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Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第14回 職権濫用罪 2017年01月12日)

2017-01-11 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 国家的法益に対する罪――国家の作用に対する罪
 第14週 職権濫用罪

 汚職の罪は、公務員が内部から国家の作用を侵害する犯罪であり、「職権濫用の罪」と「賄賂の罪」からなります。なお、職権濫用罪は、国家機関による国民の自由・権利の侵害という側面もあります。

(1)職権濫用罪
1公務員職権濫用罪
 刑法193条 公務員がその職権を濫用して、人に義務のない行為を行わせ、又は権利の行使を妨害したときは、2年以下の懲役又は禁錮に処する。

ⅰ保護法益
 本罪の保護法益は、職権の濫用による職務の適正な執行(国家的法益性)と被害を受ける国民の自由と権利(個人的法益性)から成り立っています。

ⅱ職権の濫用
 職権の濫用とは、公務員がその一般的職務権限に属する事項について、職権の行使に仮託して、実質的・具体的に違法な行為を行うことです(最決昭57・1・28刑集36・1・1)。本罪は構成的身分犯です。職権を濫用して、相手方に法律上・事実上の負担ないし不利益を生じさせれば足り、強制力を行使することまでは要していません。ただし、相手方の意思を制圧する強制的な性質を持っていることが必要か否かについては争いがあります。

 学説では、行なわれた行為が職権の行使の外観を備えていない場合でも、職権濫用罪の成立を認めています。また、強制的な作用を相手方の意思に及ぼしていない場合でも、客観的に権利が侵害されている以上、本罪の成立が認められると解しています。これに対して、判例は、職権の行使の外観を備えていなければ、「職権の濫用」にはあたらず、また相手方の意思に作用していなければ、本罪は成立しないと判断しています(最決平元・3・14刑集43・3・283)。

 「職権の濫用」とは、職権の行使の要件や外観を備えている行為が、その許容範囲を超えて行使されることであると解すると、職権の行使の要件や外観を備えていなければ、その「濫用」はありえないことになります。また、暴行・脅迫が手段行為として規定されていないので、強要罪のように相手方の意思決定の自由に影響を及ぼすことも必要ではないと解することもできます。それが判例の考えのようです。

ⅲ結果
本罪は、人に義務のない行為を行わせ、または権利の行使を妨害することによって既遂に達します。強要罪のような未遂の処罰規定はありません。

2特別公務員職権濫用罪
 刑法194条 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したときは、6月以上10年以下の懲役又は禁錮に処する。

 本罪は、公務員の身分を持つ者が逮捕罪・監禁罪(刑202)にあたる行為です。警察官などは被疑者を逮捕し勾留する権限を与えられているので、その濫用を防止するために設けられた規定です。身分犯ですが、人身犯罪である逮捕罪・監禁罪を加重した身分犯か、公務員による国家作用を侵害する構成的身分犯かは争いがあります。

3特別公務員暴行陵虐罪
 刑法195条① 裁判、検察又は警察の職を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱(リョウジョク)若しくは加虐(カギャク)の行為をしたときは、7年以上の懲役又は禁錮に処する。
② 法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、前項と同様とする。

 行為主体は、裁判、検察又は警察の職を行う者又はこれらの職務を補助する者(1項)、法令により拘禁された者を看守し又は護送する者(2項)です。行為は陵辱・加虐ですが、それは精神的・身体的な苦痛を与えることです。

4特別公務員職権濫用致死傷罪
 刑法196条 前2条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

 本罪は、194条と195条の罪を行い、死傷結果を発生させた場合に成立します(結果的加重犯)。