ワインバーでのひととき

フィクションのワインのテイスティング対決のストーリーとワインバーでの女性ソムリエとの会話の楽しいワイン実用書

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 79ページ目 マジシャンソムリエとの対決   

2012-03-30 21:21:18 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【79ページ】


狩野は、ブランショの入ったグラスを右手で持ち上げ、頭の後に回した。


「高木社長、このグラスは何でしょうか?」

「『水』!」


高木は、狩野の言葉につられて思わず答えてしまった。


狩野は、左手も頭の後に回し、グラスを左手に持ち直して、前に持ってきた。


「高木社長、お水をどうぞ!」


高木は、グラスを受け取ると、香りを嗅いだ。

しかしワインの香りがしない!

頭をかしげながら、一口含む。


「水だ!、ブランショが水に変わっている!」


結局、高木社長は、ブランショを飲むことができなかった。

そして、テーブルには、シャブリ・グラン・クリュのプリューズだけが残っている。


「最後の一本は、プリューズです。」


狩野は、箱をプリューズの横に置き、箱の正面を開けた。


「高木社長、プリューズを箱に入れてください!」


高木は、狩野に言われた通りに、プリューズを箱に入れた。

そして、狩野によって箱は、閉じられた。

次に、狩野は、細長い剣を八本用意した。


「これらの剣でワインの入っている箱を突きます。」


狩野は、一本目の剣を箱の正面の中央部から奥へ突き刺した。


ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 78ページ目 マジシャンソムリエとの対決  

2012-03-29 23:23:29 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【78ページ】


「私も和さんの意見に賛成です。」


高木は、うなずきながら言った。


「それでは、ミルクではなくブランショを飲みましょう。」


狩野は、さっとハンカチを取り払った。


「おっ!」


高木が感嘆の声を発した。


「ミルクだ!」


ブランショのラベルがミルクのラベルに替わっていた。


「和音さんと高木社長が、ミルクよりシャブリ・グラン・クリュのブランショを

お望みだったので、ラベルだけミルクに替えました。ご安心ください、中身は

ブランショのままです。」


「我々が、ミルクを希望したら、中身もミルクに替わっていた?」


和音が、狩野に訊ねた。


「マジックは、相手との心理戦でもあるのです。できることもあれば、

できると見せかける場合もあるのです。」


狩野は、ミルクに替えることができたかどうか、曖昧に答えた。

そして、ブランショを抜栓し、二人の為にグラスに注いだ。


「和音さん、どうぞ!」

「おっ、正真正銘のブランショだ!」


「高木社長もどうぞ!」

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 77ページ目 マジシャンソムリエとの対決  

2012-03-28 22:54:52 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【77ページ】


「最初にテーブルに置かれていたブランショは『ミルク』だったから、

ハンカチを取り払えば当然『ミルク』でしょう。」


高木社長は、自信を持って言った。


「和さんもそう思うでしょう?」

「ええ、私が考えていたのは、『ミルク』と『水』の違いです。」

「それで、その違いが判りましたか?」


狩野が聞いた。


「『ミルク』のミルは、物を見るの『見る』では?」

「では、『水』は?」

「『水』は物を見ないの『見ず』だと思います。我々から見えるブランショは

『見るク』で、どこかのレストランで、誰かが飲んでいるブランショは我々から

見ることができないので『見ず』です。」


和音は、自分の推理を述べた。


「その通りです。 ハンカチを取り払うと、和音さんと高木社長から見ることが

できるので『ミルク』になります。」


狩野は、テーブルに近づき、ハンカチに手を添えた。


「このハンカチを取り払うとブランショがミルクになりますが、ミルクを飲みますか?」


「ええ? 本当にミルクになるの? どうします?」


高木が、和音に聞いた。


「狩野さんのマジックを見たい気がしますが、ミルクを飲むのはどうも・・・・」

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 76ページ目 マジシャンソムリエとの対決  

2012-03-27 20:32:04 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【76ページ】


 この後3人は、シャブリの特級畑名のヴァルミュールを飲みながら、

ブルゴーニュワインの不思議さと奥深さについて話し合った。


 ブルゴーニュの赤ワインはピノ・ノワール、白ワインはシャルドネといったように、

ほとんどのワインが単一のぶどう品種から造られている。

しかし造り手や生産地によって、ブーケやアロマの香りや味わいが異なるワインになる。


「さて、シャブリ・グラン・クリュも残りブランショとプリューズになりました。

和音さん、どちらを先に抜栓しましょうか?」


狩野が和音に聞いた。


「高木社長がよろしければ、ブランショをお願いします。」

「私もそれでいいですよ!」


狩野は、ブランショをプリューズから離して、置き直した。


「言葉の遊びをしながら、ブランショを飲みましょう。

テーブルに置かれたブランショは『ミルク』です。そしてワインショップで販売

されているブランショは『水』です。」


狩野は、ブランショを抜栓し、二人のグラスに注ぎ、和音と高木に手渡した。


「さあ、飲んでください。 お二人が飲んでいるブランショは『ミルク』です。

そして世界のどこかのレストランで誰かが飲んでいるブランショは『水』です。」


狩野は、テーブルのブランショにハンカチをかけた。


「ハンカチに覆われたブランショは『水』です。ハンカチを取り払うと何に

なるでしょうか?」

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 75ページ目 マジシャンソムリエとの対決  

2012-03-26 21:15:30 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【75ページ】


「それでは、ローソクの火を消します。」


狩野は、トランプのカードを一枚抜き出し、人差し指と中指の間に挟んだ。

そして、両指から放たれたカードは、ローソクに向かって飛んで行き、ローソクの芯

をかすめて飛び越していった。


「おっ!」

二人は、ローソクの火が消えたと思って感嘆の声を上げた。

しかし、炎は再び点った。

もう一ミリ芯の下にカードが当っていれば、完全に消えていたのだが・・・・。


「残念ですが、ローソクの火を消すことができませんでした。」


狩野は、申し訳なさそうに言った。


「ワインマジックは失敗です。 ヴァルミュールを赤ワインに替えることができません

でした。」


「和さん、ヴァルミュールをいただきましょうか?」


高木社長が言った。


「ええ、いただきます。 狩野さん、ひとつ聞いてもいいですか?」

「何でしょうか?」

「もし、ローソクの火が消えていたら、赤ワインに本当に替わったのですか?」

「私は、マジシャンですから!」


狩野は、和音の質問をかわした。

彼は、箱の中から、シャブリ・グラン・クリュのヴァルミュールを取り出し、

二人のグラスに注いだ。