読書案内「チェリノブイリの祈り ―未来の物語―」
スベトナーラ・アレグシェービッチ著
2015年ノーベル文学賞受賞のドキュメンタリー文学。
1986年のチェリノブイリ原発事故に遭遇した人々の悲しみと衝撃の記録だ。
事故10年後の1996年から約3年を費やして取材したドキュメント。
淡々と語る被災者や遺族の姿勢は、決して暗くはない。
事故を乗り越え、10年前の事故の真実を淡々と語る。
この事故を徹底的に隠蔽し闇に葬ろうとする国の姿が浮かび上がる。
情報操作は徹底しており、
放射線量の高い現場で事故処理に従事する作業者にも危険性は知らされなかった。
3日間の避難と説明され手配されたバスに着の身着のままで乗り込み、
そのまま村に還れなくなった被災者。
村は閉鎖され、無人となり、廃村となった。
チェリノブイリ原発事故(ソビエト連邦 1986年) レベル7
核燃料の制御が聞かなくなり 原子炉暴走爆発。
死者4,000~9000人 放射能拡散は数百キロに及ぶ大惨事。原子炉建屋は石棺で覆われ、
事故後の廃炉作業は見通しがつかない。
放射能に対する無知と恐怖が、デマを伴い、
被曝者への差別に拡散していく事実は痛々しい。
被曝者への差別は医療機関にもおよび、二次被曝を恐れ治療を拒否する医療現場。
汚染された土地と知りつつ、ふるさとにとどまる被災者。
原発事故から10年を経過して訥々と事故の事実を語り始める民衆。
被災者たちのインタビューを記録し、
後世に残そうとしたアレクシェービッチが著書で読者に伝えたかったのは、
この悲惨な事故の記録を未来の人に伝えるためではなかったか。
二度と起こしてはならない、原発の危険性と恐ろしさを「未来への物語」として記録し、
私たちの子どもや孫や多くの子孫に語り継ぐ作業がノーベル文学賞受賞に繋がったのではないか。
(2015.11.14記)