goo blog サービス終了のお知らせ 

落合順平 作品集

現代小説の部屋。

『ひいらぎの宿』 (44)

2014-01-06 10:19:50 | 現代小説
『ひいらぎの宿』 (44)第5章 NPO法人「炭」の事務局長 
末は教授か、准教授・・・・




 「通常は大学を卒業してから、修士・博士課程の大学院へ進みます。
 博士課程の終了は、順調にいって27歳。
 助手、助教や講師、準教授の期間は人によって様々ですが、助手、助教を3年前後。
 講師を5年以上、准教授を5年以上経験してから大学教授になるというのが、
 一般的な昇進ルートです。
 准教授になるのが、30代半ばから40歳前後。
 教授になるには40代の半ばからです。
 大学教授になるためには、けっこう長い年月を必要とします。
 大学教授になると年収の平均は、約1100万円。准教授の年収は、約850万円。
 数字だけを見ると、大学教授、准教授ともに十分な数字のように見えますが、
 博士課程までの学費や生活費(大学4年・修士課程2年・博士課程3年)や、
 非常勤講師時代の不安定で薄給な状況を考えれば、それほど収入に恵まれている職業とは
 いえないと思います」


 「へぇぇ。俺たちから見れば高嶺の花に見える、大学教授という職業も
 実は楽じゃないんだねぇ。
 しかしその、年収が保証される准教授というポジションまでは、あとわずかじゃないか。
 君も、もう少しだから、頑張り甲斐が有るというものだろう」



 「そう思うでしょう。誰が見ても、あたしの外見だけを見れば。
 ところがあたしったら、借金まみれで結婚さえできずにいる女なのよ、実は。
 750万円ほどの、奨学金という名の借金を抱えているの。
 毎月、小額ずつですが、こつこつと借りた奨学金の返済をつづけています。
 これまで、大学、大学院と研究に没頭し、少しのアルバイトと奨学金で、
 5年前にやっと、念願の博士号を取得しました。
 大学、大学院ともに実家からの援助はまったくなく、ひたすら生活費を切り詰め、
 節約をしながら、研究に没頭する日々をつづいてきたんですよ。まったく~」


 「ということは、話の流れから行くと君は、32~3歳ということになるのかな。
 不安定で薄給な非常勤講師の時代が、ようやく、始まったということになるわけだ。
 なるほど。たいへんだなぁ。まさにこれからが、君にとってのイバラの道だ」



 「そう思うでしょう、おじさまも。
 だもの、美味しそうなイワナを見れば、無条件で身体が反応をしてしまいます。
 あらら・・・・いままでの話の流れと食欲は、あまり関係がありませんねぇ。うふふ」


 
 『ほら。次が焼けた。遠慮するなよ』と、2本目のイワナを俊彦が手渡します。
川原に座り込んだ2人が、小さな備長炭の火を囲んで先程から釣ったばかりのイワナを焼いています。
『みんな食ってもいいぜ。俺の分もやるから』と持ち上げた3本目のイワナを、凛が即答で
『もう少し焼いてから、別の美味しい頂きかたをしましょうよ』と、片目をつぶって笑います。


 「もう少しこんがりするまで焼いて、骨酒にして楽しもうということかい?
 へぇぇ・・・・やっぱり只者じゃないねぇ。イワナの徹底的な楽しみ方にまで
 精通をしているようだ。君本当は、イワナ学が専攻じゃないのかい」



 「そう言うおじさまこそ、感度が良すぎよ。
 ツーといえば、カーだもの。やっぱり人生経験が豊かなロマンスグレーは最高です。
 おじさまの、どことなく世慣れた感じの女性扱いぶりは、板についていて安心感があります。
 なんとなくですが、若い女性をひきつける魅力なども、持ち合わせているようです。
 これでもう少しチョイ悪な感じが備わっていると、小娘ならイチコロでしょうね。
 間違いなく・・・・うっふっふ」



 「おいおい。人を持ち上げたり奈落の底へ落としたり、忙しいねぇまったく君も。
 俺の名は俊彦。みんなは短く、トシと呼ぶ。
 ついこの間まで蕎麦屋を営んでいたが、この先の地で旅籠を開業するために廃業したばかりだ。
 とりあえず母屋の一室を改装して、泊まれるようにはなっている。
 築100年を超えた古民家だが、骨組みはしっかりしているし、一日中、囲炉裏で火が燃えているので
 真冬の今でもそれなりに居心地はいいし、温かい。
 来るかい?。君さえよければ、我が旅籠に招待しょう」


 「ますます素敵。
 となると、奥様はきっと私よりも、はるかに綺麗な人なのですね。
 自信たっぷりで、母屋の特別室に私を招待してくれるんだもの。
 それくらいの自信がなければ、若い私を、絶対に旅籠などに誘わないと思います。
 うふっ。正直に顔に書いてあります。
 お前みたいな跳ねっ返りで、こまっしゃくれた小娘は、俺は相手にしないぞって。
 あれ・・・30を過ぎて小娘という表現は妥当じゃありませんねぇ
 でも、おばさんとは間違っても言われたくありません。
 私はまだ、自分では、女の花の真っ盛り中だと思っています」



 「そうだね。おばさんと呼ぶのはあまりにも気の毒だ。
 昔は、娘盛りを過ぎた女性のことを、『年増』と粋に表現をしていた。
 一般に30歳代半ばから40歳前後までの女性のことを、そのように呼んでいたようだ。
 江戸時代には、20歳前後の子を年増。
 20歳を過ぎてから28、9歳ぐらいまでの女性のことを中年増。
 それより上を、総称して大年増と呼んでいたようだ。
 女として最も成熟した年頃や、またはその年頃の女性たちを指して『年増盛り』と呼ぶこともある。
 おばさんという表現を避ける傾向があるから、いまは一律に
 『おねえさん』と呼ぶのが、妥当かな・・・・」



 「年増盛りですかぁ。なんだか、微妙ですねぇ、それも。
 嫁入り前の身としては・・・・。うふふ」





(45)へ、つづく


   「新田さらだ館」の、本館はこちら
さらだ館は、食と、農業の安心と安全な未来を語る、ホームページです。
 詳しくはこちら 

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。