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「慰安婦」問題の最終的かつ不可逆的な解決?

2016年01月02日 | 三千里コラム

韓国内と世界各地に建立された「少女の像」



「解放と分断の70年」だった昨年は、年初から朝鮮半島に画期的な変化を願う声が充満していた。70年の歴史を振り返るとき、朝鮮民族は今もって植民地統治の苦痛を癒やされず、南北分断の対決意識に束縛されている現実を目の当たりにするからだろう。日本軍「慰安婦」問題の封印を強要され、南北関係も改善されなかった2015年は、植民地主義と分断イデオロギーの克服が、朝鮮民族にとって今後も切実な課題であることを痛感する一年だった。

12月28日、ソウルで日韓外相会談が開かれ、「慰安婦」問題の妥結を確認する協同記者会見が行われた。以下に、日本政府外務省の公表した岸田外相の発言を要約する。

(1)慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,日本政府は責任を痛感している。安倍首相は慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。

(2)日本政府は今般,日本政府の予算により,全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。韓国政府が元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し,これに日本政府の予算(約10億円)を一括で拠出し,日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行う。

(3)日本政府は今回の発表により,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。あわせて,日本政府は韓国政府と共に,今後,国連等国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える。

一方、尹炳世・韓国外相の発言は以下の通りである。

(1)韓国政府は,日本政府の表明と今回の発表に至るまでの取組を評価し,今回の発表により,日本政府と共に,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。

(2)韓国政府は,日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し,韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する。

(3)韓国政府は日本政府と共に,今後,国連等国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える。

韓国政府は今回の妥結に関し、「朴槿恵大統領の大乗的な決断、韓日交渉は大団円」とのコメントを発表し、大統領の功績を称えることに終始した。アメリカ政府や国連も、いち早く歓迎の意を表明している。特に、韓国大統領の腰巾着と言われている潘基文・国連事務総長は、「朴槿恵大統領がビジョンを持って正しい勇断を下したことについて、歴史が高く評価すると思う」と、最大級の賛辞を送っている。

だが、こうした“肯定的”な評価は、被害当事者である元「慰安婦」女性たちの怒りの前には、あまりにも虚しいものだ。当事者が納得しない妥結は、決して“最終的かつ不可逆的な解決”ではないからだ。朴大統領が陣頭指揮した今回の交渉を見る限り、朴槿恵政権の対応は「独善・無能・傲慢・屈服・恥辱」と言わざるをえない。妥結内容の問題点を、以下に指摘する。

まず、日本軍「慰安婦」制度は、日本政府および軍によって組織的・体系的に行われた国家による戦争犯罪である。本質的に強制的な性奴隷制度であった事実を考慮するなら、典型的な「人道に反する罪」と言えよう。だからこそ国連人権委員会が1996年の報告書で、「慰安所の設置は国際法違反であり、日本政府は法的責任を負わねばならない」と勧告したのだ。

日本政府は一貫して、法的責任を負うことを拒否してきた。今回の発表文にある日本政府が痛感する「責任」も、これまで繰り返し表明してきた曖昧な「道義的責任」の域を超えるものではない。当日、岸田外相は共同記者会見直後に、「法的な立場に従来と何らの変更もない」と日本記者団に語っている。10億円の提供に関しても彼は、「賠償金ではない」と言明している。

法的責任を負うということは、戦争犯罪の事実を明確に認定し、必要な後続措置を取ることを意味する。即ち、徹底した真相究明と責任者に対する審判、事実に基づく国家次元での謝罪と賠償、関連資料の公開と教科書の記述などの再発防止策、などが義務として求められるのだ。厳格なようだが、これが国際人権の視点であり基準である。また、日本の政府と国民が拉致問題に関して、北朝鮮当局に要求している内容でもある。

次に、歴史問題の交渉で、「不可逆的(irreversible)」という単語の使用は極めて異例である。この単語は一般的に、非核化交渉など軍事問題で使用されるからだ。米国が北朝鮮に対し、一方的な核廃棄を強要する際に使用する「CVID(完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄)」が、まさにそれである。

対等な主権国家間の外交交渉では、決して登場しない用語である。1965年の日韓請求権協定にある「完全かつ最終的」に比べ、より拘束力のある表現と言えよう。「いかなる理由であれ、二度とこの問題を提起しない」という誓いに等しいからだ。だが、「不可逆的」という用語を、韓国政府が率先して提案したというのだから驚愕を禁じ得ない。

最大の問題点は、朴槿恵政権が交渉に際し、被害当事者の意見を全く聴取しておらず同意も得ていないという事実だ。元「慰安婦」女性たちが望む解決とは何か、その痛切な心情を多少なりとも理解しているとは思えない。

「私たちにはお金よりも、名誉の回復が必要なのだ」(イ・オクソン氏)。
「求めるのは補償ではなく賠償だ。政府は私たちのことを考えてないのだろう。こんな合意内容は全て無視する」(イ・ヨンス氏)。

こうした当事者の抗議に大統領は、「完全ではないが最善の合意だ。韓日関係の改善に向け、大乗的な見地からの理解」を求める談話を発表している。韓国政府の立場は、「正式な依頼も受けていない国選弁護人」に喩えることができるだろう。依頼人である被害当事者と相談もせずに独断で加害者と交渉し、屈辱的な条件で示談したあげく、「全て解決したので同意せよ」と言い張る無能な国選弁護人...。

この厚顔無恥な国選弁護人は、加害者への行き届いた配慮を忘れない。在韓日本大使館前の「少女像(平和の碑)」撤去に向け、“適切に解決されるよう努力する”そうだ。「少女像」は2011年12月14日、「慰安婦」問題の解決と平和を祈念する被害者たちや支援団体が、1000回目の水曜デモを期して設置したものだ。そもそも、韓国政府が移転を要求し介入する問題ではない。

日本の主要日刊紙によると、10億円の支出は「少女像」の撤去が条件だという。岸田外相は更に、「韓国政府が今後、慰安婦関連資料をユネスコの世界記録遺産には登録しないだろう」との見解を表明した。いかに米政府の圧力があったとはいえ、ここまで侮辱されても“最善の合意”と主張するのだろうか?

ちなみに、10億円はどれほどの金額なのだろう。比較のために、日本政府がアメリカから購入する「オスプレイV22B機」の価格を紹介しよう。2015年5月5日、米国防総省は垂直離着陸機「オスプレイV22B」17機とその関連装備を日本に売却する方針だと議会に通知した。価格は推定で総計30億ドル(約3600億円)。1機あたり211億円である。つまり、日本政府が支出する10億円は、オスプレイ1機の20分の1に満たない「はした金」なのだ。

「慰安婦」問題は果たして、“最終的かつ不可逆的に解決”されたのだろうか...。検証の基準は朴槿恵大統領が、この問題に関してくり返し強調してきた原則に依拠したい。「被害者が受け入れ、我が国民が納得できる解決策」(2015年10月30日、朝日新聞・毎日新聞に掲載された書面インタビュー)がそれである。大統領が自らこの原則を覆したのであれば、12月28日の妥結は無効である。(JHK)