首席秘書官会議で冒頭発言を述べる朴槿恵大統領(6.27,青瓦台)
朴槿恵大統領は6月27日、青瓦台(大統領官邸)で首席秘書官会議を主宰した。大統領は韓国社会が総体的な危機状況にあるとの認識を示し、それへの対処として、国民の団結と政府への全面的な支持を強調した。
当日、北への露骨な敵意を反映した大統領の言辞は、冷戦時代のマッカーシズム(アカ狩り)を彷彿させるものだった。特に国内の反対勢力を“内部の敵”と規定しその一掃を煽動するのは、実父・朴正煕の独裁統治下で見飽きた手法である。現政権への批判の意を込めて、会議における朴槿恵大統領の主要発言を検証したい。
朴槿恵大統領の現状認識は以下の通りである。
「英国のEU離脱など、韓国経済を取り巻く内外の条件は日増しに悪化している。加えて、ミサイル発射をくり返す北朝鮮の挑発行為は、わが国の安全保障に深刻な危機をもたらしている」
ところが、危機状況への対処において朴槿恵大統領は、極めて飛躍した見解を述べている。
「国論を分裂させ北朝鮮を擁護する勢力が存在する。彼らが公然と活動しているのを座視してはならず、防止しなければならない。...国家の危機に際して最も警戒すべきなのは、内部の分裂と無関心だ。かつて(南)ベトナムが崩壊したのも、国内の分裂と国民の無関心が大きな原因だった」
では、朴槿恵大統領の言う「国論を分裂させ北朝鮮を擁護する勢力」とは誰か?
どうやら、『民主社会のための弁護士の集い(民弁)』を指しているようだ。民弁は今、政府が総選挙の直前に公表した集団脱北(中国の北朝鮮食堂女性従業員)事態に対し、当事者たちの身辺保護と意思確認が必要だと主張し、彼女たちとの面会を要求している。言うまでもなく、真相の究明を恐れる政府は一切の面会を許可しない。
また、「共に民主党」前代表のムン・ジェイン氏も含まれているのだろう。彼は米政府に対し、戦時作戦統制権(事実上の統帥権)の返還を要求すべきだと主張しているからだ。前日(6月26日)に出した論評で与党・セヌリ党は、ムン・ジェイン氏に「北朝鮮の政権を擁護する態度だ」と露骨な非難を浴びせている。
民弁やムン・ジェイン前代表を“内部の敵”と見なす朴槿恵大統領は、北への制圧政策に全力を投入してきた。“圧力をかけ続ければ北の体制は崩壊する”との妄想への執着は、歴代のどの大統領よりも強いようだ。以下の発言から、その一端を窺えるだろう。
「北朝鮮を変化させる唯一の方法は、より強力な制裁と圧迫だ。北朝鮮の核・ミサイル開発意志よりも、これを防ごうとする私たちと国際社会の意志がはるかに強いということを、彼らに見せつける必要がある。国際社会は今、北朝鮮問題に対してどの時よりも強力な連帯を形成している。このような国際社会の連帯とともに、私たち国民の団結と意志が何よりも重要だ」
朴槿恵大統領の頑なな発言には、野党からも驚きを越えた慨嘆の声が後を絶たない。とりわけ、金大中元大統領の三男、金弘傑(キム・ホンゴル)「共に民主党」前国民統合委員長
の指摘が的を射ている。彼は当日のツイッターで次のように述べた。
「故障した録音機でもあるまいに、いつまで昔ながらのアカ狩りと従北騒動に熱を上げているのだ。...南ベトナムの崩壊は、植民地支配に協力した反民族的で無能な指導層のためだ。彼らが国民を分裂させて戦意を喪失させたのだ」
彼はまた、現政権の悪政を厳しく糾弾している。
「テロ防止法や国定教科書の導入を強行して国民を分裂させたのは誰か。...ベトナム崩壊を口実に国民を脅迫し、大統領緊急措置を宣布したのは朴正熙だった。独裁政権の手法を再び使うというのか!韓国経済が深刻な状況だと言いながら、呑気な外遊に明け暮れているのは、他でもない大統領御本人ではないか。総選挙で苛酷な審判を受けたなら、少しは自重するのがよろしかろう」
参考までに、世論調査機関『リアル・メーター』が6月23日付で公表した朴槿恵大統領の支持率は、前週に比べ2.3%下落の35.1%である。一方、不支持率は2.0%上昇し60.0%だった。35%の支持率を、どう評価すべきなのか...。「不安定」には違いないが、「レーム・ダック」と見なすにはまだ尚早のようだ。ただ明らかなのは、大統領には、総選挙の民心を尊重する意志は皆無であるということだ(JHK)。