ワインバーでのひととき

フィクションのワインのテイスティング対決のストーリーとワインバーでの女性ソムリエとの会話の楽しいワイン実用書

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 13ページ目 美しい切子のワイングラス

2012-09-25 23:13:37 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【13ページ】


 鯵元社長の専属ソムリエが2本のワインをテーブルに並べた。


「和さん、私の話はもうしばらく続きますので、先に次のワインを飲みませんか?」

「ええ」


 鯵元社長は2本のワインを手に持ち、和音にラベルを見せた。


「このワインは、どちらもレ・フォール・ド・ラトゥールです。」

「シャトー・ラトゥールのセカンドワインですね?」

「はい、ヴィンテージは1966年と2003年です。

和さんは、どちらを飲みたいですか?」


鯵元社長は、両方のワインを和音の目の前に突き出すようにしてヴィンテージを見せた。


「1966年は、レ・フォール・ド・ラトゥールの初ヴィンテージですね?

そして2003年は当り年のヴィンテージです。 どちらを選ぶか迷いますが、

1966年は希少なレ・フォール・ド・ラトゥールになるので、記念に取って置くべきでしょう」

「あはは・・・」


鯵元社長は、大きな声で笑った。


「レ・フォール・ド・ラトゥールは、少し軽めで、早く飲み頃を迎えるから、

和さんは、本当は1966年はおいしくないと言いたかったのでは?

では2003年を飲みましょう」


鯵元社長の専属ソムリエは、レ・フォール・ド・ラトゥール2003年を抜栓し、グラスに注いだ。


「和さん、どうぞ!」

「では、頂きます。」

ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 12ページ目 美しい切子のワイングラス

2012-09-21 22:43:03 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【12ページ】

「店員がすぐテーブル拭きとビニール袋と紙袋を持って駆け寄ってきました。

彼は、私の上着をビニール袋に入れ、それを紙袋に入れて手渡してくれました。

その後、テーブルをキレイに拭きました。」


鯵元社長は、上着を着なおすと再び話を続けた。


「テーブルの女性は、私に感謝の言葉を述べ、財布の中のお札をすべて取り出し、

私にスーツ代ですと手渡そうとしました。」

「お金を受け取ったのですか?」


和音は、笑いながら訊いた。


「いや、男としてそんなことはできません。」


鯵元社長は、右手を振りながら否定した。


「『これは、私が勝手にやったことですから』と言ってお金を受け取らず、その場を

立ち去りました。」

「シャトー・ラトゥールがまだ出てきませんね?」

「この後の話に出てきます。

私が下見の食事を済ませ、レジで代金を支払おうとした時、『お代金は頂いています』

と店員が言うのです。『誰に?』と聞くと、『テーブルでワインのボトルを倒された方です』

と教えてくれました。そして紙袋を手渡してくれたのです。」

「それは彼女が用意したもので、中身はシャトー・ラトゥールでしょう?」

「その通りです。

そしてメモ用紙が入っていて、感謝の言葉と彼女の名前と住所と電話番号が

記入されていました。

私は、その晩お礼の電話をかけました」


ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 11ページ目 美しい切子のワイングラス

2012-09-20 23:11:59 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【11ページ】


「ところで鯵元社長、シャトー・ラトゥールをお気に入りになった特別の訳があると

うわさで聞いていますが、ぜひそれを聞かせて頂けませんか?」

「それは、私がまだ商社で勤めていた20代後半の頃の話になります。」


鯵元社長は目を閉じ、その頃を思い出しているかのような表情をした。


「海外のお得意先の接待のため、フレンチレストランに下見に行ったのです。

その時、夕立で激しい雨が降っていました。」


鯵元社長は、上着を脱ぎ、左手にかけた。


「上着が雨に温れたので、このようにして店内に入ったのです。

二人の男女が食事しているテーブルの横を通った時です!

ピッカと稲妻が光ったと思うや、ドーンとレストランの近くの木に雷が落ちたのです。」

「それはビックリですね?」

「ええ、そして食事をしている男女の席が雷の落ちたところに一番近かかったのです。

女性は悲鳴をあげ、ワインのボトルを倒し、男性は頭を抱えて、体を丸めていました。」

「鯵元社長はどうされたのですか?」

「私ですか?」


鯵元社長は、すばやく右手に上着を持ち替えて、テーブルを拭く仕草をした。


「彼女の白いブラウスがこぼれたワインで汚さるととっさに判断して、

いや判断するよりも体が先に動いたかな?

スーツの上着で、こぼれたワインを抑え、ボトルを立て、彼女の服の汚れを防いだのです。」

「それから?」

和音は、その後の話の展開に興味を持った。




ワインバーでのひととき セカンド(改訂) 10ページ目 美しい切子のワイングラス

2012-09-01 06:20:57 | ワインバーでのひととき2改訂三話まで完
【10ページ】


鯵元は、和音の言葉を口に出さず反芻した。


「苦労が多い、苦労、96、今飲んでいるシャトー・ラトゥールのヴィンテージだ。」


鯵元は、専属ソムリエにシャトー・ラトゥールのラベルを隠している紙を剥がし、

和音にヴィンテージを見せるように言った。

そして和音がヴィンテージを示唆する言葉を言ったのかどうか訊いた。


「和さん、このシャトー・ラトゥールのヴィンテージは1996年でした。

ワイン会では、先入観なしにワインを楽しんで頂くためにラベルを隠していますが、

和さんは、このヴィンテージを見抜いていたのですか?苦労が多いの苦労は

96年のことですね?」

「鯵元社長、私も招待を受けたワイン会では楽しんで飲ませていただきます。

テイスティング対決を依頼された場合は別ですが・・・

さて社長の問に対する答えですが、ワインを飲めばおおよそのヴィンテージの年代

は予想できます。例えば1990年台と予想できたとすると、招待者ならどのヴィンテージ

を用意されるでしょうか?」

「1990年や1995年や1996年の良い出来だと評価の高いヴィンテージでしょうか?

誰もがおいしいワインを用意されますね?

すると私がそれらのヴィンテージを示唆する言葉を会話に入れると、ヴィンテージを知っている

鯵元社長が反応してくれたわけです。」


「ウーン」

鯵元社長がうなった。 

彼がかってに和音の言葉に反応しただけなのか、それでは90年や95年を示す言葉が見当たらない。