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南北対話再開への課題

2015年01月19日 | 三千里コラム

「5.24措置」の解除と民間交流の拡大を求める市民団体(1.13,ソウル光化門広場)



2015年が明けて、すでに半月が経過しました。祖国の解放と分断から70年を迎える今年、地球上で唯一の分断国家となった朝鮮民族の一人として、南北の和解と平和統一に向けた何らかの希望を見出したいものです。そうした切実な思いは、南北の為政者や政府にも共通しているようで、新年早々から対話再開に向けたエールが交換されています。

北は1月1日の新年辞で、金正恩・国防委第一委員長が次のように提案しています。
①祖国解放70年の今年に、民族分断の悲劇に終止符を打ち自主統一の大路を切り開こう。
②緊張を激化させる戦争演習(韓米合同軍事演習)を中断し、平和的な環境を作り出そう。
③自らの思想と制度を絶対視して体制対決を追求すべきではない。
④高位級会談を再開し部門別会談を行う。雰囲気と環境が整えば首脳会談の開催も検討。

一方、南の朴槿恵大統領も1月12日の新年記者会見で、いくつかの提案をしました。
①光復と分断の70年を同時に迎える今年、断絶と葛藤にまみれた分断の歳月を終えよう。
②「統一準備委」を中心に国民の合意を集約し、平和統一への確固たる土台を構築する。
③必要なら首脳会談も検討するが、北が非核化への誠意を見せることが前提だ。
④民間次元の支援と交流を通じて、実質的な対話と協力への道を模索する。

双方の主張には、いくつかの共通点と差異があります。まず、共通点から見ましょう。南北ともに、節目の年を迎え関係改善と対話再開への意思を表明しました。しかし同時に、根深い相互不信から、“誠意を持って信頼に値する措置を先行させよ”と相手に要求しています。

関係改善の必要性は互いに認めつつも、実際に対話の席に着くのではなく、自らの主張を一方的に公表して相手の反応を見守る姿勢なのです。実質的な進展のない「声明合戦」に終始しているのが、南北関係の偽らざる現状と言えるでしょう。

次に差異ですが、分断の構造的な要因に根ざすだけに、その克服が容易ではありません。対話再開の条件に掲げた“信頼措置”として、南は「北の非核化」を、北は「韓米軍事演習の中断と制度対決(吸収統一)政策の撤回」を求めています。

ところで、「北の非核化(正しくは朝鮮半島の非核化)」は六カ国協議の議題であって、南北対話で解決が可能な問題ではありません。北の核開発は朝米敵対関係の産物だからです。朝米の関係改善(朝鮮戦争の終結と平和協定、米朝修好)と並行して推進しない限り、「北の核放棄」を先行して要求することは非現実的です。これは筆者の持論ではなく、2005年9月の「第四回六カ国協議共同声明」に明記された合意内容です。

しかも、南は昨年、韓国軍の戦時作戦指揮権(事実上の統帥権)を無期限で米軍に譲渡する(返還の無期延期)と表明しました。北が自らの体制保全に緊要な核問題について、軍事上の最高権限を保有しない南と真剣に協議することはないでしょう。

同様に、北の要求する「韓米軍事演習の中断」は、統帥権のない南が単独で決断できる事項ではありません。米政府の同意が必要です。よって、逆説的に思われるでしょうが、北が韓米軍事演習の中断を望むなら、先ず南北関係を改善し、南をして米政府を説得させるのが有効な手段となります。1991年の事です。南北対話を積み重ねることで、翌年の「チーム・スプリット韓米軍事演習」中断という、米政府の決定を導き出した前例があります。

また、南が昨年に結成した「統一準備委員会」(大統領が委員長)を、北は“吸収統一を目指す前衛組織”だと警戒しています。その組織を南は“統一政策立案の中心に据える”と表明したわけですから、対話再開への大きな障害になりそうです。

「統一準備委」には、統一問題の専門家よりも各分野の保守的な人士が主に網羅されています。この機構は“自由民主主義と資本主義経済による体制統一”を掲げることで、国民世論を牽引する目的で結成されたと推測されます。政権基盤の脆弱な朴槿恵政権が、国論集約を繕うための国内用組織と言えるでしょう。昨年12月29日、「統一準備委」が北に当局間の対話再開を呼びかけましたが、北からの反応はありませんでした。

このように、南北双方が相手の譲歩を要求して自ら積極的な和解策を実行しようとしない現状は、対話再開への展望を悲観的なものにしています。しかし、これまでに南北間で実現した首脳会談や高官級会談の経緯を見ると、すべての条件や環境が整備されてから開催されたわけではありません。首脳会談が行われた2000年と2007年にも、韓米軍事演習は実施されています。ただ、規模を縮小し北を刺激しないという配慮はありました。

相互不信に囚われ相手を批難するだけでは、南北関係は一歩も進みません。相手の真意と本気度を確かめるためにも、先ずは対話の席に着き交渉することから始めるしかないのです。その際に、「北の非核化」や「韓米軍事演習の中断」という難易度の高い軍事安保問題を優先するよりも、南北双方にとってハードルの低い、民間交流と経済協力の拡大に重点を置くのが賢明でしょう。

そして、互いに相手が望む内容に関心を示すことが肝要です。南は、北の指導者と体制を罵倒する宣伝ビラの対北散布を禁止し、北は、南が常に掲げる離散家族の再開事業に応じることです。対話再開にふさわしい条件と環境は、何もしないのに自然発生するものではありません。互いの意志によって作り出すしかないのです。それが、解放と分断の70周年に政権を担当した、南北当局者の民族的な使命ではないでしょうか。

最後になりましたが、南北関係に重大な影響を及ぼす米政府の朝鮮半島政策を検討してみましょう。残念ながらオバマ政権は、北に対して極めて厳しい対決姿勢を堅持しています。“戦略的忍耐”という名目で北との一切の交渉を拒否し、軍事的圧力と経済制裁を加重することで屈服を強要しています。金正恩体制の転換(レジーム・チェンジ)が主要な目標のようです。

昨年は「核・ミサイルの先行放棄」という従来の要求に加え、人権問題を通じた政治攻勢と、ソニー映画社へのサイバー・テロ問題を契機に国際的な孤立化を図りました。12月19日、米連邦捜査局(FBI)はソニー社へのハッキングを“北の犯行”だと結論づけましたが、具体的な確証を提示しませんでした。『ニューヨーク・タイムズ』をはじめ、米国内のコンピューター専門家たちが、政府の発表に疑問を提示しています。内部犯行の可能性を排除できないとの見解でした。

しかし、オバマ大統領は翌日に“北朝鮮への報復措置を取る”と表明し、“テロ支援国家リストへの再登録も辞さない”と意気込みました。そして1月2日には、北に対する追加の金融制裁措置に署名しています。新年早々に、しかもハワイで休暇中だった大統領が緊急に対処するほどの重大問題だったのか、甚だ疑問です。時期的には、年末年始にかけて南北双方から対話再開への意思表示があった事と、無関係ではないようです。

新年冒頭から首脳会談の可能性が台頭するなど、南北関係改善の兆候が感知されることに、米政府は極めて敏感な反応を示しているのです。1月2日、大統領が慌てて北への追加制裁を発表したのは、“現時点で、早急な南北和解と朝鮮半島の緊張緩和を望まない”という米政府の明確なリアクションと言えます。

オバマ政権の「アジア回帰政策」の本質は、対中国包囲網の形成と言えます。その象徴が“北の核・ミサイル脅威”を口実にした、対中国(北朝鮮)ミサイル防衛網の構築です。米日韓の同盟強化によって中国を牽制するためにも、朝鮮半島で一定の緊張と危機の造成が必要となります。オバマ政権の強硬な対北政策が、今後も続くようです。1月12日には、今年も韓米軍事演習を実施すると発表しました。

米政府の敵対政策を緩和させる動力は、対話再開による南北関係の改善しかありません。南北の政府当局は無意味な「声明合戦」を止揚し、速やかに対話を再開すべきです。そうした意味からも、李明博政権の下で断行された民間交流と経済協力の制限(5.24措置)を撤回することは、行き詰まった現状を突破する英断となるでしょう(JHK)