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Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第14回 収賄罪・贈賄罪 2017年01月12日)

2017-01-11 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 国家的法益に対する罪――国家の作用に対する罪
 第14週 賄賂罪

(1)賄賂罪
1単純収賄罪
 刑法197条① 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、7年以下の懲役に処する。

ⅰ主体
 本罪の主体は、公務員(「みなし公務員」も含む)です。構成的身分犯です。非身分者が関与した場合、刑法65条1項を適用して、収賄罪の共犯(共同正犯・教唆・幇助)が成立すると解されています。

ⅱ行為
 本罪の行為は、職務に関して、賄賂を収受、要求もしくは約束することです。
 収受とは、賄賂を受け取ることです。要求とは、賄賂を提供するよう求める意思を表示することです。相手がそれに応じなくても、要求罪が成立します(大判昭9・11・26刑録13・1608)。約束とは、賄賂の授受について合意することです。

 賄賂を要求し、約束し、そして収受した場合、包括して1個の収賄罪が成立します(大判昭10・10・23刑録14・1052)。公務員が、業者を恐喝して、職務に関して金品を交付させた場合、恐喝罪が成立することは明らかですが、金品を受け取った後に、その業者の便宜を図る意思があった場合には、収賄罪の成立も認められる。

ⅲ故意
 故意の成立には、金品を職務行為に関連して収受している認識が必要です(賄賂性の認識)。

ⅳ関連問題
①保護法益との関係
 賄賂の収受などの行為は、職務と関連している場合に違法性を帯びます。公務員がその職務に関して、他人から金品を収受するならば、公務員が行っている職務の純粋性・公正性が疑わしくなったり(純粋性説)、また職務に対する社会一般の信頼が損なわれてしまいます(信頼保護説)。判例は、職務に対する社会一般の信頼保護の観点から、賄賂罪の保護法益を捉えています(最大判平7・2・22刑集49・2・1)。

②職務関連性
 賄賂罪は、公務員がその職務行為に関して、賄賂を収受するなどした場合に成立します。

1)職務行為
 職務行為とは、「公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の執務」をいい(最判昭28・10・27)、それが公務員の一般的職務権限の範囲内の行為であるならば、その公務所の内部における事務配分の詳細は問題ではありません(大判大9・12・10刑録26・884)。同一の部署(課)で執り行なわれている職務であれば、それを担当していない公務員であっても、一般的職務権限があると判断されています。

2)過去の職務と将来の職務
 過去に行なった職務に関して、賄賂を収受した場合、また将来行う職務に関して、賄賂を収受した場合、それぞれ「事後収賄罪」と「事前収賄罪」が成立します。ただし、一般的職務権限に変更があっても、公務員という身分が継続している場合には、通常の収賄罪が成立します。

3)職務関連性
 賄賂の収受は、職務に関連して行われた場合に違法性を帯びます。従って、それと無関係に賄賂を収受しても、収賄罪は成立しません。ここで問題なのは、職務関連性の意味です。判例は、公務員に一般的職務権限のある職務行為(本来の職務)だけでなく、「それと密接に関連のある行為」もまた職務の範囲に含まれると解しています。

 例えば、議員が他の議員を勧誘して議案に賛成させるような行為です。それは、議員の本来の職務ではありませんが、そこから派生して行われている事実上・慣習上の行為であるといえます。A議員が、議案を賛成多数で議決するために賄賂を受けたが、自分では信念を貫いて反対票を投じたが、その代わりにB議員を勧誘して賛成票を投じさせた場合、収受した賄賂は、Aの本来の職務との関連において収受されてはいませんが、B議員を勧誘して議案に賛成させたこととの関連において収受されているといえます。

 また、自己の職務行為の事実的な影響力を利用する行為もまた、本来の職務に関連しているといえます。例えば、国立芸術大学の教授が、学生に特定の業者の楽器を購入するよう推薦した場合、それは教授の本来の職務(研究・教育)には属しませんが、職務関連性があると認められています(東京地判昭60・4・8判時1171・16)。また、総理大臣が、航空機の選定に関して民間の航空会社に働きかける行為にも、総理大臣の職務との関連性が認められています(最大平7・2・22刑集49・2・1)。

③賄賂
 賄賂とは、「いやしくも人の需要もしくは欲望を充たすべき一切の利益を包含する」と定義されています(大判明43・12・19刑録16・2239)。非常に幅広い定義です。金銭はもちろん、金融の利益(優先的に融資してくれた)、債務の弁済(返済期日を延期してくれた)、酒席の饗応(キョウオウ)、異性間の情交なども含まれます。

 問題は、お中元やお歳暮、誕生祝い、出産祝いなどの「社交的儀礼」との関係です。最高裁は、公立中学校の教員が父母から贈答用の小切手を受け取った事案に関して、収賄罪の成立を否定しています(最決昭50・4・24判時774・119)。子どもへの学習指導に対する感謝と人格への敬慕の念から行われたのであって、職務関連性はないと判断されたからです。贈られた金額や時期などによっては、「賄賂」にあたる可能性もあります。

2受託収賄罪
 刑法197条① 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をした場合において、請託を受けたときは、7年以下の懲役に処する。

 本罪は、賄賂を収受するなどした際に、請託を受けた場合に刑を加重する規定です。「請託」とは、公務員に対して、職務に関して、一定の行為を行うことを依頼することをいいます。その行為が正当な行為である場合でも、請託がある場合には、受託収賄罪が成立します。職務の純粋性は損なわれていなくても、国民一般の信頼が損なわれるからです。

3事前収賄罪
 刑法197条② 公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関して、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、公務員になった場合において、5年以下の懲役に処する。

ⅰ行為主体
 公務員になろうととする者が、本罪の行為主体です。公務員の就職内定者や議員候補者がこれにあたります。賄賂を収受した時点では公務員ではないので、処罰されるのは、実際に公務員になった時です。公務員になったことによって、そえが従事する職務純粋性が害され、またその信頼が損なわれると解されます。「公務員になった場合」という要件は、「客観的処罰条件」です。

ⅱ請託
 賄賂と職務行為との対価関係を明確にするために、「請託」が要件として定められています。

4第三者供賄罪
 刑法197条の2 公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第3者に賄賂を供与させ、又はその供与の要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。

 本罪は、公務員が自分以外の第三者に賄賂を受け取らせる行為です。受託収賄罪の脱法行為を取り締まるための規定として設けられたものです。例えば、議員が自分で受け取れば受託収賄罪になりますが、後援会が受け取らせても「収賄罪」にはあたりませんが、第三者供賄罪が成立します。この「第3者」は、公務員と何らかの関係があることが予想されますが、判例は無関係でもよいとしています。

5加重収賄罪
 刑法197条の3① 公務員が前2条の罪を犯し、よって不正な行為をし、又は相当の行為をしなかったときは、1年以上の有期懲役に処する。
②公務員がその職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、若しくはその要求若しくは約束をし、又は第3者にこれを供与させ、若しくはその供与の要求模式は約束をしたときも、前項と同様とする。

 本罪は、公務員が単純収賄罪、受託収賄罪、事前収賄罪、第3者供賄罪を行い、その後、不正な行為を行なった場合、また不正な行為を行ない、その後、収賄が行われた場合の加重類型です。「枉法収賄罪」(オウホウ)とも呼ばれています。

6事後収賄罪
 刑法197条の3③ 公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。

 本罪は、公務員であった者が、退職後に、在職中の不正行為に関して賄賂を受け取る行為です。対価関係を明確にするために、請託が存在すること、不正な行為が行われたことが要件として定められています。

7あっせん収賄罪
 刑法197条の4 公務員が請託を受けて、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。

 本条は、請託を受けた公務員Aが、他の公務員Bの職務行為について、不正な行為をさせるよう「あっせん」する行為を処罰する規定です。Aには当該職務行為について一般的権限がないため、また職務関連性もないため、収賄罪にはあたらないと判断されますが、昭和33年(1958年)に本条が新設され、このような脱法的な行為に規制がかかり、処罰されるようになりました。

 「あっせん」とは、一定の事項について、仲介し、便宜をはかることをいいます。公務員としての立場からの「あっせん」が処罰されるだけで、私人としての行為では足りません(最決昭43・10・15刑集22・10・901)。

8没収および追徴
 刑法197条の5 犯人又は情を知った第3者が収受した賄賂は、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。

 本条は、賄賂を収受した犯人または情を知った第3者から、賄賂を没収・追徴する規定です。刑法19条および19条の2には、任意の没収・追徴の規定がありますが、本条はその必要的没収・追徴の規定であり、賄賂罪だけに適用されるものです。

 没収・追徴される賄賂は、犯人と情を知った第3者が収受した賄賂に限られます。情を知らずに受け取った後、それが賄賂だと知った第3者は除かれます。

 追徴は、金銭を消費したとか、飲食の提供を受けたなどして、没収できない場合に行なわれます。追徴される金額の算定は、賄賂罪を行った時点か、それとも追徴を行う時点かによって変わってきます。没収との均衡関係から考えて、賄賂罪を行った時点の金額が追徴されます(最大判昭43・9・25刑集22・9・871)。

9贈賄罪
 刑法198条 第197条から第197条の4までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。

 本罪は、収賄罪と対応する行為であるので(必要的対抗犯)、一方が他方の共犯として処罰されません。つまり、贈賄者が収賄者の教唆として処罰されることもはありません。
 供与とは、収受させることをいいます。収受しなかった場合は、申込みにあたります。約束は、賄賂の授受についての合意です。
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