居酒屋日記・オムニバス (35)
第三話 除染作業員のひとりごと ⑫
「なんだ、やっぱり愛人やなかったのか・・・
ずいぶん仲良さそうやったから、俺はてっきり、愛人かと勘違いしちまったぜ。
悪いことをしたな、幸作。
そういうわけやから幸作のことを恨むんやねぇぞ、佳代子。
俺の只の勘違いやからな」
長居は無用だ、おい行くぞと、若頭の安岡が若い衆に号令をかける。
「騒がせたな、源ジィはん」これで2人にたらふく食わせてくれと、1万円札を置いていく。
昔と違い今のやくざは、肩で風を切って縄張りの中を歩いたりしない。
そんなことをすれば暴力団排除条例で、あっという間に警官の職務質問を受ける。
極道が、おおっぴらに街を闊歩できない時代になった。
酔っぱらった客を装い、目立たない程度にしまの中をこっそり巡回して歩く。
それがいまどきのやくざのやり方だ。
「だがあれじゃ、これ見よがしに目立ち過ぎだろう・・・」
肩ひじを張り、大股で遠ざかっていく若頭の背中を、幸作が苦笑いの目で見送る。
若頭の安岡も、幸作の同級生のひとりだ。
3歳で「神童」と言われたほど、明晰な頭脳を持っている。
関西の大学を卒業したあと、大手商社に就職したが、40歳を前に限界を感じて、
極道の世界へ足を踏み入れた変わり者だ。
「ごめんね。痛かったやろ」佳代子が、幸作の手のひらを覗き込む。
出血こそなかったが、佳代子の爪で押された部分が、紅く充血している。
「ごめんね、わたしったら、相変わらず、そそっかしくて」
「いいさお前さんの粗忽は、いまにはじまったことじゃねぇ。
それより、突然に身に降りかかってきた幸運というのは、いったい何ごとだ?。
やっぱり気になる。正直に白状しろ」
「借りを作ってしもたから、白状するしかないのかな・・・」
「嫌なら別にいい。無理強いしてまで聞きたくはねぇ」
「うそつき。ホントは聞きたくてしゃあないくせに。
素直に白状しなさい。幼なじみの除染作業員に、何を言われたのかって」
「じゃ聞く。いったい何を言われたんだ、幼なじみのあいつに?」
「3年たったら結婚しょうって、真面目な顔でプロポーズされた」
「プ、プロポーズされたって・・・、ホントかよ。信じられねぇな」
「わたしだって信じられへんわよ、突然すぎて」
「なんで3年後なんだ、結婚するのが」
「ほら見い、慌ててんねん。
でも、確実に結婚するわけやないわよ、わたしたち。
3年後もいまと同じ気持ちでいたら、結婚せんか俺たち、と言われたの」
「で、お前さんは何と答えたんだ。幼なじみのあの野郎のプロポーズに?」
「ええわよと、その場で即答したわ」
「そ・・・その場で即答しちまったのか、いとも簡単に、お前は・・・
まったくもって信じられねぇ!」
「なんであなたが、そないに動揺するの。
動揺しとるのはわたしなのよ。
なんで3年後なのかはよく分かりまへんけど、なんとなく意味は分かる。
わたしも子育てが一段落するし、彼も再出発の足場が固まる。
その頃にもういっぺん会って、気持ちが変っていなければ、俺たち結婚しょうと
言ってくれたのよ。
別に否定する理由もないし、老後をひとりきりで過ごすのも寂しい。
結婚してもええかな、幼なじみのこいつと・・・なんて漠然と考えた。
なんか変かしら?。そないな風にわたしが考えたら」
(36)へつづく
新田さらだ館は、こちら
第三話 除染作業員のひとりごと ⑫
「なんだ、やっぱり愛人やなかったのか・・・
ずいぶん仲良さそうやったから、俺はてっきり、愛人かと勘違いしちまったぜ。
悪いことをしたな、幸作。
そういうわけやから幸作のことを恨むんやねぇぞ、佳代子。
俺の只の勘違いやからな」
長居は無用だ、おい行くぞと、若頭の安岡が若い衆に号令をかける。
「騒がせたな、源ジィはん」これで2人にたらふく食わせてくれと、1万円札を置いていく。
昔と違い今のやくざは、肩で風を切って縄張りの中を歩いたりしない。
そんなことをすれば暴力団排除条例で、あっという間に警官の職務質問を受ける。
極道が、おおっぴらに街を闊歩できない時代になった。
酔っぱらった客を装い、目立たない程度にしまの中をこっそり巡回して歩く。
それがいまどきのやくざのやり方だ。
「だがあれじゃ、これ見よがしに目立ち過ぎだろう・・・」
肩ひじを張り、大股で遠ざかっていく若頭の背中を、幸作が苦笑いの目で見送る。
若頭の安岡も、幸作の同級生のひとりだ。
3歳で「神童」と言われたほど、明晰な頭脳を持っている。
関西の大学を卒業したあと、大手商社に就職したが、40歳を前に限界を感じて、
極道の世界へ足を踏み入れた変わり者だ。
「ごめんね。痛かったやろ」佳代子が、幸作の手のひらを覗き込む。
出血こそなかったが、佳代子の爪で押された部分が、紅く充血している。
「ごめんね、わたしったら、相変わらず、そそっかしくて」
「いいさお前さんの粗忽は、いまにはじまったことじゃねぇ。
それより、突然に身に降りかかってきた幸運というのは、いったい何ごとだ?。
やっぱり気になる。正直に白状しろ」
「借りを作ってしもたから、白状するしかないのかな・・・」
「嫌なら別にいい。無理強いしてまで聞きたくはねぇ」
「うそつき。ホントは聞きたくてしゃあないくせに。
素直に白状しなさい。幼なじみの除染作業員に、何を言われたのかって」
「じゃ聞く。いったい何を言われたんだ、幼なじみのあいつに?」
「3年たったら結婚しょうって、真面目な顔でプロポーズされた」
「プ、プロポーズされたって・・・、ホントかよ。信じられねぇな」
「わたしだって信じられへんわよ、突然すぎて」
「なんで3年後なんだ、結婚するのが」
「ほら見い、慌ててんねん。
でも、確実に結婚するわけやないわよ、わたしたち。
3年後もいまと同じ気持ちでいたら、結婚せんか俺たち、と言われたの」
「で、お前さんは何と答えたんだ。幼なじみのあの野郎のプロポーズに?」
「ええわよと、その場で即答したわ」
「そ・・・その場で即答しちまったのか、いとも簡単に、お前は・・・
まったくもって信じられねぇ!」
「なんであなたが、そないに動揺するの。
動揺しとるのはわたしなのよ。
なんで3年後なのかはよく分かりまへんけど、なんとなく意味は分かる。
わたしも子育てが一段落するし、彼も再出発の足場が固まる。
その頃にもういっぺん会って、気持ちが変っていなければ、俺たち結婚しょうと
言ってくれたのよ。
別に否定する理由もないし、老後をひとりきりで過ごすのも寂しい。
結婚してもええかな、幼なじみのこいつと・・・なんて漠然と考えた。
なんか変かしら?。そないな風にわたしが考えたら」
(36)へつづく
新田さらだ館は、こちら
おい・・お前・・と言い合える中
大切ですよね、私も同期にバッチ組みが
会ったりしますが、お互いオイお前
人前を気にせずにそんな関係は大切ですね
それは男も女も同じです・・
スポーツの季節・・到来ですね
ゴルフの予定で、あっというまに日曜日が埋まっていきます。
サクラの開花も、もうまもなくです。
花見→ソフトボールの大会→ゴルフで、
3月と4月が、あっというまに終わります(汗)