ワインバーでのひととき

フィクションのワインのテイスティング対決のストーリーとワインバーでの女性ソムリエとの会話の楽しいワイン実用書

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 94ページ目 タブレットを操るソムリエ 推測通り

2013-05-13 23:30:47 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【94ページ】


 滝川は、秋月の記したワインリストと彼のメモしたワインリストを見比べた。


「うーん」と滝川が唸った。


 そして彼はもう一度2枚のワインリストをじっくり見比べた。


「秋月さん1品以外は、すべて秋月さんの推測通りだ!

どうして判った?」


 滝川は、信じられないといった表情を見せながら訊いた。


「そんなに難しくなかったですよ!」


「ワインを飲みながら話してくれないかね?」

「はい。」


 滝川社長の専属ソムリエはワインを手に持つと、手際よく抜栓し、二つのグラスに

注いだ。


「さあ、飲んでください。」


「いただきます。」


 滝川社長の用意したワインは、彼のお気に入りのシャトー・オー・ブリオンの1990年

であった。

シャトー・オー・ブリオンはメドック格付け一級の五大シャトーのひとつである。

シャトー・オー・ブリオンはメドック地区ではなくグラーヴ地区にあるが、格付け当時あまりに

有名だったため地区外から格付けされた。


「ワイン通倶楽部のメンバーにはそれぞれお気に入りのワインがあります。

滝川社長のシャトー・オー・ブリオンのように。」

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 93ページ目 タブレットを操るソムリエ 和音は神懸り的? 

2013-05-12 23:25:27 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【93ページ】


 秋月は毎週休日に、マリーナタウンの常連客である食品輸入商社の社長の

滝川の邸宅に呼ばれている。

滝川は秋月の才能に惚れていて、彼のためにプレミアムワインの試飲会を

催しているのである。


「休みの度に呼び出して悪いね?」

「いいえ、いつも滅多に飲むことのできないプレミアムワインを飲ませて頂き

感謝しています。

ところで、社長からのメールで、和音さんの今までのテイスティング対決者の

メンバーと伝説を確認させて頂きました。」

「どんな感想を持った?」


 滝川社長は、秋月の反応を聞きたかった。


「ワイン通倶楽部の対決者は、和音さんの神懸り的なテイスティング力に驚き、

テイスティングにかけては、トップソムリエも敵わいと伝えています。

そしてテイスティングの言葉には、まるでそのワインのエピソードがイメージ

として浮かんでいるかのように感じると言っています。」


 滝川社長は大きく頷いた。


「しかし、真実は違うのです!」

「私がメンバーから聞いた話は本当でないと?」

「メールには、テイスティング対決で使用したワインは伏せて頂きました。

これが私が予想したワインのリストです。」


ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 92ページ目 タブレットを操るソムリエ  ラストーではない!

2013-05-11 22:46:32 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【92ページ】


 早い、秋月はすばやくテイスティングを行ない、素早く答える。

そして二つ目のグラスを手に取り、口に含む。

「果実味がたっぷりで、豊かなアロマ、これはジゴンダス」


 仲間の3人のソムリエは、そんなに早くワイン名を見分けることができるのか?

と感心して眺めている。

秋月は三つ目のグラスを手に取った。


「たくましい、しかし素朴さを兼ね備えた濃密なフルボディ、これはヴァケラス」


 すると残りのワインはラストー? ラストーは先程テイスティングを行ない、

タブレットでも味覚評価を確認しているので、彼はすぐ答えられるはずである。

秋月は一番左端のグラスを手に取り、一口で飲み干した。


「うむ? 先程のラストーは複雑なスパイスの妙を感じ取ることができたが・・・」


 秋月は心の中で呟いた。


「これはラストーではない! そしてマリーナタウンのハウスワインのシャトーヌフ・デュ・パフ

でもジゴンダスでもヴァケラスでもない!」


 秋月はそう言って、3人の顔を見回した。


「熟成感を味わえるふくよかなワインですね?

これはシャトーヌフ・デュ・パフの新規のワインでは?

もしそうなら。マリーナタウンのハウスワインとして採用に一票を入れます。」


「パーフェクト!」 

「秋月さんはすごい!」

「天才だ!」3人のソムリエはそれぞれ感嘆の声をあげた。

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 91ページ目 タブレットを操るソムリエ  南部ローヌの飲み比べ

2013-05-10 23:10:31 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【91ページ】


 秋月がタブレットで彼の飲んだシャトーヌフ・デュ・パフのブドウ品種

を確認すると、グルナッシュ90%、シラー5%、ムールヴェードル5%と

載っていた。

同じワイン名のシャトーヌフ・デュ・パフでも造り手によってこの3種の比率

が違う。


 別のテーブルでは、マリーナタウンのソムリエ3人で、南部ローヌのワイン

のテイスティングを行なっていた。

南部ローヌのワインとは、シャトーヌフ・デュ・パフ、ジゴンダス、ヴァケラス、

ラストーの4種である。


 今回は秋月のように少量のワインで、通常のテイスティング時の5分の1以下

のワインでテイスティングを行なったが、誰も見分けることができなかった。

なぜならこの4種のワインはグルナッシュを主体に、シラー、ムールヴェードル

で造られているので、少量では区別がつかなった。


「秋月さん、南部ローヌの飲み比べをやっているのだが、ちょっと飲んでみて」


 仲間のソムリエ3人が、秋月を呼んだ。

秋月は仲間のところに行き、テーブルに並べられた4つのグラスを見た。


「随分少量ですね? 皆もこの量で?」

「ああ、全然ダメだった!」

 
 秋月は、右端のグラスから順に手に持った。

「凝縮した果実味とタンニンとの絶妙なバランス。これはシャトーヌフ・デュ・パフ」

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 90ページ目 タブレットを操るソムリエ 北部ローヌと南部ローヌ

2013-05-09 22:20:27 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【90ページ】


 秋月が、次にテイスティングしたワインはエルミタージュであった。

エルミタージュをボトルで注文した常連のお客が少し残してくれたワインである。

ラストーは南部ローヌのワインで、エルミタージュは北部ローヌのワインである。


「ゴムが焦げたような香り」と右手でグラスを持ちながら、左手を使いタブレットで

エルミタージュの香りを検索する。

ゴムが焦げたような又は火打ち石のようなといわれる香りを持つと画面に出てきた。


「シラー」とつぶやきながらタブレットでエルミタージュのブドウ品種を検索する。

するとブドウ品種はシラーと書かれている。


「豊かな渋味とおだやかな酸味、そしてかすかな甘味が感じる」と言いつつ、

タブレットを見ると同じようなテイスティングコメントが載っている。


「よし!」ごく少量のエルミタージュで、このワインの評価を完了。


 秋月は、エリミタージュの次にシャトーヌフ・デュ・パフのテイスティングを

行なった。

シャトーヌフ・デュ・パフは南部ローヌで最も有名なワインのひとつである。


「アタックから濃縮された果実味の甘味と酸味の華やかさが感じる」とつぶやき、

タブレットを見る。 

そして「うん」と頷く。


「シャトーヌフ・デュ・パフの中でもグルナッシュのウェートが高い!

90%ぐらいかな?」