詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(102) 

2019-03-30 10:26:17 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
102  高名な哲学者の学校から

 若者が哲学にあきて政界に入る。つまらない。キリスト教徒にもなってみた。でも、つづかない。両親から「小遣い」ももらえなくなった。そこでアレクサンドリアの快楽の巣窟の常連になった。

この分野では彼は実に幸運だった。
彼はぬきんでた美貌にめぐまれていたから、
この神々の贈り物をおおいに楽しんだ。

少なくともまだ十年は
彼の美しさは変らないだろう。その後は--
若いときのようにまたサッカスのもとへ行こう。
もしもその間に老哲学者が死んでしまっていれば
別の哲学者かソフィストのところでもいい。
しかるべき師はかならずみつかるはずだ。

 快楽の追求(快楽への耽溺?)と哲学が同じ比重で語られている。これはカヴァフィスの思想なのだろう。
 おもしろいのは「しかるべき師はかならずみつかるはずだ。」という一行。
 ここでの「師」は「哲学者」あるいは「ソフィスト」を指すのだろうが、私はほかのことも考えてしまった。
 この若者が快楽の巣窟の常連になったのも「師」がいたのではないか。政界入りしたのも、キリスト教徒になったのも「師」がいたのではないか。
 「師」をあてにするという「習性(くせ)」があるのだろう。それは両親から「小遣い」をもらうというところにも反映している。かれはいつも自分以外の何かを「あて」にしている。
 池澤は、

最も注目すべきはこの詩の舞台が三世紀のアレクサンドリアに置かれている点で、少し見かたを変えればこの町の方が主役とも考えられる。(略)禁欲から荒淫までの幅広い帯域をひろげた都市の像を我々は見るのだ。

 と書いている。すべての「師」がいたということだろう。都市そのものが「師」であった、ということだ。




カヴァフィス全詩
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1 コメント

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池澤夏樹のカヴァフィス102 (大井川賢治)
2024-05-11 15:12:16
紀元3世紀、アレクサンドリアという地中海の都市には、禁欲と荒淫という幅広い、文化または文明があったという。不思議ですが楽しいですね^^^

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