ワインバーでのひととき

フィクションのワインのテイスティング対決のストーリーとワインバーでの女性ソムリエとの会話の楽しいワイン実用書

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 35ページ目 女性ソムリエとの出会い

2012-01-12 23:00:31 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【35ページ】       女性ソムリエとの出会い


 和音 通は、神戸のにぎやかな繁華街を歩いていた。

手には、何かボトルのような物を持っている。

メイン通りのある交差点の角を曲がって、しばらく歩くと裏通りになっている。


 そしてオオカミのイルミネーションが光る看板の前で立ち止まった。

看板には、オオカミグッズ&ワインバー坂場と書かれている。

「この前までは、小さな看板だったが?」

和音が呟いた。

店内を覗くと、オオカミのグッズが所狭しと並べられている。

「看板は新しくなったが、初めての客は入るのをためらう店に変わりない!」


 「和さん、何しているの?」

店の奥のドアが開き、女性が出てきた。

彼女の名前は、坂場美紀でマスターの妹であった。

彼女は、店内の隠しカメラに映った和音の映像を見て、顔を出したのである。

「看板が替わったので、眺めていた!」

「新しい看板はどう?」

「オオカミの形をしたイルミネーションが華やかでよくなったよ!」

「でも新規のお客はいないみたい」

美紀は少し残念そうな顔をした。

会話を交わした後、二人は店内の奥に入って行った。


 


 


ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 34ページ目 若手天才ソムリエシュヴァリエ来日   

2012-01-11 20:34:54 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【34ページ】


「知人から聞いた和さんの噂だが、『自然の気』を感じることができるらしい」

「『気』ですか?」

「そうだ!子供の頃、身につけたらしい。」

「どのようして?」シュヴァリエは興味が湧いてきた。

「子供の頃、両親と世界遺産の奥深い古道をハイキングしていて、突然消えたらしい。

 二晩三日捜索して、やっと崖の枯れ葉の覆われた窪みの中で発見されたと聞いた!」

ルヴォル大使は、知人から聞いた話を思い出しながら伝えた。

「その時、山の神から自然の気を感じる力を授かったそうだ。」

「3本目のテイスティング対決の時、その特殊な能力を使ったと?」

「これは、私の推測だが、テイスティングでシュヴァリエと同様に、ワイン名と

ヴィンテージを判別すことができた。そしてラベルから発するピカソの情熱的な気を

感じたのではないかな? まああくまでも推測だが・・・・。」

「ルヴォル大使、ピカソの張替えを見抜けなかった私の負けを認めます。

もう一度、和音さんとのテイスティング対決の機会を作ってください!」

シュヴァリエの要望に対して、ルヴォル大使は笑いながら答えた。

「ああ、判った! シュヴァリエが世界最優秀ソムリエコンクルールの覇者になったら

最上のワインでプライベートワイン会を開いてあげるよ!」

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 33ページ目 若手天才ソムリエシュヴァリエ来日 

2012-01-10 20:46:38 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【33ページ】


 「1970年はシャガールのデザインのラベルだが・・・・。」シュヴァリエは胸の中

で考えていた。

「シュヴァリエ、ワインを覆っている紙を取りなさい!」

シュヴァリエは、3本目のテイスティングのワインを手に取り、紙を取り払った。


「あっ、ピカソのラベル!」シュヴァリエは驚いた。

「ピカソだとヴィンテージは1973年?」シュヴァリエは首を大きく振った。

「いや、私の答えの1970年には、自信がある! そして和音さんも1970年と

答えている。 これはどういうことですか?」


 ルヴォル大使は、にこやかに話を聞いているだけであった。

シュヴァリエは自身の力で、この疑問を解かなければならなかった。

「なぜ和音さんがピカソの1970年と書いたか? ピカソとシャガールの勘違い?」

シュヴァリエは、頭を横に振った。

「勘違いでなく、ピカソと1970年の両方正しいということは? あっ!」

「判ったようだね?」

「1970年のシャガールのラベルを剥がし、ピカソのラベルに張り替えたのでは?」

ルヴォル大使は頷いた。

「しかし、和音さんは、ラベルの張替えをどのように見抜いた?」

「それは、なぞだね! ただ考えられるのは・・・・・。」

「考えられるのは?」

シュヴァリエは大使の答えを待った。

ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 32ページ目 若手天才ソムリエシュヴァリエ来日  

2012-01-09 08:24:40 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【32ページ】


 「お礼を言わないといけないのは私のほうです。最高のワインと最強のテイスティング

対決のライバル、思い出に残るワイン会でした。」

和音はルヴォル大使に感謝の言葉を述べた。

「和さん、シャトー・ムートン・ロートシルト2003年を持って帰ってください!」

「オーサンキュー! 当り年のヴィンテージですね?」

「この2003年は、正真正銘の2,003年だよ!」

ルヴォル大使は、笑いながら言った。


 それを聞きたシュヴァリエは、おや?という顔をした。

その後、ルヴォル大使は、和音を玄関まで見送った。

大使が、部屋に戻って来ると、シュヴァリエは、疑問をぶつけた。

「ルヴォル大使、和音さんにシャトー・ムートン・ロートシルトを手渡した時、

『この20003年は、正真正銘の2,003年だよ!』と言っていましたね?」

「ああ、そう言った!」

「あれは、どういう意味なのでしょうか?」

「テーブルに置いてある和さんの答えを見ると判るよ!」

ルヴォル大使は、回答の紙を指差した。

シュヴァリエは、その紙を手に取り、和音の答えを見た。

「ワイン名はシャトー・ムートン・ロートシルト、ヴィンテージはピカソの1970年

と書かれています。」

そう言った後、シュヴァリエは、しばらく黙ってしまった。







ワインバーでのひととき ファースト(改訂) 31ページ目 若手天才ソムリエシュヴァリエ来日  

2012-01-08 20:07:36 | ワインバーでのひととき1改訂四話 完
【31ページ】


 和音もメドック地区のワインの格付けの話に加わった。

「しかし、このランクづけは大騒動になり、波乱ぶくみだった。」

ルヴォル大使が言うと、シュヴァリエが頷いた。

「何を根拠に格付けするのか難しかったでしょう。」

「当時の売買価格や、シャトーの名声などで決めたらしいが当然不満を抱く人も

出てくる。そんな中、シャトー・ムートン・ロートシルトは、メドックの格付けで

二級にされてしまった。」

「その時の有名な言葉が『されど我はムートンなり』ですね?」和音が言うと、

「そう、ムートンは、格付けの評価に左右されないという信念だ!」

ルヴォル大使は、顎に手をやり、思い出すように考えた。

「シャトー・ムートン・ロートシルトは、なんと118年後の1973年に一級への

昇格が認められるのだが、その時の名文句が『されどムートンは変わらず』だ!」


 シュヴァリエは、判ったという顔をした。

「私がシャトー・ムートン・ロートシルトが一番好きな訳がわかったかね?」

ルヴォル大使は、シュヴァリエに向かって言った。

「はい、アートなラベルの美しさではなく、ムートンの領主の信念や気概に対して

評価されているのですね?」

「そうだ!」

ルヴォル大使は、シャトー・ムートン・ロートシルトが空になり、料理もなくなった

のを確認した。


 「今夜は、和さんとシュヴァリエのお陰で本当に楽しいワイン会になった!

ありがとう!」ルヴォル大使は二人に礼を言った。