ワインバーでのひととき

フィクションのワインのテイスティング対決のストーリーとワインバーでの女性ソムリエとの会話の楽しいワイン実用書

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 30ページ目 手の平のブドウのあざ   

2013-01-31 23:08:48 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
 【30ページ目】


「なあーに?」


 良子は、目を輝かせながら訊いた。

和音は紙袋から箱を取り出して、良子に手渡した。


「開けてもいい?」


 和音はうなづく。


「わっ、素敵な赤と青のワイングラス! 

ワイングラスにはスミレのデザインも描かれているわ!」


 良子は、とても気に入り、喜んだ。


「これは、切子のワイングラスだよ!

この作家の切子のワイングラスはあるコレクターの人が独占していて、

一般には流通していないそうだ!

彼のコレクションの中から特別に譲ってもらったものなんだ。」


「そんなに貴重なものを私に? 和さん、ありがとう!」


 良子は、赤の切子のワイングラスと青の切子のワイングラスを交互に

見比べた。


「このスミレは、ヨーロッパの有名な食器やティーカップに描かれているのとは違うわ!

そして赤と青のグラスに描かれているスミレの形も違うのね?」


「それらのスミレは西洋スミレではなく日本スミレだよ!

その日本スミレには名前がついていて、赤の方がゆうぎり、青の方がみすずだそうだ!」

「そう? 女性の名前がついているんだ!」

 

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 29ページ目 手の平のブドウのあざ  

2013-01-30 23:02:12 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【29ページ】


 マスターは、今夜の和さんは何か変だと感じた。


「出張の疲れかな?」

と思いを巡らしているとき、田辺 良子が店にやって来た。


「美紀さん、こんばんわ!」

「田辺さん、いらっしゃい!」


 店内に入った良子は、和音を捜した。


「まだ出張中かしら?」


 いつもの奥のカウンター席に座っている和音に気付かなかったのだ。

オオカミグッズのワインバーでは、和音は特別のオーラを放っていた。

しかし今夜の和音は、存在感のないお客がワインを飲んでいる感じであった。


「マスター、今晩は!」

「やあ、いらっしゃい!」


 マスターは挨拶しながら、良子がこの店でテイスティングしたワインのラベルを

手渡した。 

そして良子の耳元でそっと囁いた。


「今夜の和さん、ちょっと変だよ!」


 良子は、マスターの囁きで、和音が店に来ているのを知った。


「あら、和さん、今日は静かに飲んでいるので気付かなかったわ!」

「やあ、お疲れ!

今夜は、良子さんにおみやげがあるのだよ」

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 28ページ目 手の平のブドウのあざ  

2013-01-29 20:14:53 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【28ページ目】


「マスター、これ馴染みのお客に飲ませてあげて!」

「シャトー・ラトゥールですね? こんな高価なワインを! 」

「いつものように」 和音が言うと、

「ええ、田辺さんが来てから開けます。

和さんには、いつもプレミアムワインをいただいているでしょう。

今日は私からボルドーのサン・テミリオンのワインをサービスさせて頂きます。」


マスターはシャトー・ラトゥールを置き、ワインを取り出すと、抜栓してグラスに

注いだ。


「さあ、どうぞ!」


マスターの注いだワインは、シャトー・パヴィであった。

シャトー・パヴィは、4世紀にサン・テミリオンで最初にブドウが植えられた畑を持つ。

ブドウ品種比率は、メルロ70%、カベルネ・フラン20%、カベルネ・ソーヴィニヨン10%

である。


「おいしいワインだね! シャトー・ペトリュス?」


 和音は、真顔で聞いた。


「和さん、冗談がきついですよ!」


 和音が左手に、持ち替えてもう一口飲んだ。


「そう、マスターがサン・テミリオンのワインをサービスと言っていたからね?

ワイン名は?」

「シャトー・パヴィですが・・・・」









ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 27ページ目 美しい切子のワイングラス  

2013-01-28 22:31:45 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【27ページ】


「引き分けですか?」


 和音も残念そうな表情を見せた。


「引き分けだと人魚のペアのワイングラスはいただけませんね?」

「ええ、私が負けたらの条件でしたから」


 そこで鯵元社長は、ハッと気が付いて心の中で呟いた。


「そうか私が負けないように、同じシャトー・トロタノフ3本を揃えたのが失敗か・・・

私が簡単に答えたため、桐山先生の切子のパワーを最大限に生かせなかった。」


 鯵元社長は、切子のワイングラスを並べているボードに近づき、スミレのペアのワイングラス

を取り出した。このスミレのワイングラスは、人魚のグラスに次いで2番目にお気に入りの

ものであった。


「和さん、今回のテイスティング対決は引き分けでしたが、メルロの対決では私はワイン名の答えを

知っていました。だから引き分けと言っても、実質負けに近い引き分けです。

だから、私の2番目にお気に入りのこのスミレのペアのワイングラスを持って帰ってください。」


「ほんとにいいのですか?」

「ええ、どうぞ!」


 鯵元社長は、スミレのペアのワイングラスを箱に詰め、専属ソムリエからおみやげ用のシャトー・ラトゥールを

受け取り、両方を袋に入れ和音に手渡した。

和音は左手で受け取った・・・・・。

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 26ページ目 美しい切子のワイングラス  

2013-01-27 23:24:43 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【26ページ】


 和音は、ワイングラスをテーブルに置き、ワイングラスを手の平で包み込むように

持った。


「うむ!」


 和音は、うめき声をあげた。

手の平に、グラスのぶどうのデザインから発する強い気を感じたのであった。

和音は手の平に力を込め、さらに強くグラスを握った。

そしてグラスのぶどうのデザインから発する気が弱まったと感じた後、

グラスを左手に持ち替え、再度テイスティングをおこない、ワインを飲み干した。


「さて、和さんの答えは?」

「鯵元社長と同じ答えになりますが、シャトー・トロタノワです。」


 和音がワイン名を答えた後、ちらっと彼の手の平を見ると、ぶどうの

デザインのようなものが黒く写っていた。


「それでは、二人の答えを確認しましょう。」


 鯵元社長の専属ソムリエは、最初に社長がテイスティングしたワインの紙を

取り払った。

そこから現れたラベルのワイン名はシャトー・トロタノワ!

そして和音の方のワインを覆っている紙も取り払った。

そのワイン名もシャトー・トロタノワだった!


「和さん、どちらも正解で、今回のテイスティング対決は引き分けです。」


 鯵元社長は、残念そうな表情を浮かべて言った。