君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

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『君がいる幸せ』 Missing-link編 「伝えたい言葉」 十六話

2013-05-06 02:34:41 | 『君がいる幸せ』 Missing-link編
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
  <人物>
ジョミー ノア副首相に就任 ジュピターは宇宙の軍を動かせる権限を持っている
キース・アニアン ノアの首相 人類の評議会議長を兼任
ソルジャーズのブルー 人類が作ったブルーのクローン(タイプブルー)
      ジョミー 本当はジョミーはクローンではない(タイプイエロー)

   『君がいる幸せ』 Missing-link編 「伝えたい言葉」 十六話

「大丈夫ですよ。辛くて忘れてしまえば良いと思う事もあるけど、記憶を失っても僕は貴方の事を忘れない」
 ジョミーはまっすぐにブルーを見つめてそう答えた。
「ジョミー。君は知っているかい?僕がどれほどの思いで君を探して来たか、君を見つけた時、僕は喜びで死んでしまうんじゃないかと思ったよ」
「…ソルジャー・ブルー」
 本物のブルーのように、僕に言い聞かせるように優しく語りかけてくる。それは、アルビノの銀髪の紅玉の瞳。薄紫のマントをなびかせ銀色の装飾のあるソルジャー服を着た彼がそこに立っている錯覚を僕に起こさせた。
「だから、僕は君を救いたかった。全てを成し終えた時、君の瞳で見た世界を君の思いで生きていって欲しかった。君の、君だけの幸せを見つけて欲しかった…ただそれだけを願った」
 彼は胸の前で手を組んだ後、僕に向かって手を差し伸べた。僕は思わずその手を取りかけたが、すぐに戻し答えた。僕には、ここで伝えなければならない事があった。
「知っていましたか?僕は、そんなに、それほどまでに想ってくれる貴方を見殺しにしたんですよ。あの時の不安は貴方の死も予告していたのに…」
「見ていればわかるさ…。知っていたよ」
 ブルーは優しく微笑んだままだ。
 そう。
 ここで、貴方に贖罪しなければ僕は先へ進めない。
「僕は、この先…生きて再び会えない事を気付いていました。けれど、貴方を追わなかった。守らなかった。僕は選んだんです。愛する人と、仲間たちのどちらを命を優先するのかを…。その選択に悔いはありません。たとえ、貴方が僕に追えないように指示をしていなくても、僕は皆を選んだと思います」
「君の選択は間違っていない。あらゆる全てに予感はあった。だから、僕はその先で君を待つ事にしたんだ」
「大戦中に、テラズナンバーやコンピューターテラを探す内に、貴方の痕跡を見つけて、その意味を知った時、僕は愕然としました。貴方は全てを成し終えたその先まで用意していると…何てことをして逝くのですか。僕は貴方に何もしていないのに…何も…」
 まだ足りない。まだ全部言えていないのに、後悔の感情が溢れてきて、僕は泣きそうになった。
「……」
 ブルーは笑顔で僕を見ている。
 これが最後なら言わなくてはいけない。泣いてちゃダメだ。僕は笑っていなければ、そうは思っても心が悲鳴を上げていた。
 遥かな未来で彼に遭うとしても、それは、今の僕じゃない。そして、今の貴方でもない。
 今は、今しかないんだ。
「貴方とマザーとの約束は、マザーは僕への遺伝子を途切らせない事、それはミュウを遺伝子レベルで排除しない事ですね。そして、貴方は迫害されながらも僕を見つけ育てる事」
「そう」
「僕という人間は、いったいどれ程までの罪を負うのでしょうか…。ミュウが僕を作る温床だったと、人類が決断をするその為に用意された戦争。全ては僕に何を託し、僕は何を見て、人類全てに何を望べば良かったのでしょうか」
「君は何も望んでいない」
「ブルー?」
「望んだとしたら、僕と同じだ。青い地球を望んだんだ」
「ブルー。それは、僕が本当に望むのは、貴方です。僕は貴方が好きです。何もいらない。何も、貴方さえ傍に居てくれたら…僕は何も望まない」
 ジョミーは再び泣きそうになるのをグッと堪えた。
 それを、ただ優しく見つめブルーは言った。
「ねぇ、ジョミー。僕の名前は何?」
 僕はうつむきかけていた顔を上げてブルーを見た。その後ろに青い地球が見えた気がした。
「ソルジャー・ブルー。貴方は、ブルーです…」
「そうだ」
「そうですね。貴方は地球そのものなんですね」
「君は僕の最後の希望だった」
「僕は貴方に、貴方は僕に青い地球を見せる為に生まれてきた。青い地球に戻すために、それが、人類の最後の願いで希望なんですね。それは途方もなく長いですね…」
 もうジョミーは泣いていなかった。
 穏やかな笑みでブルーを見つめていた。
 その瞳を見返してブルーも微笑んでいた。
 彼の目には、僕の後ろにも青い地球が見えているのかもしれない。そんな、優しい眼差しだった。
 ああ、もうこれで終わりだ。
 ここで終わるのが僕らには相応しい。

「僕は貴方に再び出会った。僕はもう大丈夫です。先にあの頂きに行っていて下さい」
「ああ、わかっているよ。僕らの望みは叶ったんだね」
「ええ…叶いました」
「君はこれを遠回りだったと思うかい?」
「いいえ。僕は少しも…思いません」
「ジョミー」
「今だから、今でなければわからなかった。今でなければ会えなかった。何一つとして無駄はないと思います。苦しかった事も、悲しかった事も、辛かった事も全てです。それは全部、この今でなければわからなかった。今でなければいけなかった。僕は、その全てを持ってこの先へゆきます。ブルー。僕は、今、幸せです」
「そうか、良かった…」
 ブルーがにっこりと笑った。
 ジョミーがブルーに抱きつき、その勢いのままキスをする。
 ブルーはそれを優しく受け止めた。
 やがて、ジョミーがオレンジ色に光りだす。
 僕と貴方の繋がりを、今、切ります。
 クローンのブルーから、ソルジャー・ブルーが去ってゆくのをジョミーは感じていた。
 それは、僕の中のブルーも同じだった。
「ありがとう」
 と、聴こえた気がした。

「ブルー。それは…僕の台詞ですよ。今まで、ありがとうございました…。僕はもう…大丈夫です…」

「これで、良かったんだよね?ジョミー」
 君はきっと「あなたが決めたのなら、僕はもう何も言いません」と言うだろうね。


「キース」
 歩いてゆくブルーを見送りながらジョミーが声をかけた。
 隣の部屋に居たキースが傍に歩いて来た。
「気が付いていたか?」
「うん。多分。知らない振りをしていたのだと思う」
「二人で会うと約束だったのに、俺がこうして傍にいるなんて、よく見逃したな」
 ソルジャーズのブルーを見るキースの目に優しい光が見える。
「きっと…」
「……」
「いや、わからないな。多分もう今さらだったんじゃない?」
「今さら?何がだ?」
「僕が彼らを騙すのがさ」
「お前…」
「わかってる。こういう言い方が彼らは気になるんだ。彼らは必死に生きてゆこうとしている。それに水を差す気はないさ」
「お前はまたそんな事…」
 と言いかけて、キースは質問を「お前はこれからどうするんだ?」に変えた。
 それは、きっと、ブルーを見送る僕の目にも何らかの変化があった事を彼は見て取ったのだろう。本当にキースは勘が良い。
「僕はしばらくアルテメシアにいるよ。まだスウェナに会ってないし…ブルーは、ノアに帰ると言うのだけど、あの子は、ベルーガが無いからどうも民間船でここまで来たらしい。彼の持つ影響力も教えないといけないね」
「ノアか…プロメテウスは三日後には出港だ。あれに乗ればいい」
「ありがとう。伝えておくよ」

「それより、ジョミーとの話し合いはどうだったんだ?」
「ああそれは、あの子もとても良い子で、下手な小細工なんか要らなかったと思ったよ」


  三時間ほど前
 僕はブルーと会う前にソルジャーズのジョミーと会っていた。
 彼は惑星ノアに居るので通信だけだったが、彼とこうして二人できちんと会話をするのはあの海戦以来だった。
 僕は彼と会う前を少し昔を思い出していた。
 僕が彼ら研究所の存在を知ったのは大戦中。人間がミュウを作り出そうとしているとの情報からだった。
 その頃はまだミュウ因子を人間の子供に植え付けて育つのを待つ程度のものだった。
 狂気とも思えるその研究が加速したのは、大戦後だ。僕が地球(イグドラシル)で大怪我をして人類の医療船に助けられてから…。あの時、研究者の一人があの船に乗っていなければ、そして、僕がソルジャー・ブルーの体を人類の許に残すような事をしなければ、彼らは作られる事無く、僕らと会う事も無かった。
 こんない運命に巻き込む事も無かった。
 僕とブルーの存在が、人間のミュウ化と共にクローンの研究もおこなわれるようになった原因だ。

「お前が存在しなければ」と言う人間。
「存在させ続けなければならなかった」マザー。
 それでも、僕はここにいる。
 そして、彼らを生み出すしてしまった。
 彼らの不幸は僕が作った。そうとしか思えない。
 僕は、メギドの惑星メサイア襲撃事件の後で、惑星ノアに跳んだ。そこには、助けられなかった多くの子供たちの遺体があった。人の形を成していない物まで、実験体の遺骸も同じように放棄されていた。僕はそこを塵の一つも残さないように燃やしつくした。僕はもっと早く手を尽くすべきだったと痛感した。
 木星などに引っ込まずに、逃げ込まずに、動くべきだったんだと。
「クローンに会ってみたい」なんて思ってはいけなかった。
 ミュウ因子はそれを持っているかいないかの二つしかない。それは、どこかで「オリジン」と繋がっている者だ。
 ジョミーの場合は異質だったと言える。彼は僕の遺伝子と繋がっている。だから僕たちはとても良く似ているんだ。
 彼の記憶は幾度となく操作されていて彼自身からは正確な情報はもう得られない。
 僕らが調べた結果では、彼は開拓を放棄された惑星の生き残りで、僕に似ている事から研究対象にされた。ただそれだけだった。そこだけ、不自然に記録として残っていた。
 その意味を僕は知っている。
 やがて、ミュウとなった彼は、僕、「ソルジャー・シン」となるべく教育され、記憶を書き換えられ続けた。
 推測だが、小さな機関がさまざまな所に在り、移動を続ける研究所のどこかで育てられ保管され、そのどこかでブルーと出会ったのだろう。そして、ブルーが覚醒した時のストッパーとなった。そこにブルーが望みタイプブルーの力が加えられた。
 彼の、ソルジャーズのジョミーはタイプイエローだ。
 戦闘タイプのタイプブルーの力はオールマイティーな能力を持っている。
 攻撃力も防御力も高い。だからと言って他のカラーのタイプが弱いと言う訳ではない、心の思いが強ければタイプブルーの力を凌ぐ事もある。
 僕が幼いシロエとカリナから受けた強い拒絶。彼らは何かを守る為に使う防御はとても強い。そう、自分を捨てていける強さだ。
「だから、僕はタイプイエローが苦手なのかな…」
 自分を守れなければ人は守りきれない。
 タイプブルーの力なんて、大事な人の手を離さなければ護りきれない強さなんだ。
 思考がそこに行き着いてしまうと、もう何も考えられなくなる。
「命を捨ててもか…」

 そろそろノアと通信が繋がる頃だ。
 空港の外が騒がしくなった。
 新造戦艦「プロメテウス」が入港したようだ。
 キースの到着だ。
「キース。僕がさ、マツカの事を話さないのは彼に嫉妬してるからなんだよ」
 僕はアタラクシアの空を見上げた。

 

   続く






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