ワインバーでのひととき

フィクションのワインのテイスティング対決のストーリーとワインバーでの女性ソムリエとの会話の楽しいワイン実用書

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 9ページ目 美しい切子のワイングラス

2012-08-30 05:58:10 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【9ページ】

鯵元は和音の大きな声に驚いた。


「テイスティング対決で勝利した時、人魚のワイングラスからこのかぐや姫のワイングラスに

変更してもよろしいですか?」


鯵元は、できればそうしてほしいと思った。

人魚の切子のワイングラスは彼の一番のお気に入りだからである。


「いや、また負けることを想定してしまっている。」


鯵元は、こころの中でつぶやき、首を振った。


「この月とかぐや姫の切子のワイングラスは、私が手に持っている光輝く竹のデザインの方は私の

普段用に、和さんの持っている月を見つめるかぐや姫のデザインの方はゲスト用として使用して

いるのです。」


鯵元は、和音の心理戦に揺さぶられているので、反撃をしようと思った。


「万が一!」鯵元は万が一を強調して、

「万が一、和さんが勝利した時は、やはり未使用の人魚のワイングラスを持ち帰ってください。」

「万が一の勝利の時、」


和音は鯵元の言葉を繰り返して、挑発するかのようにニタっと笑った。


「そのようにさせていただきます。

ところで、私の知人のシャトーのオーナーは、ワイン造りは苦労が多いと言っています。

どれだけ努力して最善をつくしても、天候に恵まれないと、このおいしいシャトー・ラトゥールの

やヴィンテージ1990年や1995年のすばらしいヴィンテージにはならないですよね?」

「私もワイン造りには苦労が多いと思います。 おや?」


ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 8ページ目 美しい切子のワイングラス

2012-08-28 19:26:15 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【8ページ】


鯵元の一番のお気に入りのペアグラスを要望され、もらったも同然との和音の態度に

鯵元は動揺した。


「他のペアグラスにしましょうか?」


和音は、笑いながら訊いた。


「いかん、いかん心理戦で負けている!」


鯵元は心の中で叫んだ。


「いいえ、その必要はありません! 

和さん、ワインの準備ができましたのでテーブルの方へ移動しましょう。」


テーブルの横で、鯵元の専属ソムリエが準備を終え、待っていた。

テーブルの上には紙でラベルを覆っているワインが並べられている。


「今夜は、シャトー・ラトゥールを味わっていただきたと思います。」

「シャトー・ラトゥールはメドックの五大シャトーの中で非常にスケールが大きく

男性的なワインと言われていますね?」

「ええ、カベルネ・ソーヴィニヨンの力強さが好きなのです。」と鯵元が言った。


社長の専属ソムリエが、シャトー・ラトゥールを抜栓し、切子のワイングラスに注いだ。

プライベートワイン会で用意されたグラスは月とかぐや姫をデザインされたものであった。


「とてもおいしいワインですね? 

そしてブルーの切子のワイングラスがワインをさらにおいしくさせる!」

「和さんに喜んでもらってうれしいです。」

「鯵元社長!」

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 7ページ目 美しい切子のワイングラス

2012-08-26 20:33:50 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【7ページ】


 切子職人の桐山が鯵元を訪れた翌日、プライベートワイン会が開催された。

招待を受けた和音は、鯵元の部屋に通され、彼の切子のワイングラスのコレクション

を眺めていた。

オリンピックの選手がデザインされたペアのワイングラス、星座のペアワイングラス、

海と人魚のペアのワイングラス、日本スミレのペアのワイングラス、那智の滝のペアの

ワイングラス、尾瀬ヶ原の水芭蕉のペアのワイングラス等々・・・・・。


「すばらしい切子のワイングラスですね?」


和音は、それらに魅せられた。


「作者は有名な方ですか?」

「いや、私がすべて独占しているので、彼の作品は世に出回っていないのです。

近い内に個展を開いてあげようと思っているのですよ! 製作者の切子職人の桐山さんには

まだ話していませんが。」

「ぜひそうしてあげてください。」

「ところで和さん、いや失礼和音さん!」

「和さんでいいですよ。和音は言いづらいですから。」

「それでは和さん、今日お願いしているテイスティング対決で私が負けたら、これらのコレクション

中からお好きなペアグラスを持って帰ってください!」


鯵元は、自信を持って言い切った。


「それでは美しい人魚のペアグラスを頂きます。」

「そ、それは・・・・。」





ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 6ページ目 美しい切子のワイングラス

2012-08-25 06:52:55 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【6ページ】

 
 鯵元は、カベルネ・ソーヴィニヨンの切子のワイングラスを手に取り、じっと見つめた。

そしてグラスを口元に近づけ、ワインを飲む仕草をした。


「なんて力強い骨格のワインなんだろう!」


鯵元はさらに一口飲む。


「そして深みのある果実味、又上品な渋味も感じる!」


鯵元は、グラスのワインを飲み干した。


「さらに繊細さを極めた気品ささえ感じ取ることができる!

私でさえ、カベルネ・ソーヴィニヨンに由来する特徴を強く感じることができる。」


 鯵元は、カベルネ・ソーヴィニヨンの切子のワイングラスをテーブルに置き、もうひとつの

メルロのグラスを手に取った。

そして、先ほどと同じように、グラスを口に近づけ、飲む仕草をした。


「なめらかでたっぷりした果実味を感じる!

プラムを思わせるような艶やかな酸味がある。」


鯵元は香りを嗅ぐ仕草をした。


「カシスやブルーベリー、ブラックベリーの甘い香りが香り立つ!

このグラスで和さんがテイスティング対決用のワインを飲んだら混乱するに違いない。」


鯵元は、メルロのグラスをテーブルに戻した。


「先生、すばらしい! ありがとう!」


鯵元は、この二つの切子のワイングラスがあれば、和音に勝てると確信した。

桐山は、メルロの切子のワイングラスに鯵元が気付かなかった秘策の仕掛けをしていることを告げた。

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 5ページ目 美しい切子のワイングラス

2012-08-23 22:53:18 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【5ページ】


 鯵元は、彼の秘策を桐山に伝えた。

それは、桐山の切子のワイングラスに、ブドウのデザインを入れて、

その気を和音に感じ取らせ、彼の味覚を狂わすというものであった。


「難しいご依頼ですね? 写真のブドウを参考にして、グラスにデザインを掘っても

気を発するものにできないでしょう。」


桐山は、額に手をあて考える仕草をした。


「本物のワイン用のブドウを取り寄せることはできますか?」

「本場フランスからカベルネ・ソーヴィニヨンとメルロのブドウ品種を空輸で取り寄せましょう。」

「プライベートワイン会は二ヶ月後でしたね?来月の切子のワイングラスの製作は

休ませていただき、テイスティング対決用のワイングラスの製作に集中しても

よろしいですか?」

「ええ、ぜひそうしてください」


 プライベートワイン会の前日に、桐山が切子のワイングラスを携えてやって来た。

鯵元と桐山は、挨拶もそこそこにワイングラスの話に移った。


「先生、お待ちしていました!」

「ぎりぎりになり、申し訳ございません。やっと自信作が出来上がりました。」


桐山は、箱から切子のワイングラスを取り出し、テーブルに並べた。

テーブルの上には二つのワイングラスが置かれ、ひとつはカベルネ・ソーヴィニヨン

のデザイン、もうひとつはメルロのデザインである。

どちらもボルドーワインの主要品種であった。