『祖国平和統一委員会』の談話を放送する「朝鮮中央テレビ」(2013.9.21)
北はなぜ、離散家族の再会を一方的に延期したのか
本来なら今日(9月25日)、金剛山で南北の離散家族が再会しているはずでした。直前の9月21日になって北の『祖国平和統一委員会』が談話を発表し、「南の対決的な姿勢によって正常な対話と交流が出来る状況ではない」との理由で再会事業の延期を表明したのです。
『祖国平和統一委員会』が南の対決姿勢として挙げたのは、以下の三点です。
①最近の南北関係好転は北の誠意と譲歩の結果であるのに、南は朴槿恵政権の原則的な対北政策の成果だと一方的な宣伝に利用している。②南は北の体制と制度を全面的に否定し、米韓合同軍事演習を通じた軍事的圧迫を続けている。③李石基・統合進歩党事件に北が関与していると誹謗し、公安政局をつくり上げている。
今回の談話発表に至るまでには、いくつかの伏線がありました。「南は北の忍耐を誤認してはならない(8月20日付『祖国平和統一委員会』の談話)」、「我々の寛大さと忍耐にも限界がある(8月29日付『国防委員会』政策局の談話)」などです。その間、開城工業団地の操業再開と離散家族の再会事業が合意されましたが、北の対応はかつてなく宥和的なものでした。二つの事案とも、ほぼ南の要求と主張が貫徹されたと言っても過言ではありません。
北は離散家族の再会事業と金剛山観光の再開をリンクさせようとしましたが、南は頑なに拒否しただけでなく、観光事業再開のための会談を一ヶ月以上も延期しました。南の協調を期待した北にとっては、”一方的に無視された屈辱感”だけが残ったことでしょう。加えて、キム・グァンジン国防長官の相次ぐ強硬発言を、北の国防委員会は”容認できない挑発”と受け止めたはずです。
彼は9月15日の国防政策説明会で「北は南内部の従北勢力を扇動し、サイバー戦・メディア戦・テロなどで社会混乱を作り出す’第四世代の戦争’を画策している。統合進歩党の内乱陰謀事件はその準備段階だ」と述べました。それだけでなく、最近の南北関係における北の柔軟姿勢は、「困難な状況を脱するための偽装的な対話戦術に過ぎない」と露骨な敵意を表しています。
南の保守メディアは「朴槿恵大統領の”朝鮮半島信頼プロセス”が功を奏している。北に対する原則的な姿勢こそが相手の譲歩を引き出し、南北関係で主導権を握ることができる」と政府を讃えています。しかし、南北関係で勝敗や優劣を競うことは無意味であり、禍根を残すだけです。不信と対決を助長し、あげくには”ガラス細工のように脆い”合意を一瞬にして破綻させるからです。
とは言え、直前になって離散家族の再会を一方的に延期した北の対応は、どのような大義名分を掲げても批難を免れないでしょう。『祖国平和統一委員会』の談話は「南で起きる今後の事態を鋭意注視する」と述べていますが、南の国民世論は北のメッセージを理性的に判読する状況ではありません。北への不信と感情的な反発が全面化しているからです。何よりも再会を待ちわび、金剛山へ向かう準備を終えていた南北196名の離散家族...。その方たちが味わった挫折感と失望は、私たちの想像をはるかに超えるものです。
離散家族の苦痛を解消できるのは、当該家族ではなく南北の国家当局です。「中止」ではなく「延期」された離散家族の再会事業を速やかに実現するためには、南北当局が協調できる条件を作り出すしかありません。南は常に、「離散家族の再開は人道的な問題なのに、北が政治的な状況と関連付けて妨害している」と批判してきました。
であるなら、離散家族問題の進展は南が主導的に状況を作り出し、北の協調を引き出す以外に道はありません。どうすれば北を、離散家族の再会という人道事業の協調者(パートナー)にできるのでしょうか。人も国も皆、相応のプライドがあります。北が、自分からは切り出しづらい要望に配慮してあげることです。南が切実に解決したい問題があるのなら、北にとって切実な問題の解決を手助けすればいいのです。
金大中・盧武鉉政権の2000年から2007年まで、16回にわたる離散家族の再開事業が実現しました。南が人道主義の立場でコメと肥料を定期的に支援したからこそ、北も人道問題として離散家族の再会事業に協調したのです。もちろん、民族の和解という側面も無視できませんが...。
朴槿恵政権も前任政権の教訓を学んでほしいものです。原則論を掲げ、いくら口先で「離散家族の再会は人道問題だから誠実に対処せよ」と叫んでも、北を動かすことはできません。今回、『祖国平和統一委員会』の談話に明言されていない、北の”切実な事情”があります。金剛山観光事業の再開です。南がこれを無視し続けるなら、離散家族の再会が遅まきながら実現したとしても、一回だけのイベントに終わるでしょう。
朴槿恵政権が離散家族の再会を真に人道問題と見なすなら、定例的な事業としての実現を目指すべきです。金剛山に面会所を設置したのは再会事業の定例化を想定したからであり、そのためにも金剛山観光の再開は、北の積極的な呼応を引き出す不可欠な条件です。
相手を制圧し体制や政策の転換を強要する姿勢からは、和解と協力の精神は芽生えません。信頼は尚更のことです。6.15共同宣言の核心である相互尊重と平和共存の姿勢を堅持すれば、人道問題でも統一問題でも、南北が協調して前進することができるでしょう。 JHK