雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

映画「おかあさんの木」

2015-06-16 22:30:00 | 映画

映画「おかあさんの木」

監督・脚本 磯村一路  主演・鈴木京香

 映画のキャッチコピー 

 おかあさんは、「おかえり」といえたのでしょうか。子供たちは、「ただいま」といえたのでしょうか。

 

 七人の子どもたちの代わりに、七本の桐の木が残った。

ファーストシーンは、成長した桐の老木をアップでとらえやがて俯瞰(ふかん)する寒々とした風景から始まる。

これから始まる物語を象徴するような風景だ。

映画の前半は、夫と7人の子どもたちとの、つましくも温かい家庭の風景が続く。

貧しいが一つ屋根の下で深いきずなで結ばれた家族の日常が描かれる。

 突然の夫の病死から、「おかあさん」の肩には7人の子どもたちの子育てが重くのしかかる。

ここまでは原作にはない。映画は、どこにでもあった戦前の家庭のつつましさを描くことにより、

これから起きる戦争の悲劇をより悲しい現実として対比させ、

7本の桐の木にまつわる「おかあさんの木」の悲劇を一層際立たせるのに成功している。

 

  脚本では、原作にないものを描くことにより、観客に「おかあさん」の悲しみを分かりやすく訴えている。

 

「あの木を切ってはならん」冒頭、語り部として登場する奈良岡朋子に言わせることにより、

観客はこれから始まる物語に想いを馳せる。出征のシーンが何度か出て来るがこれも原作にはない。

圧巻は出征する五郎の足に縋り付き、

「死んではいけない。必ず生きて帰ってこい」と泣く母に、憲兵の長靴が「非国民!!」と罵り母の背中を蹴るシーンだ。

原作にはないシーンが多々あるが、原作を損なうものではない。

 一切の余分なものを切り捨て、「おかあさんと木」に焦点を当てた原作も味わい深い。

「おかえり」「ただいま」といえるあたりまえの日常がいかに尊く大切なことかを、

映画も児童文学の物語も、私たちに訴えている。     (2015.6.16記)

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