「チェリノブイリの祈り 著者 S・アレクシェービッチについて
前回、読書案内「チェリノブイリの祈り」で著者のS・アレクシェービッチについて触れたので、少し詳しく紹介したい。
今年度のノーベル文学賞を授与された著者だが、日本ではなじみの薄い人だ。 彼女の著作を見ると、詩や小説を書く文学者ではなく、ノンフィクションに徹したジャーナリストとしての評価が高い。
「戦争は女の顔をしていない」群像社 2008.7刊
第二次大戦に従軍し、男と同様に前線で戦った元女性兵士を取り上げた。
赤いマフラーが好きな女性狙撃手は、雪の戦場で相手の狙撃兵に撃たれて死亡する。
ハイヒールを手に持って逃げた女兵士。
女心を捨てきれずに戦場にかり出された哀れが切ない。
月経が止まり、男性用下着しか支給されないことにも理不尽を感じる。
男たちは戦争に勝ち、英雄になり、理想の花婿になった。
前線で女たちをかばってくれた兵士たちは、勝利を分かち合ってくれなかった。
悔しかった。理解できなかった。
前線で戦った女たちの哀しく、痛ましい姿にスポットがあたる。
「ボタン穴から見た戦争」群像社 2000.11刊
「頭からかぶったオーバーのボタン穴から爆弾が落ちるのを見ていました」。
第二次大戦下、
ドイツの侵略に飲み込まれたソ連白ロシア(ベラルーシ)で子供時代を過ごした人々101人の証言記録。
誰にも言いたくなかった、言っても解ってもらえない。
当時、3歳から15歳だった子どもたちの辛い思いを、
静かな目で掘り起こす著者の優しい姿勢が感じられます。
「アフガン帰還兵の証言」日本経済新聞社 1995.10刊
ソ連軍の軍事介入、突然のアフガニスタン侵攻。
10年間に渡ったこの戦争から、
派遣された若いソ連兵士たちの帰国後の苦しみや、
無意味な戦争のために息子を失った母親の悲しみが浮かんでくる。
国家の責任とか、戦争にいたった過程などには一切触れず、
戦争体験者の生の声を収集し、本にすることによって浮かび上がってくるのは、
戦争の悲惨さの中で多くの犠牲を強いられた民衆の生の声だ。
(2015.11.15記)
追記 出版社「群像社」極小出版社で同情や称賛の声が集まっている。
以下はHUFF POST SOCIETYの【群像社】ノーベル文学賞作家に増刷を断られた中小出版社 健気な声明 から一部を転載しました。
同社は、2015年のノーベル文学賞を受賞したベラルーシ人の女性作家、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチさんの著書のうち、「ボタン穴から見た戦争」「死に魅入られた人びと」「戦争は女の顔をしていない」の3冊を出版していた。10月8日のノーベル賞受賞を受けて、群像社では「戦争は女の顔をしていない」を1000部重版することを決めて、10月21日に取次搬入する予定だった。
しかし、アレクシエーヴィチさんの著作権を管理する代理人から「あなたの会社の権利が消えているため、増刷は認められない」と通知が届いたという。通販サイトAmazonでは品切れとなり10月22日現在、中古品が定価の7倍の約14000円で出品されている。
群像社は1980年に設立されたが、2010年以降は代表取締役の島田進矢さんが一人で経営していた。電話回線も一つしかなく、ノーベル賞受賞以降は注文が殺到して、電話とファックスは常時ふさがっている状態だったという。島田さんは、アレクシエーヴィチさんの本について「今後、あらたに版権を取得した出版社から刊行されることになると思います。小社の本をお届けできなかったみなさまには、ぜひ新しい装いの本でアレクシエーヴィチの作品をお読みいただければ、最初に刊行した出版社としても喜ばしいことです」とコメントを出した。
群像社のますますのご活躍をお祈りします。(雨あがりのペイブメント)