小春奈日和

赤ちゃんは、人間は、どのように言葉を獲得するの?
わが家の3女春奈と言葉の成長日記です。

524 出雲臣の西進 その9

2016年09月08日 00時48分22秒 | 大国主の誕生
大国主の誕生524 ―出雲臣の西進 その9―
 
 
 このように出雲の熊野大社も紀伊半島の熊野本宮大社もともスサノオを祭神としているわけ
ですが、これは少し時代が下ってからのものであると思われ、やはり本来の祭神は、熊野大社が
櫛御気野命(クシミケヌノミコト)で、熊野本宮大社が家都美御子大神(ケツミミコ大神)であった
ものと思われます。
 これが後にスサノオと同一化されたものなのでしょう。
 
 しかし、熊野本宮大社の祭神が、主祭神が家都美御子大神でそれと並んで熊野牟須美大神と
速玉之男神であることに注意をしたいと思います。
 と、言うのも、『古事記』では天の安河においてスサノオが天照大御神の珠から五柱の神を誕生
させる場面で、生まれてきた神が、
 
 はじめに天孫降臨で地上に降り立つはずだった正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命(マサカツアカツ
カチハヤヒアメノオシホミミノミコト)
 次に出雲臣らの祖、天之菩卑能命(天穂日命。アメノホヒノミコト)、
 次に天目一箇神の父である天津日子根命(アマツヒコネノミコト)、
 次に活津日子根命(イクツヒコネノミコト)、
 最後に熊野久須毘命(クマノクスビノミコト)
 
となっているからです。
 
 熊野牟須美大神と熊野久須毘命は非常に似通った名前を持つ神同士ですが、おそらく同じ神
であると思われます。
 熊野久須毘命のクスビとは奇霊(くしび)の意味であろうと考えられます。
 
 西郷信綱(『古事記注釈 第一巻』)は、
 
 「クスビはクシビで奇(く)しき霊をいう」
 
とし、古典文学大系『古事記』の頭註も、
 
 「久須毘はクシビ(奇霊)と同義」
 
 古典文学全集『古事記』もやはり、
 
 「クスビは『奇霊』の意」
 
としています。
 
 ちなみに奇霊は奇魂とも言いますが、言わば神の分身であり、他にも荒魂、和魂、幸魂などが
あり、いずれも神の性格の側面の部分です。ですが時としてひとつの人格を有した完全に別の
神として存在する場合もあり、また時にはオリジナルである神が自分の分身の存在を知らない
こともあったりします。
 
 ただ、出雲の熊野大社の祭神、櫛御気野命にも「くし」が含まれていることは見過ごすわけには
いかないでしょう。
 
 これに対して熊野牟須美のムスビですが、これは産霊(ムスヒ、ムスビ)のことで、産霊とは万物を
生成することを意味します。
 もっとも、産霊の神ならあらゆる物を生みだすわけではなく、その神によって生み出すものが
決まっています。
 
 ところで熊野本宮大社の上四社で祀られているのは熊野牟須美大神ですが、社殿にある、
旧社地の大斎原の櫟(いちい)の巨木に降臨した三柱の神は、家都美御子大神、熊野夫須美大神、
速玉之男大神でした。
 熊野本宮大社とともに熊野三山と呼ばれる熊野速玉大社と熊野那智大社の祭神はというと、
 
 熊野速玉大社が、熊野速玉大神と熊野夫須美大神
 熊野那智大社が、熊野夫須美大神
 
と、どちらも熊野夫須美となっています。
 ですが、熊野那智大社では、
 
 「夫須美とは『むす』という生成発展を意味する言葉」
 
と、しており、やはり産霊の神としているのです。
 
 以上のことから考察すると、熊野夫須美大神とは、櫛御気野命あるいは家都美御子大神の分身と
見做すことができます。
 ところが、ムスヒだけではこの神の性格を捉えるわけにもいかないのです。
 何よりも、なぜ熊野の神が出雲臣と関わるのか、という問題が解決されていません。

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