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エッセイとショートショートと―あちこち話が飛びますが

「加速」

2006-10-22 08:45:34 | ショートショート
 4年ほど前、転んだ拍子に頭を強く打って以来、どうも頭の調子が変じゃないのかと思うようになりまして。気にするまいと思うとますます気になって、つまりは悪循環で、しだいに奇妙なことが起きるようになってしまったんです。
 最初のころは単なる偶然だと思っていたんですが、こうもたび重なると、一概にそうとも言い切れなくなってきましてね。

 つまりこうです。何ていうか、符合するんです。ちょっと頭に浮かんだことが、現実となってしまうんです。例えば、誰か友達のことをふと思い浮かべると、そいつから電話がかかってきたり、コーラでも飲みたいな、と思いながらテレビをつけると、突然コーラのコマーシャルが目に飛び込んできたり、あした雨かな、などと考えていると、雨がどうとかいう歌がどっからか聞こえてきたり…。
 正夢といって、夢に未来が現われるというのはよく聞きますけど、こっちはちゃんと目をさましているんですからね。

 ま、この程度ならまだ身近で大した実害もなかったんですが、最近になってその偶然の一致の範囲が拡がってきまして、さらに、それが起きるまでの時間というのが、だんだんと長くなってきているみたいで。
 空を見上げながら飛行機が墜落したらどうなるんだろう、と考えていたら、1週間後にどこかの国で飛行機が墜落してしまったり、推理小説を読みながら自分でもアリバイのトリックなんかを考えていたら、1ヶ月後にそれとそっくりな事件が実際に起きたり、大地震のことを考えた時は、半年後に…。
 もちろん、思いついたことすべてが現実になるというわけではありません。そうでないものとは…うまく説明できませんが、はっきりした違いがあるんです。これまでの経験で、それはわかるようになりました。

 それで、僕は思い浮かべてしまったんです。実際に起きるのがいつなのか、正確なことはよくわかりませんが、数十年後でしょうか。見えてしまったんです、何だか…うまく表現できませんが、とてつもなく怖ろしい事態が。
 …その後、ですか。ああ、そういった奇妙な感覚はすっかりなくなってしまいました。おかげさまで、はい。

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