だからちがうんだってば.

ブログ人から引っ越しました

地方税と社会保障

2012-04-14 14:03:29 | 授業ネタ

土居さんの記事:「消費税の地方税化」私ならこう考える

さすがによくまとまってるなあというか,いつ書いたんだろうなあというか,やっぱり影武者が2,3人はいるんじゃなかろうかというか,と思いました.基本的にはいつものはなしといえばいつものはなしで,最初の段落がちょっと冗長な感じがするのもお人柄が表れていてすばらしい.論点としては「社会保障において最終的な支出元となるのは、社会保障給付の約8割が地方自治体」となっている状況下で,

  1. 社会保障財源の問題は「地方負担」といいながら純粋に地方税での負担になっていないこと
  2. 「国庫負担」といいながら赤字国債で負担を先送りしていること
  3. 社会保障の給付と負担に世代間格差がありながら、高齢者(特に高所得者)の保険料負担を軽減していること
  4. 社会保障財源の負担にまつわる地域間格差を是正する仕組みとして地方交付税と国庫負担における地域間調整の2つがあるが役割が複雑・不明確で、逆に地域別に見た受益と負担の関係が不明確になっていること

なんだそうですよ.社会保障給付が,公共資本みたいに10年も20年も役に立つとは考えにくくて,すぐに使ってしまう支出とみなせることを考えれば(健康資本とか言い出すとまた別ですが),2番目の点は問題だろうなあと思うし,基本的には社会保障は恵まれている人からそうでない人への金のやり取りなので3番目の点も問題だろうなあと思います.1番目の点は地方交付税交付金があるので,名前としてはよろしくはない気もしますが,「地方交付税は地方固有の財源である!」と思えば,地方負担といえば地方負担かしらいやどうなんだろう,というところですか.4番目の点はよく分かりません.社会保障についてこれって問題なのかしらん.

公園とか道路とか公民館とか図書館とか,基本的にはその地方に住んでいる人が使うもので,利用料だけで建てるのにはなんらかの意味で問題があるとき(市道を走るときに料金は取りずらい,とか)に.税金で払いましょう,税金はやっぱり金持ちにそれなりに負担してもらいますがそれはその地方とかコミュニティの負担の配分の問題なので,地方全体でみれば受益と負担が一致しているほうがよかろう,というのは,そうかなあ,という議論ではあります.その地方の人しか使わないのにお金は他から取ってくる,っつうのはあんまり正しい話じゃないかなあと.その地方の人が全般的に金持ちじゃないので,それにともなって道路や公民館がちょっといまいちであっても,国道なんかはちゃんとしているのなら,まあそれでいいか,と思われるのかもしれません.

社会保障はそうではなくて,基本的には豊かな人がそうでもない人(病気になった金持ちは,社会保障の文脈では基本的には「そうでもない人」になります)へお金を渡す,という話になります.子どもへの医療費助成に地域差があるというのは知られた話なのでしょうが,何歳までの医療費をタダにするかを地方が決めてもいいよ,でも財源も自分でね,となるとどうなるでしょうか.たとえば中学校まで子どもは全員医療費は無料にします!といったとき,子どもが少なく大人が豊かな地域ほど税率の上げ幅は小さくなり,子どもが多く大人が貧しい地域ほど税率の上げ幅は大きくなります.「うちの町は貧乏なので子どもの医療費もあんまり助成しません」とか,「うちの町はお金があるので子どもの医療費は全部助成します」とかいう差が発生します.

同じ子どもなのにうっかり住んでいるところがちがうばっかりに受け取ることのできる公的サービスに差があるのも,「そうでもない人」に同等のサービスを提供するために住んでる所によって税金が異なってしまうのも,地方分権の帰結なのでそれはしょうがないとみるならそれはそれで一つの見識でしょう.公的サービスが充実しているところに引っ越すかもしれないし.もし,「そうでもない人」の処遇について,「うちの町の人たち」と外の人たちを分けて考える市民が多ければ,そもそも差があることは問題にならないはずですから,分権したほうがいいんでしょう.あるいは,そういう差があるのはよくないので,直轄事業にして単独事業は認めないことにしようというのも一つの見方でしょう.そのときには執行も国が行うことになりますし,この理屈では生活保護を地方に執行させているのも見直さないといけません.また,上乗せ横出しを認めずにでも執行は地方にやらせる,だって地方のほうが住民に「近い」から,という現在の仕組みに近い制度もそんなに悪くない気もします.でもこのばあい,執行のための補助金を出す必要があるので,地域内で「受益」と「負担」は当然に一致しません.

きっとこれに,執行のコストの差(「政府部門の無駄遣い」とか「やる気の差」とか)とか,海外との関係とか,がからんできて話がややこしくなるんだろうな.まあ,制度がややこしくてわけわからん,というのもあんまりいい話じゃないような,でもそれでなんとなく納得してくれるんだったらしょうがないような,もやもやしたところですねえ.