浅間フウロ
(みんなの花図鑑)より
あれからもう5年の歳月が流れました
ぼくは今でもあなたの作品を読んでいますよ
たんたんと過ぎていく時間と出来事に
冬の陽射しのような影を差しかける小説を
山麓の別荘にお邪魔したのはいつだったでしょうか
緑濃いカラマツ林の中のこじんまりした山荘に
執筆の気配が残る文机が置いてありました
読みかけの本を伏せたまま迎えてくれたのですね
東京でお会いするのは同人誌の集まりだけでした
それが共に浅間山ろくに縁があって
話が弾んだことが招待を受けるきっかけでした
あのときのはにかんだ表情が目に浮かびます
突然、作品集『朝会うあの場所で』が送られてきて
あなたが亡くなられたことを知りました
2014年の春まだきのことでした
ぼくは信じられない思いの中でページを繰りました
そして、あの優れた作品に出合ったのです
文学界の同人雑誌評にも取り上げられた名作・・・・
義足をつくる会社に勤める青年と恋人の毎朝の儀式に
偶然のように絡んでくる老婆の孤独を掬い上げた短編です
ぼくが同人雑誌をやめた後も
あなたは黙々と文章を紡いでいたのですね
そして繭玉のような短編小説を創りあげた
美しい銀髪を揺らして面を上げた顔が目に見えるようです
浅間山はもうすぐ初冠雪の季節です
あなたに招待された林の中の山荘は
降りしきるカラマツの落ち葉の中かもしれません
でも 浅間フウロの淡いピンクが蘇るのはなぜでしょう
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