小春奈日和

赤ちゃんは、人間は、どのように言葉を獲得するの?
わが家の3女春奈と言葉の成長日記です。

521 出雲臣の西進 その6

2016年08月22日 01時04分59秒 | 大国主の誕生
大国主の誕生521 ―出雲臣の西進 その6―
 
 
 これらの様々な疑問は取り敢えず横に置いて主題である出雲臣による西進を中心に
戻したいと思います。
 
 それで出雲臣が意宇郡から遷ったのはいつの頃か、根本的とも言えるこの問題です
が、『出雲国造世系譜』には、二十六世出雲臣果安(はたやす)の時と記されています。
 なお、出雲臣果安は『出雲国風土記』編纂時の出雲国造であった出雲臣広嶋の父
でもあります。
 それと同時に、『出雲国造世系譜』は、この出雲臣果安が、元正天皇の霊亀二年二月
(霊亀二年は西暦で716年)に神賀詞を奏上したことが記されており、その後に続いて、
果安が始祖、天穂日命以来からの大庭の地を離れて出雲大社のある杵築の地に遷った
ことが記されているので、出雲臣が意宇郡の大庭から出雲郡の杵築に遷ったのは神賀詞
奏上の前後、霊亀年間の頃と考えられています。
 そうすると、出雲臣の西遷は奈良時代に入ってから、ということになり、継体朝時代は
もちろん大化の改新の頃も出雲臣は依然として意宇郡に居を構えていた、ということに
なります。
 
 出雲振根討伐がそのまま史実ではないにしろ、出雲西部の勢力が外部からの勢力に
よって屈服させられて出雲臣の影響下に治められることになった、というのが多くの研究者の
見方なのですが、それでは出雲西部の支配とはどのような形が取られていたのでしょうか。
 
 門脇禎二(『出雲の古代史』)は以前にも紹介したように、出雲西部を屈服させた外部
勢力を吉備王国としています。はたして当時の吉備が王国と呼べるような国家システムを
構築していたのか疑問のあるところではあるのですが、それも横に置くとして、門脇禎二は、
吉備国家の根拠地は三刀屋(みとや=現在の雲南市三刀屋町)に留まるとし、
 「出雲西北部の支配は、新たな在地勢力に任せ、それを監視するかたちをとっていたよう
に思われる」
と、します。
 
 門脇禎二はこのように、出雲西部を管轄したのは「新たな在地勢力」として、具体的な
氏族名については触れていません。
 これに対するひとつの参考になるだろう説として、三谷栄一が『出雲神話の基盤』の中で、
林臣が大和政権より意宇郡に派遣されて勢力を持っていた、とする考察を述べています。
 
 もう少し詳しく説明しますと、三谷栄一は『出雲国風土記』に、意宇郡の郡司について、
 
 大領  出雲臣広嶋(兼出雲国造)
 少領  出雲臣
 主政  林臣
 擬主政 出雲臣
 主帳  海臣
     出雲臣
 
とあることに注目し、大領、少領、擬主政(凝は仮の意味)、主帳に出雲臣が占めている中、
主政には林臣が就いており、そして林臣が武内宿禰を始祖とする氏族であることから、
大和政権から派遣されたもの、としているのです。
 
 ところで『出雲国風土記』の意宇郡の条に、拜志郷(はやし郷)が載り、
 
「本字林(元の字は林なり)」
 
と、あるので、この拜志郷は林臣の領地であった可能性が高いのですが、『出雲国風土記』に
よれば、この拜志郷には屯倉が置かれていた、とあります。
 さらに、『出雲国大税振給名帳』によれば、出雲郡建部郷と河内郷に林臣がいたことが記され
ています。
 そうすると、三谷栄一の、林臣は大和政権が派遣したという考察にも頷けます。
 
 一方でその出雲郡の郡司については、『出雲国風土記』が記すところでは、
 
 大領 日置臣
 少領 太臣
 主政 部臣(おそらくは〇部臣と、部の前が欠字になっているものと考えられています。)
 主帳 若倭部臣
 
となっており、出雲臣が郡司に任じられていないのです。
 当時の郡司の役職は任期が何年と決まっているものではなく、その土地の豪族がそのまま
世襲制で就き、死亡または引退するまで務めていたものなので、いかに出雲国造とはいえ
出雲臣がこれに就くことは容易なことではなかったのでしょうが、このことは出雲郡における
出雲臣の影響力を顕すひとつの参考になるものと思います。
 
 しかし、それならばなぜ出雲臣果安は意宇郡から出雲郡に遷ったのでしょうか。
 
 おそらくそれは、『出雲国造世系譜』にある神賀詞奏上に関係すると思われるのです。
 出雲臣側の記録である『出雲国造世系譜』では、出雲国造の神賀詞奏上はこの果安による
霊亀二年の神賀詞奏上が初見です。
 これがそのまま、霊亀二年の神賀詞奏上が初めての神賀詞奏上なのだとすれば、出雲大社の
祭祀者という立場を決定的なものにするために出雲臣は杵築大社(出雲大社)のある出雲郡
杵築の地に遷ることに決定したと考えられるのです。

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