居酒屋日記・オムニバス (34)
第三話 除染作業員のひとりごと ⑪
南一番街のアーケードが見えてきた。
北関東で屈指の風俗街と称されている、飲み屋街の入り口だ。
もともとは、駅の南口に誕生した商店街だった。
商店街の構築が不発に終わり、バブル全盛の頃、風俗中心の飲み屋街に姿を変えた。
入り口にラーメンの屋台を構えた源ジィさんは、40年間この街の
変遷をその眼で見続けてきた。
古びた提灯が今夜も、繁華街の入り口で揺れている。
(あ・・・、まずい・・・)
屋台の裏側に、見覚えのあるスキンヘッドがちらりと動く。
夜更けだというのに、真っ黒のサングラスをかけている。
スキンヘッドに、黒のサングラスと言えば、知る人ぞ知る関東大前田組の若頭だ。
(おい、立ち止まるな。素知らぬ顔をして、そのまま屋台を通り過ぎるぞ)
幸作が佳代子に耳打ちをする。
屋台の様子をチラリと見た佳代子が、「了解・・・」と乾いた返事をかえす。
スキンヘッドの周りには、数人の若い衆がたむろしている。
いずれも人相は良くない。誰が見ても不良そのものだ。
ぎこちない歩きかたのまま幸作と佳代子が、屋台の前を通り過ぎていく。
そこの角を曲がれば、別の路地へ姿を隠すことが出来る。
(やれやれ、無事に通過できそうだ・・・)そう思った矢先。
背後から関東大前田組の若頭の声が、2人の背中を追いかけてきた。
「おいおい。挨拶なしで素通りとは、水くせえやなぁ幸作。
あれ・・・このあいだ連れとった別嬪の若い娘とは、ちゃうようやなぁ。
隅におけまへんなぁ、幸作も。
このあいだの別嬪さんは確か、30歳前後。
今夜の連れは、熟れ切った40女やろか。
なかなか持てまんねんなぁ、居酒屋家業のやさ男はんは。いっひっひ」
(幸作が別嬪の30女を連れていたって?)佳代子の足がピタリと止まる。
「初耳やなぁ。幸作が連れとった30女ってのは、いったいどこの何者なんや。
安ちゃん。いつ見たんや。うちはさらさら、そないなことは知らんでェ!」
「あ・・・どなたはんかと思ったら、同級生の佳代子やないか。
なんやお前。化粧してスカートなんか履いておるから、どこぞの主婦かと思うたわ。
佳代子なら佳代子と最初に挨拶せんか、見損なりよったやろ」
「極道には興味がないから、素通りしただけのことや。
そないなことはどうでもええことや。それよりウチの質問に先に答えてな。
幸作が30女といっしょに居たちうのは、ホンマかいな」
「あいかわらず、みょうな関西弁でなまっとるのか、お前はんときたら」
「関西なまりはお互いさまや。安岡、早う答えや、ウチの質問に」
「深夜に車でデートしたちう話や。
帰って来たのは朝早くだぞ。なにやら2人とも、クタクタで帰って来たそうだ」
「聞いてないわ、幸作!」佳代子の鋭い目が、幸作を振り返る。
別嬪の30女というのは、先日の鉄筋女の事だ。
たしかに深夜にドライブをした。
しかしそれは、茨城へ小悪魔志望の女子高生を送り届けるためだ。
朝早く戻って来たところを、関東大前田組の誰かに目撃されたのだろう。
「ああいうのを、小股の切れ上がったええ女ちうのやろうな。
美人なうえに、腹がすわっとる。
組の事務所に乗り込んできたちうのに、まるっきし動じねぇで交渉しやがった。
陽子姐はんも、あの女のことを褒めてたぜ。
あたしの若いころにそっくりだって」
よせばいいのに同級生の若頭が、余計なことまで口にする。
佳代子の誤解が、頂点に達していく。
からんでいた指先にじょじょに力がこもってくる。
とぎすまされた佳代子の紅い爪先が、キリキリと音を立てて幸作の
手のひらに突き刺さって来る・・・
(35)へつづく
新田さらだ館は、こちら
第三話 除染作業員のひとりごと ⑪
南一番街のアーケードが見えてきた。
北関東で屈指の風俗街と称されている、飲み屋街の入り口だ。
もともとは、駅の南口に誕生した商店街だった。
商店街の構築が不発に終わり、バブル全盛の頃、風俗中心の飲み屋街に姿を変えた。
入り口にラーメンの屋台を構えた源ジィさんは、40年間この街の
変遷をその眼で見続けてきた。
古びた提灯が今夜も、繁華街の入り口で揺れている。
(あ・・・、まずい・・・)
屋台の裏側に、見覚えのあるスキンヘッドがちらりと動く。
夜更けだというのに、真っ黒のサングラスをかけている。
スキンヘッドに、黒のサングラスと言えば、知る人ぞ知る関東大前田組の若頭だ。
(おい、立ち止まるな。素知らぬ顔をして、そのまま屋台を通り過ぎるぞ)
幸作が佳代子に耳打ちをする。
屋台の様子をチラリと見た佳代子が、「了解・・・」と乾いた返事をかえす。
スキンヘッドの周りには、数人の若い衆がたむろしている。
いずれも人相は良くない。誰が見ても不良そのものだ。
ぎこちない歩きかたのまま幸作と佳代子が、屋台の前を通り過ぎていく。
そこの角を曲がれば、別の路地へ姿を隠すことが出来る。
(やれやれ、無事に通過できそうだ・・・)そう思った矢先。
背後から関東大前田組の若頭の声が、2人の背中を追いかけてきた。
「おいおい。挨拶なしで素通りとは、水くせえやなぁ幸作。
あれ・・・このあいだ連れとった別嬪の若い娘とは、ちゃうようやなぁ。
隅におけまへんなぁ、幸作も。
このあいだの別嬪さんは確か、30歳前後。
今夜の連れは、熟れ切った40女やろか。
なかなか持てまんねんなぁ、居酒屋家業のやさ男はんは。いっひっひ」
(幸作が別嬪の30女を連れていたって?)佳代子の足がピタリと止まる。
「初耳やなぁ。幸作が連れとった30女ってのは、いったいどこの何者なんや。
安ちゃん。いつ見たんや。うちはさらさら、そないなことは知らんでェ!」
「あ・・・どなたはんかと思ったら、同級生の佳代子やないか。
なんやお前。化粧してスカートなんか履いておるから、どこぞの主婦かと思うたわ。
佳代子なら佳代子と最初に挨拶せんか、見損なりよったやろ」
「極道には興味がないから、素通りしただけのことや。
そないなことはどうでもええことや。それよりウチの質問に先に答えてな。
幸作が30女といっしょに居たちうのは、ホンマかいな」
「あいかわらず、みょうな関西弁でなまっとるのか、お前はんときたら」
「関西なまりはお互いさまや。安岡、早う答えや、ウチの質問に」
「深夜に車でデートしたちう話や。
帰って来たのは朝早くだぞ。なにやら2人とも、クタクタで帰って来たそうだ」
「聞いてないわ、幸作!」佳代子の鋭い目が、幸作を振り返る。
別嬪の30女というのは、先日の鉄筋女の事だ。
たしかに深夜にドライブをした。
しかしそれは、茨城へ小悪魔志望の女子高生を送り届けるためだ。
朝早く戻って来たところを、関東大前田組の誰かに目撃されたのだろう。
「ああいうのを、小股の切れ上がったええ女ちうのやろうな。
美人なうえに、腹がすわっとる。
組の事務所に乗り込んできたちうのに、まるっきし動じねぇで交渉しやがった。
陽子姐はんも、あの女のことを褒めてたぜ。
あたしの若いころにそっくりだって」
よせばいいのに同級生の若頭が、余計なことまで口にする。
佳代子の誤解が、頂点に達していく。
からんでいた指先にじょじょに力がこもってくる。
とぎすまされた佳代子の紅い爪先が、キリキリと音を立てて幸作の
手のひらに突き刺さって来る・・・
(35)へつづく
新田さらだ館は、こちら
赴くままに生きる世界の違いは・・
説明するまでもありませんが・・
やはり 女 は怖い・・と言う結論
私もこの手の世界の人と十年くらい
お付き合いしましたので・・少しは
判ります。
でも緊張しましたよ。
春を告げる、選抜の高校野球がはじまりました。
こちらも今日はソフトボールの練習で、夜は市の
ソフト協会の会議です。
いよいよ、本格的な球春です。
高校生たちに負けないように、おじさんたちも
頑張りたいと思います~