詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(33)

2018-03-17 08:52:59 | 谷川俊太郎『聴くと聞こえる』
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(33)(創元社、2018年02月10日発行)

 「泣いているきみ」。一連目を私は繰り返し読む。

泣いているきみのとなりに座って
ぼくはきみの胸の中の草原を想う
ぼくが行ったことのないそこで
きみは広い広い空にむかって歌っている

 「泣いている」で始まり、「歌っている」と終わる。主語は「きみ」。ただし、「泣いている」の「きみ」は現実の「きみ」。「歌っている」の「きみ」は、ぼくが想像している「きみ」。
 どうして「泣いている」人間から、「歌っている」人間を想像するのか。
 ここにある「切断」と「接続」が詩である。
 「泣いているきみ」の「となりに座る」。何ができるわけではない。何もできない。でも、座っている。
 声をかけるでもなく、想像する。
 ここに、こうして座っていれば、やがて晴々とした笑顔に戻る。草原で、広い広い空にむかって歌っているきみに戻る。「胸の中の」きみが、「いま/ここ」にあらわれるのを待っている。
 ほんとうは「泣いているきみ」の「となりに座っている」のではなく、「歌っているきみ」の「となりに座っている」。
 こういうことが想像できるのは、「ぼく」が「きみ」を知っているからだ。「知っている」は「好き」ということだ。

 書きたいことはたくさんあるが、ここまでにする。
 これ以上書くと、一連目を読んだときの「うれしい」気持ちが台無しになる。





*


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目次

小川三郎「沼に水草」2  岩木誠一郎『余白の夜』8
河邉由紀恵「島」13  タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21  最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28  鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37  若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47  佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64  及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
     *
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(上)83

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2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com


聴くと聞こえる: on Listening 1950-2017
クリエーター情報なし
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