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曽田修司の備忘録&日々の発見報告集

トリトン・アーツ・ネットワークの評価事業報告書

2005-10-28 06:45:39 | アーツマネジメント
NPO法人トリトン・アーツ・ネットワーク(TAN)から、昨年度の評価事業報告書が送られてきた。

TANは、東京・晴海に2001年4月に誕生した新・第一生命ホールを拠点に、クラシック・コンサートの自主開催と、アウトリーチと呼ばれる地域への音楽普及活動とを2つの柱として、クラシック音楽を通じた音楽文化の振興に取り組んでいるアートNPOである。
昨年度、TANが主催したコンサートは、23公演、地元の学校や福祉施設、病院など演奏家が出向いて演奏会などのアウトリーチ活動は、51事業を数えている。

ホールの設置者である第一生命は、運営を自社スタッフによる直営にしたり、外部の専門会社に委託するというような方法をとらずに、アートNPOとの協働によって事業を展開するというやり方を取った。アートNPOによるホール運営の先駆的事例である。
アートNPOによるホール運営と言っても、TANは施設管理と貸し館事業は行わず、コンサートの主催とアウトリーチを行う。TANがコンサートを開催するときは、ホールを借りて行う形をとっている。いわば、TANは第一生命ホールを拠点とする、レジデント(ホール専属)のプロデュース&エデュケーション組織であるという言い方も出来る。そして、この活動が第一生命ホールの活動全体のイメージを決定する重要な核となっている。

なお、TANに対しては、設立の経緯から第一生命が金額面でももっとも多額の支援を行っており、また、それとともに人的資源の提供による支援も行っているが、JPモルガンや住友商事など、他の企業も協賛に名を連ねている。このように、メセナ活動を一社単独でなく共同で行うことにしたのは、どこが設置したものであろうと音楽ホールは公共のものという考え方が根底にあるから、という。

TANがきわめてユニークなのは、その定款に評価事業の実施を盛り込み、評価事業のための予算を組み、開館2年目の活動から外部の評価委員を委嘱して本格的な評価に取り組んできたことである。最初に「評価事業報告書」が送られてきたと述べたのはその成果物である(「事業評価報告書」ではないことに注意)。

報告書を読むと、第一期(2002~2004年)の評価委員からは、音楽活動の質、アウトリーチにおけるていねいな取り組み、ファンドレイジングによる経営の安定化を初めとするNPOのガバナンスの確立の面で、きわめて高い評価を得ている。
活動の規模といい、質といい、運営の安定性といい、どれも全国のアートNPOの中でもトップランナーの位置にあると言ってよいだろう。

もちろん、課題がないわけではない。例えば、「クァルテット・ウェンズデイ」というシリーズでは、クラシックの中でも(ファンの広がりという意味では)地味な弦楽四重奏を継続して取り上げている。このシリーズは質的にはとても評価が高く、シリーズの出演団体の中でもエース格で最もしばしば登場する古典四重奏団が芸術祭大賞を受賞するなど、音楽界の中ではすでに確たる存在になりつつある。
だが、700席を持つホールの規模からすると、集客において常に課題があるのも事実らしい。

(参考) → バルトーク弦楽四重奏曲全曲演奏 (2005/10/02)
     → レクチャー+コンサート (2005/10/11)

今回、評価委員会からは、これまでのTANの実績を十分評価しつつ、全国の音楽ホール運営のモデルとなるよう、さらなる高みを目指して、あらたな取り組みを検討するよう提案がなされている。その内容は、ホール運営に直接参画すること、(指定管理者制度の導入という外部状況の変化をふまえて)中央区の公立文化施設の管理運営を担うこと、の2点である。

これは、アートNPOの活動の新たな次元を切り開くパイオニア役としての期待を込めての提案だが、それを実現していくためにはさらなる組織の力量アップが必要だ。

TANの今後の取り組みに期待したい。

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