(新)緑陰漫筆

ゆらぎの読書日記
 ーリタイアーした熟年ビジネスマンの日々
  旅と読書と、ニコン手に。

読書 『グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」』

2013-04-22 | 時評
読書 『グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」』          (ティーチ・フォー・ジャパン 松田悠介)

 最近ファンドマネージャーたちと交流する機会があった。自分たちと、全く異なる世界にいる人たちの話を聞いて見たいと思ったからである。経済の話、金融の話、為替のこと、優れた企業活動を続けている企業のことなどを話すると想像していたのだが、すこし違う話題が出た。その中で印象に残ったのが「社会貢献」のことであった。

 アメリカに「Teach for America」(TFA)という名のNPOがある。今から20年も前に女子学生だったウエンディ・コップが立ち上げた。事業モデルは、こうだ。ハーバードやスタンフォード、プリンストンといったトップクラスの大学を卒業する優秀な学生や既卒生を集めて選抜し、独自のトレーニングをする。その後、彼らに貧困地域や教育困難校といわれる学校で2年間教師をしてもらう。ただそれだけの仕組みだが、貧困地域では劇的な効果がある。たとえば文字さえも読めない子が、やる気にあふれた教師のおかげで、高校や大学に進学できるようになった実例には事欠かない。ある中学ではTFAから3,4人の先生が派遣されて、2割前後だった進級率が9割に改善している。・・

 ”つまり、優秀な人材を巻き込んで、すべての子供達に、質のいい学習環境を提供する。それが私たちの使命です”ーウエンディ・コップ

 そんなことを言ったって、誰が資金を提供するのか?、教育委員会など教現場は、それをう受けれるだろうか? ・・・それに優秀な学生がNPOという場に、就職をする機会を犠牲にしてまで、身を置くだろうか? さまざまな疑問が湧いてくる。

 本書はそんな疑問をひとつひとつ解き明かし、アメリカでのTFAの現状をまず伝える。

(TFAは、なぜ、グーグル、ディズニーよりも就職先として人気なのか)
 2010年、全米就職ランキング(人文学系)でグーグルやアップル、ディズニーといった名だたる大企業を抑えて、一位になったのが、このTFAだ。2011年、20012年もランキング3位に入っている。今どきの理想の就職先として学生の間に認知され、定着しているのだ。

 TFAに採用されるためには、非常にきびしい審査をパスする必要がある。ハーバードの卒業生5人に1人がTFAで働くことを望むが、採用されるのは、その10分の1。非常に狭き門だ。その選抜で重要なのは「リーダーシップ」があるかどうかだ。先頭にたってみなを率いるようなリーダーとしての素質もあるが、集団を引っ張ってゆくのでなく、目標を設定、共有してその集団をまとめられるかどうかというのもリーダーシップだ。その選抜後、トレーニングをうけて最後まで残った人だけが、教育困難校に派遣される資格を得られる。学生にとってみると、仕事にやりがいが得られるだけでなく、自己成長の場として人気を集めている。実際、企業はTFAの卒業生を非常に高く評価している。クレディ・スイスやデロイト・トウシュ・トーマツ、GEやゴールドマン・サックス、グーグルやマッキンゼーといった名だたる企業が、自社が内定をあたえて学生が同時にTFAで内定を取った場合、内定者に2年間の入社猶予を与えている。つまり、内定はそのままで、2年間TFAでの活動を行えるのである。

 この本の著者は、元体育教師、当時ハーバードで教育大学院に留学していた。2009年の秋、大学でウエンディの話を聞いて、「日本の教育に足りないのはこれだ」と感じた。著者は云う、

 ”僕がもっと問題として感じているのは、日本の教育システムが50年前とほとんど変わっていないことだ。・・・こういった授業では、今のグローバル化が進んで、より複雑で変化の激しい時代に求められる「課題解決能力」や「リーダーシップ」などを育むのは極めてむずかしい”

 ”学校の内側から教育を変え、新しいムブメントを起こしていく。これだ。  このしくみを日本にも取り入れる ティーチ・フォー・アメリカの日本版をつくろう”

 それから3年立ち、著者はティーチ・フォー・ジャパンを立ち上げ、代表理事として奮闘している。彼の考え方に共感した多くの理解者、支持者、協力がいるようである。

 最後に著者の言葉で締めくくりたい。

 ”この本を読んで、何か感じたことがあればぜひ行動して欲しい。一人ひとりの活動が日本の社会を変えていく大きなムーブメントになって いくと思うからだ。”
 
 深い共感を覚えた私も行動を起こすことに決めた。

 詳しいことは、本書なり、あるいはTFJのウエブサイトにアクセスしてみてください。
  

 余談になるが、今日の日経紙の「経営の視点」というコラムで、「ツイッター生まれない日本」という記事を見た。新経済連盟(代表理事・三木谷楽天会長)が開いた「新経済サミット2013」のパネルディスカッションのことについて報じていた。テーマは「破壊的イノベーションは何か」

 その会合で最も印象に残ったものとして、編集委員の大西氏は、マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボ所長の伊藤穣一氏のコメントをあげている。

 ”僕が成功したのは、日本で一切、教育を受けなかったから。幼児は
  好きな時に好きな絵を描くが、小学校に入ると、勝手なことをしちゃ
  だめ、とクリエーティビティ(創造性)を潰される。だから日本人は
  大人になると誰も絵をかかない”

日本の教育のあり方を真剣に見つめなおす必要性を強く感ずる次第である。



コメント (2)
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