Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第13回① 2015年12月24日)

2015-12-05 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 国家的法益に対する罪――国家の存立に対する罪・国交に関する罪
 第13週 内乱に関する罪

 国家的法益に対する罪は、刑法典では、各則の最初に配列されています。しかし、現行憲法には、個人主義(個人尊重)の理念があり、それに基づくならば、各則の体系の序列の最初に位置づけられるべきは、個人的法益に対する罪であり、国家的法益に対する罪は、最後に位置付けられるべきです。
 国家は、日本国憲法の国民主権、平和主義、基本的人権の尊重という基本原則に基づいて成立し、国民の信託を前提としていますが、国家の存立とその作用は、個人的法益や社会的法益には還元できない特徴を持っているため、個人や社会を超越した独自の保護法益として捉えられます。国家は、個人の生活の安全を保障し、その幸福の追求と増進を図ることを使命とした政治的組織体であり、それ自体として保護の対象になります。とはいえ、国家の名の下に個人が斥けられるようなことがあってはなりません。しかも、国家のあり方を考え、その変革を求める個人の自由や権利の行使が「国家的法益に対する罪」として処罰されるようなこともあってはなりません。その意味で、国家的法益に対する罪の成立を明確化し、限定することが必要です。

(1)内乱に関する罪
 内乱の罪は、国家の基本的な政治組織を暴力的に変革するもので、それには死刑を含む厳しい刑が科せられます。しかし、内乱の罪は、「国を憂慮」して行なう「政治犯」ないし「確信犯」の典型であり、破廉恥な性格を持った犯罪ではありませんない。その意味において科される刑罰は禁錮刑という「名誉刑」です。
 内乱の罪に関連した特別刑法としては、戦前は「治安維持法」(1925年)がありましたが、戦後の改革のなかで廃止されました。とはいえ、戦後は「破壊活動防止法」(1952年)が制定され、内乱等の罪の教唆・せん動を「暴力主義的破壊活動」として処罰する規定が設けられています。

1内乱罪
 刑法77条① 国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区分に従って処断する。
 一 首謀者は、死刑又は無期禁錮に処する。
 二 謀議に参与し、又は群衆を指揮した者は無期又は3年以上の禁錮に処し、その他諸般の職務に従事した者は1年以上10年以下の禁錮に処する。
 三 付和随行し、その他単に暴動に参加した者は、3年以下の禁錮に処する。
② 前項の罪の未遂は、罰する。ただし、同項第3号に規定する者については、この限りでない。

法益
内乱罪は、国家の統治機構を破壊することだけでなく、「国権の排除」でもあります。その保護法益は、日本国憲法に定められた国家の統治機構の存立または統治権であると解されています(朝鮮高等法院決大9・3・22新聞1687・13)。

行為
 本罪の行為は「暴動」です。それは、多数人の結合によって集団的に行われた暴行・脅迫であり、人だけでなく物に対する場合も含まれます(最広義の暴行)。騒乱罪におけるような「一地方の平穏を害する程度の暴行・脅迫」では足りず、国家の統治機構を揺るがすような客観的な性質を持ったものでなければなりません。暴行・脅迫を行えば内乱罪としては成立するので、実際に国家の統治機構が動揺することを要しません(抽象的危険犯)。暴動の一環として殺人や放火などの行為が行われた場合、それらは本罪に吸収されます(大判昭10・10・24刑集14・1267)。

集団犯
 内乱罪は、多数人による関与を予定した犯罪です(必要的共犯・集団犯)である。関与者は、その役割に応じて、首謀者(1項)、謀議参与者、群衆指揮者、諸般の職務従事者(2項)、付和随行者および単なる暴動参加者(3項)に分けられ、個別の刑が科されます。
 首謀者とは、集団において内乱を計画し、暴動を統率する者です。謀議参与者とは、内乱の計画・謀議に関与して首謀者を補佐する者です。群衆指揮者とは、暴動の現場においてあるいは現場に臨むにあたり群衆を指揮する者です。諸般の職務従事者とは、内乱の実行に関して、例えば食糧や弾薬を調達するなど謀議参与・群衆指揮以外の重要な職務に従事する者です。そして、付和随行者および単なる暴動参加者とは、暴動が行われるのを知って集団に参加し、群衆指揮者に従って行動し、暴動の勢力を助ける者です。

故意と目的
 内乱罪の故意が認められるためには、行為者には暴動の認識が必要ですが、さらに国家の統治機構を破壊するなどの目的を要します(目的犯)。暴動はこの目的に直接的に基づいて行われたものでなければなりません。(大判昭10・10・24刑集14・1267)。

未遂・共犯
 本罪は、首謀者、謀議参与者、群衆指揮者について未遂が処罰され、付和随行者と単なる暴動参加者は除外されています。その実行の着手の時期については、集団としての行動(例えば「デモ行進」)が開始されただけでは、まだ国家の統治機構に動揺を与えるような危険な集団暴動(暴行・脅迫)には至っていないので、その実行に着手したとはいえない。暴行・脅迫の行為が開始されていなければ、実行の着手を認めることはできないでしょう。ただし、暴行の開始によって既遂に達するわけではなく、国家の統治機構を揺るがすような客観的な危険が包含された暴行に至っていなければなりません。
 内乱の関与者には、その役割に応じて個別の刑が科されるので、集団内部の関与者には刑法総則の共犯規定は適用されません。従って、首謀者を補佐した謀議参与者には、(集団犯としての)内乱罪とは別に、「首謀者の内乱罪に対する幇助罪」が成立することはありません。
 議論になるのは、集団の外部にいる者が他人を唆して内乱罪を行わせた場合、刑法61条を適用し、内乱罪の教唆を認めることができるかという問題です。それを肯定する学説もあるが、学説の多数は否定しています。ここで、破防法38条1項は、内乱罪などを教唆・せん動した者を「内乱罪等の教唆・せん動」として処罰する規定を設け、41条は、教唆された者が内乱罪などを行なった場合、教唆者に刑法61条を適用して、「その刑を比較し、重い刑をもつて処断する」としていることに注目してください(破防法38条1項の法定刑と刑法77条の法定刑の長期・短期を比較し、それぞれについて重い刑を処断刑として採用するということです)。教唆された者が内乱罪などを行なった場合に教唆者には41条が適用されるということですが、では被教唆者が内乱を行わなかった場合、教唆者はどのように扱われるのでしょうか。その場合、刑法61条を適用することなく、「内乱罪等の教唆・せん動罪」として処罰されます。ちまり、破防法38条の罪は、内乱罪(正犯)の共犯ではなく、それから独立した1個の犯罪(正犯)であると解されます(これを独立教唆犯といいます)。

2内乱予備及び陰謀罪
 刑法78条 内乱の予備又は陰謀をした者は、1年以上10年以下の禁錮に処する。

行為
 内乱の予備とは、内乱の実行を目的とした準備行為です。武器・弾薬、食糧の調達、参加者の勧誘などの具体的な行為がそれにあたります。内乱の陰謀とは、二人以上の者が内乱の実行を計画し、それに合意することをいいます。

共犯
 内乱の予備または陰謀を行うよう教唆した場合、内乱予備または内乱陰謀の教唆にあたるでしょうか。
 教唆は、人を教唆して、犯罪の構成要件該当行為の実行させることですが、その「犯罪」の意味を刑法43条における「犯罪」と同じと解するならば、実行の着手以前の予備や陰謀を教唆して行なわせても、「犯罪」を教唆したとはいえません。また、内乱罪のような集団犯は、集団の内部の役割に応じた刑が定められ、一般に刑法総則の共犯規定は適用されません。多数説によれば、集団の外部から他人を教唆して、内乱罪を行わせても、内乱罪の教唆は成立しません。これに対して、内乱予備罪も内乱陰謀罪も1個の独立した「犯罪」であるので、それを唆して行わせた場合、内乱予備罪または内乱陰謀罪の教唆が成立すると解することもできます。
 ここで注意してほしいのは、破防法38条2項1号は、内乱予備罪・内乱陰謀罪の教唆を処罰する規定を設けていることです。この規定によれば、被教唆者が内乱の予備・陰謀を実行した場合、教唆者には刑法61条が適用され、その刑を比較して重い刑で処断されます。被教唆者が内乱の予備・陰謀を実行しなかった場合、教唆者には独立教唆犯としての破防法38条2項1項の罪が成立することになります。従って、内乱の予備または陰謀を行うよう教唆した場合、内乱予備または内乱陰謀の教唆にあたるか否かは、刑法78条に61条を適用できるかどうかという刑法(一般法)の解釈問題ではなく、破防法38条2項1号(特別法)の解釈問題です。

3内乱等幇助罪
 刑法79条 兵器、資金若しくは食糧を供給し、又はその他の行為により、前2条の罪を幇助した者は、7年以下の禁錮に処する。

行為
 本罪は、内乱(77条)および内乱予備・内乱陰謀(78条)を幇助する行為です。
 幇助の行為は、一般的に内乱罪などを物理的・心理的に手助けするというのではなく、「兵器、資金若しくは食糧の供給」などに限られています。ただし、「その他の行為」という一般条項は、無限定であるため、兵器・資金・食糧の供給に準じて限定を加える必要があります。それは、内乱の陰謀を行うための場所の提供のようなものに限られるべきでしょう。破防法は、本罪を独立して処罰する規定を設けていないません。従って、本罪は内乱罪や内乱予備・陰謀罪に従属すると解されます。

共犯
 内乱幇助や内乱予備・陰謀の幇助を教唆した者は、破防法38条2項1項により処罰されます。独立教唆犯の規定であるため、正犯への従属性は要件として不要です。

自首による刑の免除
 刑法80条 前2条の罪を犯した者であっても、暴動に至る前に自首したときは、その刑を免除する。

 内乱予備・陰謀(78条)および内乱の幇助、内乱予備・陰謀の幇助(79条)を行った者が、集団が暴動の実行に着手する前に自首した場合には、「その刑を免除する」(必要的免除)とされています。実行の着手後、捜査機関に発覚する前に自首した場合は、一般の自首規定(42条1項)が適用され、「その刑を減軽することができる」(任意的減軽)とされています。

 刑法Ⅱ(各論) 国家的法益に対する罪――国家の存立に対する罪・国交に関する罪
 第13週 外患に関する罪

(1)外患誘致罪
 外患に関する罪は、外部から国家の存立を脅かす犯罪であり、外患誘致罪、外患援助罪とそれらの予備・陰謀罪からなる。これらの犯罪は、「祖国に対する裏切り」や「売国」と非難される行為であることから、「破廉恥」な犯罪とされ、内乱罪のように禁錮刑(名誉刑)ではなく、懲役刑が科されています。ただし、本罪は外国人を含めて国外犯に対しても適用されます(2条3項)。

1外患誘致罪
 刑法81条 外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。

行為
 外患誘致は、内乱とは異なり、集団犯ではありません。「外国」とは、日本以外の国の政府ないし軍隊・外交使節などの国家の代表機関です。従って、特定の国家への帰属が明らかではないテロ組織などは、私的な団体・集団であり、「外国」には含まれません。未承認ないし国交未回復の国も含まれます。「通謀」とは、直接・間接を問わず、外国と意思疎通を行うことをいいます。「日本国に対して武力の行使をさせた」とは、日本の領土に対して、外国に陸海空の軍事力を行使させることをいいます。国際法上の戦争状態に入ることを要しません。

法定刑・罪数
 外患誘致罪は、法定刑として死刑のみを規定している唯一の例です。内乱を惹き起こす準備として外患誘致が行われた場合は、内乱予備は外患誘致に吸収されます。

共犯
 外患誘致罪は集団犯ではないので、教唆してそれを実行させた場合、外患誘致罪の教唆が成立します(一般法)。教唆された者が外患誘致罪を実行した場合、破防法41条によれば、刑法61条が適用され、教唆した者は破防法38条1項の罪と外患誘致罪の教唆が成立し、その刑を比較して重い刑をもって処断されます(特別法)。
 教唆された者が実行しなかった場合、破防法38条1項の罪が成立し(独立教唆犯)、7年以下の懲役または禁錮に処せられます。

2外患援助罪
 刑法82条 日本国に対して外国から武力の行使があったときに、これに加担して、その軍務に服し、その他これに軍事上の利益を与えた者は、死刑又は無期若しくは2年以上の懲役に処する。

行為
 本罪の行為は、外国から武力行使が行われているときに、外国に加担して軍務に服するなど軍事上の利益を与える行為である。外患誘致罪と同様に集団犯ではありません。
 「加担」とは、外国に積極的に協力することをいいます。「その軍務に服し」とは、外国の軍隊に参加することをいいます。「その他これに軍事上の利益を与え」るとは、武器、弾薬、食糧、輸送手段の供与、外国への軍事情報の提供などの行為をいいます。
 「日本国に対して外国から武力の行使があったとき」とは、本罪が成立するための行為状況であると解されています。しかし、行為客体である外国を限定する要件として解することも可能です。そのように解すると、行為客体は「日本国に対して外国から武力を行使している外国」となります。

責任阻却
 外国からの武力行使が行われているときに、外国にいる者または被占領下の日本にいる者が、外国に対して軍事上の利益を与える行為を不本意に行わざるをえないことがありえます。そのような場合、適法行為の期待可能性の減少が認められる限り責任が阻却されます(改正刑法草案123条2項参照)。

共犯(外患誘致罪の箇所の説明と同じ)
 外患援助罪も集団犯ではないので、教唆してそれを実行させた場合、外患援助罪の教唆が成立します。教唆された者が外患援助罪を実行した場合、刑法61条が適用され、教唆者は破防法38条1項の罪と外患援助罪の教唆が成立し、その刑を比較して重い刑をもって処断されます(破防法41条)。教唆された者が実行しなかった場合、破防法38条1項の罪が成立し(独立教唆犯)、7年以下の懲役または禁錮に処せられます。

罪数
 外国からの武力行使に加担して内乱を起こした場合、外患援助罪と内乱罪とは「法条競合」になり、刑の重きに従って処断されます。

3通謀利敵罪
 第83条から第86条まで 削除(昭和22法124号による)

4外患誘致・外患援助の未遂
 刑法87条 第81条及び第82条の罪の未遂は、罰する。

 外患誘致罪の未遂は、武力行使につき外国と通謀したが、合意できなかったり、合意したが武力行使に至らなかった場合です。外患援助罪の未遂は、外国からの武力行使が行われているときに、外国に加担して軍事上の利益を与えるに至らなかった場合です。

5外患誘致・外患援助の予備・陰謀罪
 刑法88条 第81条又は第82条の罪の予備又は陰謀をした者は、1年以上10年以下の懲役に処する。

行為
 外患誘致の予備・陰謀罪とは、外国からの武力行使を誘致するために、外国と通謀することに先立って行われる準備行為および二人以上の者による意思の合意である。

 外患援助の予備・陰謀は、通説によれば、日本に対して外国から武力行使が行われることを事前に察知し、これに加担するために行われる準備行為または意思の合意であり、それは日本に対する武力行使が行われる以前に成立する犯罪であると解されている。しかし、外患援助罪の行為客体を「日本国に対して外国から武力を行使している外国」と解するならば、本罪が成立するには、前提条件として、日本に対して外国から武力行使が行われていることが必要である。そのように解するならば、武力行使以前の段階で予備・陰謀にあたる行為をしても本罪にはあたらない。

共犯
外患誘致および外患援助の予備・陰謀を教唆した者は、5年以下の懲役・禁錮に処せられます(破防法38条2項1号)。教唆された者が外患誘致・外患援助の予備・陰謀を行った場合、刑法61条の規定が適用され、破防法38条2項1号の罪と外患誘致・外患援助の予備・陰謀の教唆罪が成立し、それぞれの法定刑の長期・短期について重い刑により処断されます。教唆された者が外患誘致・外患援助の予備・陰謀を行わなかった場合、破防法38条2項1項の罪が成立します(独立教唆犯)。

6戦時同盟国に対する行為
 第89条 削除(昭和22法124号による)



 刑法Ⅱ(各論) 国家的法益に対する罪――国家の存立に対する罪・国交に関する罪
 第13週 国交に関する罪

(1)国交に関する罪
 国家間の関係は、条約や協定などの国際法によって規律されています。現在のような複雑な国際社会において、条約や協定を遵守せずに、国際的な信義に反する行為が行われるならば、国際社会や外国の利益が害されることになり、日本の対外的な地位が不安定にることは必至です。日本の国際社会における地位や信頼が損なわれないようにするために、国交に関する罪が設けられています。本罪の保護法益は、国際社会における国家の対外的地位と解するのが妥当です。

1外国元首・使節に対する暴行・脅迫・侮辱罪
 刑法90条および91条 削除(昭和22法124号による)

2外国国章損壊等罪
 刑法92条① 外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。
② 前項の罪は、外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない。

客体
 「国旗」とは、国を象徴するために定められた旗であり、「国章」とは軍旗や大使館の徽章(キショウ)など国を示すために定められた国旗以外の物件をいいます。外国に対する侮辱という本罪の性格に留意すするならば、外国の機関が公的に掲揚しているものだけでなく、私人によるもの(例えば、国際競技場など公共の場所において掲揚された国旗・国章)も含まれると解すべきでしょう。

行為
 「損壊」とは、国章を破壊または毀損することをいいます。「除去」とは、掲揚されている場所を移転するなどすることをいいます。「汚損」とは、国章を汚しまたは不潔にすることをいいます。それによって、国章としての効用を滅失または減少させることが必要です。ベニヤ板の看板によって外国の国章を遮蔽した行為が「除去」にあたるとした判例があります(最決昭40・4・16刑集19・3・43)。

目的犯
 本罪が成立するためには、「外国に対して侮辱を加える目的」が必要です。当該外国が侮辱されたという感情を持つことは、要件として不要です。

請求
 本罪の公訴を提起するためには、外国政府の請求が必要です。「請求」とは、外国政府が日本の捜査機関に対して処罰を求める意思表示をいいます。

罪数
 国旗や国章が行為者の所有物である場合に、それを損壊する行為は、外国国旗国章毀損罪にあたるだけですが、それが他人の所有物である場合、外国国章損壊罪のみならず、器物損壊罪(刑法261条)にもあたります。両罪は、観念的競合の関係に立つと考えられます。

3私戦予備及び陰謀罪
 刑法93条 外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その予備又は陰謀をした者は、3月以上5年以下の禁錮に処する。ただし、自首した者は、その刑を免除する。

目的犯
 本罪は、「外国に対して私的に戦闘行為をする目的」で、その予備・陰謀を行うことをいいます。「私的な戦闘行為」とは、合法的に成立した国家の意思とは無関係な武力行使です。それゆえ、戦闘行為が国家の合法的な意思に基づいている限り、国家機関が外国に戦闘行為を行っても、それは「私的な戦闘行為」にはあたりません。従って、私的な戦闘行為は、国交関係・外交関係が害されるほどの規模のものであることが必要です。ただし、憲法9条は、「国家の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使」を放棄していることに留意しなければなりません。

行為
 本罪の行為は、外国に対する私的な戦闘行為を行う目的で、その準備行為を行うこと、または二人以上の者による意思の合意をすることです。
 改正刑法草案には、私戦予備・陰謀罪に加えて、その既遂類型である私戦罪とその未遂罪が設けられています(改正刑法草案126条)。

4中立命令違反
 刑法94条 外国が交戦している際に、局外中立に関する命令に違反した者は、3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

外国による交戦
 本罪が成立するためには、日本以外の複数の国家において「交戦」、すなわち国際法上の紛争が行われている状況が必要です。それには、事実上の戦争状態も含まれます。

行為
 「局外中立に関する命令」とは、外国で行われている戦争に対して、日本として不参加・中立の立場を宣言し、それを履行するために、交戦国のいずれに対しても援助を与えてはならないことを国民に指示するために出された命令です。その内容は、その時々の命令によって定められるのであるため、禁止行為の内容は白紙のままです。このような犯罪規定を「白地刑罰法規」といいます。本罪は、現行刑法上、白地刑罰法規の唯一の例です。罪刑法定主義上の問題があるとして批判があります。

国際条約
 陸戦および海戦における中立国の権利と義務に関する国際条約で、日本が締結している条約としては、「陸戦ノ場合に於ケル中立国及中立人ノ権利義務ニ関スル条約」(明治45年条約5号)および「海戦ノ場合ニ於ケル中立国ノ権利義務ニ関スル条約」(明治45年条約12号)があります。

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