落合順平 作品集

現代小説の部屋。

連載小説「六連星(むつらぼし)」第24話

2013-03-31 09:42:06 | 現代小説
連載小説「六連星(むつらぼし)」第24話
「家電量販店でのトラブル」




 「よし、話は決まった。
 お礼と言ってはなんだが、我儘をきいてくれた礼に、旨い昼飯でもご馳走しょう。
 そのまえに、電機屋へ寄りたいが、かまわないか?」

 金髪の英治が、伝票を手にしてたちあがります。
もう片方の手で携帯を取り出し、こいつの機種を変更したいと笑いました。



 「変えるの?」


 「流行りのスマートフォンにする。
 言っておくが、ゲーム三昧をやりたくて変更をするわけじゃないぞ。
 ネットと効率よく連動させるために変更をするんだ」



 英治が電機屋と呼んでいるのは、
最近市内に進出してきたばかりの巨大家電量販店のことです。
老舗といわれた大型百貨店が閉店をした後、全面的に改装をされて、
巨大な売り場面積を誇る業界トップの量販店が、最近になって開業をしました。
市内の中心部にある建物で、ここからなら歩いても5~6分の距離です。


 舗道を先に立って歩く英治の様子は、
後ろから見ていると、がに股で、心持ち肩が微妙に揺れ続けています。
(いやだ、こいつったら。表に出るとチンピラの習性が丸出しで、
歩き方からして、見るからに危ないわ・・・)
響が、2歩ほど後ろを歩きながら密かに笑っています。
(なんだかんだと偉そうに言ったって、まだまだ子供だわね、英治は・)



 前方の交差点が赤に変わりました。
家電量販店は反対側にあるために、英治が響の手を取って横断歩道を渡り始めます。
唐突に握られてしまった手を、あえて振りほどきもしないまま、
響も黙って素直に、英治の後を着いて歩いていきます。
横断歩道の突き当たりにあるコンビニの駐車場では、座りこんだまま奇声をあげて、
インスタント麺をすすっている二人の少年の姿が、響の視界に入ります。


(いまどきの子は、ああいうことが平気できるんだ。
恥ずかしさを知らないと言うか・・・・躾(しつけ)も何も有ったもんじゃない。
まったく、親の顔が見てみたいわね)


 響が横目で少年たちを見つめながら歩いていくと、突然けたたましい
クラクションの音が前方から響いてきました。



 目を上げた瞬間、コンビニの駐車場を横切るような形で一台の車が
速度も緩めずに斜めに突き進んでくる様子が視界に入りました
コンビニ駐車場のショートカットを目論んだその暴走車は、
響の目の前をぎりぎりで擦りぬけた後、麺をすすっている二人の少年たちの
すぐ脇もかすめて、反対側の車線へ猛然と飛び出して行きます。
いきり立った少年たちが手にしたカップ麺の器を、立ち去る車めがけて投げつけます。
呑み残していた汁は空中へ飛び散り、食いかけの麺が地面に四散します。



(あの子たちったら・・・・車の運転手も最悪だけど、あいつらのマナ―も最低だ。
まったくもって、常識ってものを知らないのかしら!)
毅然となって足を踏み出し、少年たちに迫ろうとした響の手首を、
英治があわてて、きつく握りしめました。


 「あいつらの挑発に乗るんじゃない、響。
 あれは、あの連中がぐるになって、善意の人間をひっかけるための三文芝居だ。
 止めに入ったり、偉そうに小言をいう者を待ちかまえている、ただのきっかけ作りだ。
 難癖をつけたあげく、逆にゆすって金を巻き上げようと言う連中の常套手段さ。
 ほら見ろ・・・・もうコンビニの店員が、箒を片手に掃除に飛んできた。
 今日の収穫は、これで、ゼロと言う訳だ。
 お前、意外と気が早いから、あんな単純な猿芝居にひっかからないように
 充分に気をつけろよ・・・あっはは、」



 なるほど・・・
平然として駐車場にカップめんの残骸を播き散らかした少年の二人は、
掃除をしているコンビニの店員とは、慨に顔見知りのような雰囲気さえ見て取れます。



(当たり前のように平然として店員が、掃除をしているということは、
 こういうことが常に行われていると言う意味か・・・・
まったくもって、今どきのガキどもには、油断ができないわねぇ)



 2度、3度と駐車場を振り返り、そんないわくありの光景を見届けてから
響が先を行く英治の背中を追って走りだしました。
(意外と冷静な部分もあるようだな。こいつにも。)
もうひとつの交差点を過ぎてから、ようやく英治の背中へ響が追いつきます。



 (あの人たちは(不良ややくざは)・・・・きわめて羽ぶりはいいけど、
 男っぷりを良く見せるために、色々と男を演じて見せるのが実は商売なのよ。
 任侠の世界で生きるために男たちは、男を魅了するために
 精いっぱいの男気と虚勢を張るの。
 義理人情をひたすら口にして、弱きを助け強きをくじくなどと言うけれど、
 それはあくまでも、世間を欺く表向きの話です。
 私に言葉巧みに言い寄ってきたその筋の男たちは、沢山居たけれど、
 本当の狙いは、女を囲っているぞというステータスを誇示したいだけなのよ。
 連中は、女に本気でなんか惚れないもの。
 見せびらかすための、良い女を捕まえたくらいにしか考えていないもの。
 良い車や、良い時計を身につけると同じ感覚で、
 女もただの『道具』のひとつに過ぎないの。
 男たちの間で、切った貼ったを繰り返している日々だもの、
 油断したたら自分の命がなくなるの。
 女は欲求不満のはけ口か、ただの道具くらいにしか見ていないのよ。
 あんたも、そんな不良たちには充分に気をつけなさい。
 男の外見なんかに、簡単に騙されないでね・・・・)


 (たしか、そんなことを言ってたなぁ・・・)
母親の清子がそんな風にやくざについて語っていたことを、響が懐かしく思い出しています。
しかし今、響の前を歩いている金髪の英治からは、そんな任侠の風格や
匂いといったものは、まったく微塵にも見当たりません
(こいつ、調子に乗ると暴走するから気をつけろと、たしか岡本さんも言っていた。
そういえば、さっきよりも肩がそびえて、揺れはじめているみたいだけど・・・
大丈夫かしら。こいつったら)
また、だいぶ遅れて歩いている響を、量販店の入口で英治が待っています。



 家電量販店は、立て混んでいます。



 開店セールと大々的に銘打って、連日にわたって廉価販売が催されているためです。
それらを目当てに、午前中から大勢のお客さんが詰めかけています。
一歩店内へ足を踏み入れると、目の前に、二階へ向かう巨大な階段が現れました。
「迷子になるなよ。」
再び英治の手が伸びて来て、有無を言わせずに響の左手を握りしめます。
(まあ、いいか、減るもんでもないし・・)響も自ら英治の身体に近づいて
寄り添うような形で階段を上り始めました。


 階段の中央まで差し掛かった時、談笑しながら急ぎ足で降りてくる
男女のカップルと、危うくぶつかりそうになりました。
英治が先に気がついて、進路を譲る形をとります。
とっさに響へ目配せをした金髪の英治が、その背中を押しながら、右方向へ避けようとします。
が運悪く、男の下げていた紙袋が英治の膝へ、鈍い音をたたてぶつかりました。
咄嗟のことで、英治が膝を抑え、その場へうずくまってしまいます。


 「お~、痛ってぇー!。おーいマジかよ。クソったれ!」



 紙袋を当ててしまった男も、ほとんど同時に立ち止まりました。
身長が160センチくらいの紙袋の男と、175センチ以上ある金髪の英治の視線が
階段の上下で、険悪な空気を含んで激しく交錯をします。
瞬間的に吐きだされた英治の声は、相手が小柄すぎて、どことなく気の弱そうな
雰囲気のある男だと、勝手に思い込んでしまったために、
思わず発してしまったひと言でした。
しかし、この小柄な男の目にも、金髪の英治に負けないほどの、
すこぶる強い光が宿っています。

(25)へつづく


 
 
・本館の「新田さらだ館」は、こちらです http://saradakann.xsrv.jp/

・新作はこちら

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま (57)銀河のど真ん中
http://novelist.jp/62881_p1.html




 (1)は、こちらからどうぞ
 http://novelist.jp/61553_p1.html

最新の画像もっと見る

コメントを投稿