アイラブ桐生Ⅲ・「舞台裏の仲間たち」(43)
第二幕・第二章 「過剰設備と働き過ぎ」
「それだけに、プログラムも厄介になるという訳ですね」
「アップル・コンピューターと言う、
機械語のプログラムが登場して、この機械はそいつで制御をされています。
ただし、簡単と言っても有る程度の専門知識は必要です。
でもこいつが、フル稼働を始めると
職人技の手加工などは、いっぺんに駆逐されてしまいそうです。
なにしろ、従来の機械ではたいへんに苦労していた、
曲面や複雑な形状まで、プログラムひとつで、
自動運転で、自由自在に削れるようになるのですから・・・
最近の、機械の進歩ぶりには、
凄いものが有ります」
「ほう、人の知能や技術まで
超えるかも知れない代物ですね・・・・」
「いえ、あくまでも人が造り出したものです。
これからはコンピューターが組み込まれた
こういう万能の工作機械が主流になるかもしれません・・・・
しかし高価な設備です。
こいつ一台で、我が家の新築建売住宅が買えてしまいます。
金型加工は、ほんとうに『金食い虫』の仕事です、
従業員4人で、設備だけでも1億近い借金になるくらいですから。
不況に強いと言われている職種ですが、
なにかのきっかけで仕事が止まった瞬間に、
この辺の小さな金型工場は、多すぎる設備投資のために
あっというまに倒産です。
怖い話ですが、これもまた金型業界の現実ですね」
「そうですょね。
それだけの危険は充分に、ありますね」
コンピューター付きの工作機械の導入がすすんでいる
順平の金型工場でも、それはありうる話でした。
すでにこの時代から、土地の高騰を軸に日本経済がバブル景気へと
突入する気配を濃厚に見せ始めていました。
■アップルコンピューターとは。
米国のパーソナルコンピューターのメーカーです。
スティーブン・ジョブスSteven Jobsら3人が1976年に創設。
株式会社は翌1977年設立。早くからカラー表示機能を備えたパソコンや,
マウス,マルチウィンドウなどの先進的なハードウェア,
ソフトウェアを導入したパソコンを製品化するなど,
技術開発力に優れた企業として知名度が高い。
■機械語の自動プログラムとは。
実際には、人間がコンピュータへの命令を機械語で直接書くことは通常はなく、
高水準のプログラミング言語を使います。
プログラミング言語で書かれた命令が、インタプリタやコンパイラと呼ばれる
特別なコンピュータプログラムによって自動的に機械語に翻訳されて
機械による加工が実行されます。
「雄二君は、すでに『家』持ちですか。
すごいですね、
僕よりも若いというのに。」
冷蔵庫から取り出してきたコーヒー缶を受け取りながら
順平が雄二に語りかけます。
「うちの工場のやり繰りも大変ですが、
我が家の家計は、実は大変です。
家を買ったとたんに、子供まで出来てしまい
嬉しい半面、厳しい現実が待っています。
今のところは社長が奔走をして、なんとか回っていますが
現状は火の車です。
まぁ、このあたりが個人経営の厳しいところです。
順平さんの会社のように、
成型工場とセットで経営がされていれば
相乗効果などもあるようですが、
まったく金型屋は、資金がかかりすぎます・・・・」
明るい窓際の方へ歩き、テーブルの上に置かれた図面をかたずけてから
『どうぞ』と、雄二が手招きをします。
そう言えば、今日は社長の姿が見えません。
「社長は、今日も金策で走り回っています。
働き過ぎと言えばそれまでですが、
これだけ最新鋭の機械を設備すると、さすがに過剰といえます。
通常の仕事量ではまかないきれないために、
最近は、弱電関係との取引も増えました。
まぁ・・・・このところ、特に
貧乏暇なし状態です」
そういえばこの工場自体も、
市内から転出をしてきて、新しく建て替えられたばかりでした。
工場を新築したばかりだというのに、さらに相次いで
自動化のできる最新鋭機械の導入に力を入れ始めています。
『あそこの社長は遣り手だから』と言う評判と共に、過剰設備による経営悪化の
心配なども同時に囁かれていました。
しかしこの時代では、
高精度のプラスチック製品の需要が高まりをみせてきたために、
金型業界では、今まで以上の高精度の加工技術を持つ機械と、人材の確保が
必須課題になってきました。
「俺たちはいくら働いても、
所詮は、機械メ―カーに奉仕するだけだ。
考えてみろよ。
一昔前の金型なら、手動の機械に手加工でも形は造れた。
ところが今の時代は、見た目が勝負の時代だ。
シンプルでいいと思うものまで、
見た目を考えてやたらと外観やデザインを凝りたがる。
金型も、結局は、複雑で手間暇がかかるものばかりが求められるようになった。
そのために、億を越える設備投資が必要だ。
従業員が4~5人の町工場に、1億円の借金だ、
この先に待っているのは、おそらく・・・熾烈な生き残りのための競争だ。
それが解っていても、高い機械を設備して
メーカーから仕事を大量に受注する必要がある。
なんだか、自分で自分の首を絞めているような気もするよ。
機械は疲れないだろうが、
生身の人間には限界があるからな、
あんたも、働き過ぎには気をつけろよ。」
いつだったか、業界の顔合わせを兼ねた宴席で
此処の社長が、酔いに任せて、そんな愚痴をこぼしていたのを
順平が思い出しました。
・本館の「新田さらだ館」は、こちらです http://saradakann.xsrv.jp/
第二幕・第二章 「過剰設備と働き過ぎ」
「それだけに、プログラムも厄介になるという訳ですね」
「アップル・コンピューターと言う、
機械語のプログラムが登場して、この機械はそいつで制御をされています。
ただし、簡単と言っても有る程度の専門知識は必要です。
でもこいつが、フル稼働を始めると
職人技の手加工などは、いっぺんに駆逐されてしまいそうです。
なにしろ、従来の機械ではたいへんに苦労していた、
曲面や複雑な形状まで、プログラムひとつで、
自動運転で、自由自在に削れるようになるのですから・・・
最近の、機械の進歩ぶりには、
凄いものが有ります」
「ほう、人の知能や技術まで
超えるかも知れない代物ですね・・・・」
「いえ、あくまでも人が造り出したものです。
これからはコンピューターが組み込まれた
こういう万能の工作機械が主流になるかもしれません・・・・
しかし高価な設備です。
こいつ一台で、我が家の新築建売住宅が買えてしまいます。
金型加工は、ほんとうに『金食い虫』の仕事です、
従業員4人で、設備だけでも1億近い借金になるくらいですから。
不況に強いと言われている職種ですが、
なにかのきっかけで仕事が止まった瞬間に、
この辺の小さな金型工場は、多すぎる設備投資のために
あっというまに倒産です。
怖い話ですが、これもまた金型業界の現実ですね」
「そうですょね。
それだけの危険は充分に、ありますね」
コンピューター付きの工作機械の導入がすすんでいる
順平の金型工場でも、それはありうる話でした。
すでにこの時代から、土地の高騰を軸に日本経済がバブル景気へと
突入する気配を濃厚に見せ始めていました。
■アップルコンピューターとは。
米国のパーソナルコンピューターのメーカーです。
スティーブン・ジョブスSteven Jobsら3人が1976年に創設。
株式会社は翌1977年設立。早くからカラー表示機能を備えたパソコンや,
マウス,マルチウィンドウなどの先進的なハードウェア,
ソフトウェアを導入したパソコンを製品化するなど,
技術開発力に優れた企業として知名度が高い。
■機械語の自動プログラムとは。
実際には、人間がコンピュータへの命令を機械語で直接書くことは通常はなく、
高水準のプログラミング言語を使います。
プログラミング言語で書かれた命令が、インタプリタやコンパイラと呼ばれる
特別なコンピュータプログラムによって自動的に機械語に翻訳されて
機械による加工が実行されます。
「雄二君は、すでに『家』持ちですか。
すごいですね、
僕よりも若いというのに。」
冷蔵庫から取り出してきたコーヒー缶を受け取りながら
順平が雄二に語りかけます。
「うちの工場のやり繰りも大変ですが、
我が家の家計は、実は大変です。
家を買ったとたんに、子供まで出来てしまい
嬉しい半面、厳しい現実が待っています。
今のところは社長が奔走をして、なんとか回っていますが
現状は火の車です。
まぁ、このあたりが個人経営の厳しいところです。
順平さんの会社のように、
成型工場とセットで経営がされていれば
相乗効果などもあるようですが、
まったく金型屋は、資金がかかりすぎます・・・・」
明るい窓際の方へ歩き、テーブルの上に置かれた図面をかたずけてから
『どうぞ』と、雄二が手招きをします。
そう言えば、今日は社長の姿が見えません。
「社長は、今日も金策で走り回っています。
働き過ぎと言えばそれまでですが、
これだけ最新鋭の機械を設備すると、さすがに過剰といえます。
通常の仕事量ではまかないきれないために、
最近は、弱電関係との取引も増えました。
まぁ・・・・このところ、特に
貧乏暇なし状態です」
そういえばこの工場自体も、
市内から転出をしてきて、新しく建て替えられたばかりでした。
工場を新築したばかりだというのに、さらに相次いで
自動化のできる最新鋭機械の導入に力を入れ始めています。
『あそこの社長は遣り手だから』と言う評判と共に、過剰設備による経営悪化の
心配なども同時に囁かれていました。
しかしこの時代では、
高精度のプラスチック製品の需要が高まりをみせてきたために、
金型業界では、今まで以上の高精度の加工技術を持つ機械と、人材の確保が
必須課題になってきました。
「俺たちはいくら働いても、
所詮は、機械メ―カーに奉仕するだけだ。
考えてみろよ。
一昔前の金型なら、手動の機械に手加工でも形は造れた。
ところが今の時代は、見た目が勝負の時代だ。
シンプルでいいと思うものまで、
見た目を考えてやたらと外観やデザインを凝りたがる。
金型も、結局は、複雑で手間暇がかかるものばかりが求められるようになった。
そのために、億を越える設備投資が必要だ。
従業員が4~5人の町工場に、1億円の借金だ、
この先に待っているのは、おそらく・・・熾烈な生き残りのための競争だ。
それが解っていても、高い機械を設備して
メーカーから仕事を大量に受注する必要がある。
なんだか、自分で自分の首を絞めているような気もするよ。
機械は疲れないだろうが、
生身の人間には限界があるからな、
あんたも、働き過ぎには気をつけろよ。」
いつだったか、業界の顔合わせを兼ねた宴席で
此処の社長が、酔いに任せて、そんな愚痴をこぼしていたのを
順平が思い出しました。
・本館の「新田さらだ館」は、こちらです http://saradakann.xsrv.jp/