアール西日本総合ビルサービスが指定管理者になることで」とすべきである。「民」が、とひとくくりにするのはおかしい。それに、このような問い方では、「サービスの低下」というときのサービスの中身もいかにも表面的だ。質問の本質はこういうところにとどまるものではあるまい。

こうなると、余計なこととは思いつつ、私の以前のブログ記事をもう一度引っ張り出してきたくなる。

→ 「法に則り手続きを進めている」への疑問 (2005/12/20)

対象が何であれ、「これさえやっていればいい」というような考え方では文化は創れないのではないかと思うのだが、いかがなものだろうか。













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1 コメント

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Unknown (渡辺和)
2006-01-11 07:39:21
毎度毎度、栗東遠征から戻ってきた渡辺です。今回の速記録、なにせ中川先生という極めつけに情報量の多い方なので、翻弄されてしまい、あくまでも現時点でのメモとお考え下さい。



なお、今回のシンポジウムの感想を正直に言いますと、「最初はただ盛り上がった栗東市民も、この先のことを冷静に考えると、なかなか大変だなぁ、と思い始めた」という感じかしら。でも、運動を一過性にせずに、本気で「栗東方式」が生まれるためには、最初の契機になったかもしれないと感じました。今回の参加者の中から、本気で市政の中での文化のあり方を考える人が出てくる可能性があるかどうか。そこまでの責任を背負う、と言える人が出てくるかどうか。振り返るとターニングポイントだった、と言えると良いのですけど。



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