眼下に広がる赤い大地に、「これがカントリーだ」と機内から目を凝らした。しばらくすると飛行機は鮮やかな色の海と砂浜を横切って、オーストラリア北西部の町ブルームに降下した。ここはヤウルというアボリジニの1グループが住むカントリーだ。
「カントリー」とは、オーストラリアの先住民族アボリジニにとって、たんなる「国」に留まらない、特別な意味をもつ。その世界への扉を開いてくれる本に『生命の大地』(平凡社 . . . 本文を読む
作成・小田博志,開設2007年2月2日,更新2024年8月24日 北海道における「民衆史掘りおこし運動」は、北見の高校教諭・小池喜孝氏が中心となって始まり、のちに全道規模に広がりをみせた下からの歴史発掘運動です。この民衆史運動の大きな目的は、役所や主流アカデミズムが作成する「公式の歴史」では見落とされてしまいがちの「民衆」―そこには政治的抵抗者、囚人、タコ部屋労働者、女性、ウィルタ・アイヌなどの先 . . . 本文を読む
こんな人がいたんだ!と、渡辺位(たかし)さん(1925~2009年)のことを驚きをもって知った。渡辺さんは国立の医療機関に勤務する児童精神科医で、不登校の子どもたちと関わった。そういうと、子どもを学校に行かせるための「治療」をしたのかと思うかもしれない。しかし実際はその逆だった。
渡辺さんは、不登校の子どもを異常だとは考えなかった。むしろ不登校とは、学校によって自分のいのちや存在が危うくなる . . . 本文を読む
日本中を歩いて旅した民俗学者・宮本常一が、晩年にアフリカまで足を延ばした。その記録『宮本常一、アフリカとアジアを歩く』(岩波書店)に印象深いくだりがある。
「明治時代に沖縄糸満の漁夫たちは小さなサバニという漁船に乗ってザンジバルまで魚をとりに来ていたという。平和な交流は目立たないものである。しかし根づよいものがある」
モーターはなく、帆をかけた小型の木の船で、沖縄からはるばるアフリカまで . . . 本文を読む
生きとし生けるものが織り成すコミュニケーション世界
草木虫魚 獣 微生物 土 石 川 海 空 星・・・人間のコミュニケーションは、生きとし生けるものの壮大なコミュニケーション世界のごく一部なのだろう。
「木々は会話し複雑な社会生活を送っている」と専門家、私たちは木々の言葉を理解できるのか?
https://gigazine.net/news/20180101-trees-language/? . . . 本文を読む
ラダックでは、木は山ではなく、谷に生える。
インドの北の果て、ヒマラヤ山脈とカラコルム山脈に囲まれた地域で、標高は3千から5千メートルにも達する。水晶のように美しい風景が目の前に広がる。しかし気象条件は厳しい。年間降水量は100ミリメートルに満たない。冬は8カ月にも及び、マイナス20度以下に冷え込むことがある。山の地肌がむき出しになるわけだ。はるかな山頂は白い氷河に覆われている。それが夏に解 . . . 本文を読む
私たちがふだん食べる野菜や穀物は、もとをたどればタネからできる。栽培法については有機栽培や自然栽培などが意識されるようになったが、タネについてはどうだろうか。
昔は、といってもほんの数十年前まで農家がその年の実りから自分でタネを採り、次の年にまくのが常だった。僕の四国の祖母もそのようにしていたと聞く。
しかし、この自家採種はどんどん廃れていく。種苗会社がF1のタネを売り出し、広めていった . . . 本文を読む
心からお勧めしたい本たちです。
『色を奏でる』志村ふくみ(文)、井上隆雄(写真)、ちくま文庫、1998年
これまで手にしたなかで、もっとも美しい文庫本かもしれない。たった2ページの「色をいただく」という文章は、草木染めに関するものでありながら、エスノグラフィーの本質にも通じる。
『森と氷河と鯨ーワタリガラスの伝説を求めて』星野道夫、世界文化社、1996年
ソフトカバー、文庫版も出ている . . . 本文を読む
北インドのほこりっぽい道路を、タクシーで猛然と走り抜ける。ひとつ曲がって、その敷地に入ったとき、空気が変わった。穏やかで、澄んでいる。耳に聞こえるのは、鳥たちのさえずり。大麦が実った畑の前に立つと、キラキラと輝いている。いるだけで心地いい場所。ここはナヴダーニャの農場だ。
ナヴダーニャとは九つの種という意味。多様な作物の種を守るために、その農場が22年前にデラドゥンという町の近郊に開かれた。 . . . 本文を読む
青森県津軽平野に、岩木山がすべてを包み込むように裾野を広げている。2年前の春、そのふもとの小さな温泉地を車で通りかかったとき、「森のイスキア」の看板が目に入った。車を降りて、温かみのある木造の建物の前に立った。玄関の扉は開かれている。事前の連絡をしていなかったので、僕はおそるおそる近づいて行った。その姿を見て、スタッフの方(ほう)から声をかけてくださった。「どうぞお入りになりませんか」。2階のロ . . . 本文を読む
北海道大学に正門から入ってしばらく歩くと、木立の間を川が流れている。この川はアイヌ語で「サクㇱコトニ」という。アイヌ語地名研究の第一人者、故山田秀三氏によると「浜の方(豊平川に近い方)を通るコトニ川」の意味である。「コトニ(くぼ地)」から水が湧いてできた川だ。都市化により湧水は枯れ、現在は水を人工的に引いている。
このサクㇱコトニ川に沿ってアイヌ民族のコタン(集落)があったことを僕が知ったの . . . 本文を読む
『エスノグラフィー入門―〈現場〉を質的研究する』(春秋社)を補強する特設ウェブページ作成 小田博志、 開設 2010年4月26日/更新 2024年7月26日『改訂版 エスノグラフィー入門』が2023年に出版されました。そのまえがきと修正項目一覧は以下の通りです。『エスノグラフィー入門』改訂版まえがき.pdf『エスノグラフィー入門』改訂項目一覧.pdf以下の正誤・修正表は2010年発行の旧版に関する . . . 本文を読む
「まず土をみなさい」が木村秋則さんの最初の教えだった。今年僕は後志管内仁木町の自然栽培農学校に通った。講師はリンゴの無農薬・無肥料栽培に成功した木村さん。仲間たちと仁木の畑で楽しく学んだ。実ったリンゴを口に含めば折り畳まれていた味が次々に広がるようで、そのおいしさに驚いた。
木村さんは青森県弘前市のリンゴ農家だ。妻が農薬の健康被害に悩まされ、無農薬でリンゴ栽培に挑戦。だが6年間何も実らず家族 . . . 本文を読む
経験のとぼしい初心者が、思いもかけず大きい仕事をなしとげることがある。周りの者は無謀だと止めるかもしれない。本人も不安に陥ることがあるだろう。何がそれを乗り越える力になるのだろうか。
特別展「志村ふくみ―母衣(ぼろ)への回帰―」(京都国立近代美術館で開催済み、東京・世田谷美術館で9月から開催予定)で、印象に残る言葉に出会った。志村ふくみさんといえば人間国宝であり、押しも押されもせぬ染織の大家で . . . 本文を読む