君とともに生き、君とともに逝くのならば、僕は君の為に生きよう。

真城灯火の小説ブログです。
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『君がいる幸せ』 Missing-link編 「伝えたい言葉」二十話

2013-06-03 01:30:22 | 『君がいる幸せ』 Missing-link編
☆アニメ「地球へ…」の二次小説です。
<人物>
ジョミー ノア副首相に就任 ジュピターは宇宙の軍を動かせる権限を持っている
キース・アニアン ノアの首相 人類の評議会議長を兼任
ソルジャーズのブルー 人類が作ったブルーのクローン(タイプブルー)
      ジョミー 本当はジョミーはクローンではない(タイプイエロー)

   『君がいる幸せ』 Missing-link編 「伝えたい言葉」二十話

 僕は話の内容とジョミーの言う許しが繋がらなかった。
 だが、ジョミーは僕を見て静かにこう続けた。
「僕の矛盾はそこだったんだ。彼らを僕は殺せなかったけど…答えは出たんだ」
「ジョミー。それは間違っています」
「わかっているよ…僕の言葉は殺せなかった事に理由をつけたに過ぎない」
「あいつらは悪い事をしていたから、殺していいんです…」
「ああ、そうだね」
 ジョミーはそう言いながら、僕の前に来て手を取った。
 そのまま僕の頭を腕の中に納めた。
 そして「ごめんね」と言った。
 僕にはその意味がわからなかった。
「泣かないで」
 とジョミーが言う。
 僕は泣いてなんかいない。
 だけど…。僕は話の内容に頭がついていっていない事に気が付いていなかった。
 懸命に考えているけれど、思考と感覚がどこかにいっているようだった。きっと僕は酷い顔をしていたに違いない。
「ごめんね。君にはショックだったね。どうも僕は過去の事を話す事で他人を傷つけるんだって意識が薄いようだ…」
 ショック?
 ああ、そうか。僕は信じられないんだ。こんなに強いジョミーが何も出来ない状態で酷い暴力を受けた事が信じられないんだ。でも、僕は彼に何をどう言えばいいんだろうか?まだ、僕はさっきの話を信じ切れていない筈なのに、心が全然落ち着いてくれなかった。。
「あ…あのジョミー。僕が沈んでいるのは、僕らも、同じような事があったから…。教育ステーションで僕らは理由もなく他の生徒に攻撃されたんです。暴力では無くて精神的にでしたが、最初の短い期間だったけど…それを思い出してしまっただけで…。だから、わかるんです。あなたは辛くないのですか?僕は思い出すだけで辛くなります」
 僕は少しうろたえながらそう言った。
 でも、半分以上自分が何を言おうとしているかわかってなかった。ただ、ジョミーの話を必死になって自分の中でまだかみ砕いてる最中で、何も言えなかった。こんな気持ちをどう言葉にすればいいのかをただ模索していた。
「そうか…大変だったね。辛いのなら泣いていいよ。僕がここでこうしているから」
 僕が辛い?僕が泣く?それって、僕がする事?
「僕は泣いていないです…」
「心のずっと奥がここに来ているんだ。見ていればわかるよ」
「いいえ。いいえ。僕は泣きません。ジョミー。だから、僕はあなたが辛くないのかと…。僕は辛いです。だって、僕は自分だけが、すごく不幸なんだと思っていました。でも、トォニィもシドもセルジュも、ヴィーもキースも、そして、あなたも不幸だったんだと知って…だから…」
 支離滅裂だ。
 言葉が思い浮かばない。ただただ、自分が苦しくて辛かった。苦しくて苦しくて、僕はそれを怒りに変えて、ジョミーに当り散らしていただけだった。
「僕の不幸?僕は不幸じゃないよ。自分で行動して起こした事象なら、それは僕が選んだものだから」
「そんなの。殺されそうな目に遭う事を選んだってそう言うのですか?だから、辛くなかったって、あっさり話せてしまえるような事じゃないでしょう?」
 僕はジョミーの腕から抜け出し、反対に彼の肩を掴んで叫んだ。
「だって、暴力が怖かったのでしょう?」
「ああ。怖いと思ったよ」
「そんな…他人事みたいに言わないで下さい。だって、本当に何も出来なかっただなんて、あなた程の人が、そんなの酷過ぎる」
 きっと、僕は泣いている。でも、それは、意味のわからない怒りへと転換された。
「僕程の人?僕は普通の人間さ。ミュウの力が無ければ何も無い」
「そんな事は無いです」
「ただの子供さ」
「いいえ。ジョミー。違う。それは違う!子供だったって言うなら、そんな目に遭ってどうして、そんな風に話せるんですか?辛いって泣けばいいじゃないですか?」
「それはやったさ。怯えて、逃げて。叫んで、憎んで、泣いた。自分を蔑んだり憐みもした。それで、自分にはまだこんなに色々な感情があるんだと知ったよ」
「……」
 あの頃のジョミーは色々な感覚がマヒしていて、自分を動かすことすら力を使っていたと聞いた。泣き叫ぶのは人間の本能で力で動かしてはいないはず…。そう思った瞬間、怒りなのか、憐みなのか。とても酷く醜い感情が襲ってきていた。そんな僕をただ見つめてジョミーはこう言った。
「だからさ。記憶が粉々だって…事だよ」
 とジョミーは自嘲した。
「え?」
 人は誰だって記憶を消したり塗り替えたりして辛かった事を変化させて生きている。いちいち覚えていたら前には進めなくなってしまう。だけど、ミュウの能力はその忘れたい部分まで記憶のどこかに保管して忘れさせてくれない。なら、自分で壊すしかなかった。そういう事なんだ。そこまでの恐怖だったんだ。その時の恐怖の感情を思い出さないようにその部分の記憶を壊した…?だから、今こうして他人事みたいに話しているんだ…。
「自分で、砕いた…?」
「多分…ね」
「だったら。だったら、なおさら、殺していないんです?僕にはわからない。それなのに許すって何ですか?そんなの信じられない」
「君は殺していれば、納得が出来ると言うの?」
 ジョミーのこの言葉に訳のわからない感情に振り回されるのに疲れた僕は、それをまた怒りへと変えた。
「だって。命の危険はあったでしょう?殺されるとは思わなかったのですか?」
「殺されそうだから殺すってのは、極端な正当防衛だよね。だけど、僕は彼らに殺されるとは思わなかったよ」
「そんなの、嘘だ!」
 僕はジョミーの視線から避けるように首を横に振った。
「あのさ。いい?」
 そう言うとジョミーは手に青い短剣を作って僕に向けた。
「…ジョミー」
 鋭い切先が目の前にあった。鈍く青く光る剣をすべらせ僕の首筋にあてたジョミーは僕にこう聞いた。
「怖い?」と。当然僕は「怖いです」と答えた。
「そう?ならこれは?」
 と、ジョミーは僕の目を見た。
「…!」
 彼からは絶対に逆らえない力を感じた。ぞっとする。悪寒があがってきて止まらなかった。
「怖いでしょ?」
「……」
 はい。と答えたかったが口から出なかった。
「これが殺意。相手を完全に消し去ってやろうと思う事」
 ジョミーから殺気が消えた。

「あの時、彼らからは殺意は感じなかった。彼らは暴力行為をただ楽しむだけ、その結果、僕が死んでも別に構わないくらいは思ってはいただろう。けど、それでも殺す気は無かった。だから僕はそれに対応する術が無かった。とても怖かったよ。彼らのは狂気さ。一方的な暴力。人の枠から弾き出された彼らの自己憐憫。自己陶酔。人間の本質と狂気。それを見て、僕は当然の正当防衛だと言って彼らを殺してもいいものかと迷った。迷ってしまったから、あそこで僕は彼らを殺せなかったんだ」
「…それって、暴力には暴力。狂気には狂気なんですか…それは変です。だって、何であっても反撃しないと、何もしないで殺されてしまうかもしれない。だったら、殺される前に殺していいんじゃないですか?僕にはあなたがわかりません」
「僕には殺す事が重要じゃないんだ。ジュピターだった頃、キースや人間を守る為に人を殺していた。なのに、僕は彼らだけは殺せなかった。僕の中で何かが変わっているのに気付かずに居たんだ。だから、その答えを何年も探す事になったけどね」
「どうして…」
「暴力にも狂気にも許しなんだよ」
「許すなんて無理です!」
「恨みや憎しみにいつまでも、同じだけの憎しみをぶつけていたら、どこまでも終わりは来ないんだ。君は教育ステーションで君たちに向けられた暴力をそのまま返してはないだろう?話し合いで治めたんだろう。それと同じ…」
「でも、状況が違います。あなたは、酷いことをされて死んでいたかもしれないのに。なのに許すって言うんですか?」
「ああ。そう言っているんだ」
「出来ないです。普通はそんな事は!」
「だから、君は同じでなくて良いって言ったよ。君は君の答えを見つけるしかないんだ」
「そんな…」
「この先、君たちは人類にもミュウにも属さなくなるんだ。個人的な恨みでは動いてはいけない。前に言ったよね?僕たちの力は武器と同じなんだって。だけど、武器は意思を持たない。扱う者が殺したいと思って殺すんだ。僕らは武器と同じだ。この剣が怖いのは、これが自分に向かってきたら死ぬかもしれないと思うから怖いんだ。だけど、剣だけでは何も出来ない。僕たち強いミュウの力は殺意を表に出さなくても使える。何も考えなくても殺せる。そういう力なんだ。僕らは意思ある武器なんだ。だから簡単に殺そうと思ってはいけないんだ」
「それは、責任を持てばいいって」
「そう。力を揮うなら、その責任だね。でも、「楔」になるなら、僕らは殺せる武器にならなくてはいけないん。僕は君に殺す権利を渡すから…君たちが「楔」になると言う事は。僕は君に殺してはいけないと教えておいて、今度は殺していいという免罪符を与えるんだよ」」
「でも…」
「……」
「ジョミー。僕には無理です」
「君はいつまでも恨みや怒りで動くのか?まぁ。確かに彼らで言うなら殺されても仕方ない事をしている。君の苛立ちもわかる。だが、人類なら、そこは捕えて裁判で決める。僕らミュウはどうしている?メサイアでの犯罪は捕えたら何をするか知ってる?」
「もう二度としないよう指導するって…」
「本当は指導はしていない。強制的にその心に犯罪はダメなんだと植え付けて、放免だ。少ない我々には確かに効率は良いのかもしれないが、それではマザーと同じだと思うんだ。そこには犯罪者の贖罪と僕らの許しが存在しないといけないんだ。人類のように。罪は罪で悪いけれど、その罰を受ければ、許さないとダメなんだ」
「そんな、許せないような事もあります」
「うん」
「なら、どうするのですか?」
「許すのは僕が出した答えだ。君のは君で…」

「だから、ジョミー。もう答えて…教えて下さい。あなたは僕に何を見て、僕に何を望んでいるのかを」





   続く








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