Rechtsphilosophie des als ob

かのようにの法哲学

刑法Ⅱ(各論)(第13回② 2015年12月24日)

2015-12-05 | 日記
 刑法Ⅱ(各論) 国家的法益に対する罪――国家の作用に対する罪
 第13週 公務の執行を妨害する罪

(1)公務の執行を妨害する罪
 公務の執行を妨害する罪とは、公務、すなわち国家または地方公共団体の作用を円滑に推し進め、かつその公正さを維持するために設けられた規定です。従って、その保護法益は公務の円滑かつ公正に実施することにあります。
 公務の執行が妨害されれば、個人にその作用が及ばなくなり、不当に利益が侵害されかねません。また、公務の作用が及んでも、それが不公正なものであるならば、同じように個人の利益が害されてしまいます。公務は、あくまでもその作用を受ける個人の権利との関係において保護されるだけであり、公務員が特別に保護されるわけではありません(最判昭28・10・2刑集7・10・1883)。

1公務執行妨害罪
 刑法95条① 公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

暴行・脅迫
 本罪の行為は、暴行・脅迫です。業務妨害罪にように、偽計や威力では足りません。暴行・脅迫は、「これ(公務員)に対」するものでなければなりません。しかし、判例は、公務員への直接暴行に限られず、間接暴行でも足りるとしています(最判昭37・1・23刑特16・1・11)。暴行・脅迫が加えられることで成立し、公務の執行が妨害されるという結果の発生は不要です(抽象的危険犯)(最判昭33・9・30刑集12・13・3151)。ただし、公務とは無関係な作業をしている公務員に暴行を加えた場合にまで、本罪の成立を認める必要はありません。

公務員
 公務員とは、国または地方公共団体の職員そのた法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいいます(刑7条)。

職務の意義
①職務の範囲
 公務員が執行する職務(公務)について、判例・通説は、公務員の行う職務の全て含むと解しています(最判昭53・6・29刑集32・4・816)。そのなかには、警察官による被疑者の逮捕はもちろん、国立学校の入学試験事務も含まれています。「旧国鉄」の機関士の作業も、民営化以前は公務に含まれていました(最決昭59・5・8刑集38・7・2611)。
 これに対して、公務員の職務を「強制力を行使する権力的公務」と「強制力の行使を伴わない非権力的公務」に分類して、「公務執行妨害における職務」は権力的公務に限定し、その他の非権力的公務は、「業務妨害罪における業務」として保護すべきことが主張されています。

②執行の範囲
 職務を「執行するに当たり」とは、その開始から終了までを意味します。争いのあるのは、職務行為の休憩時間などに、公務員に暴行が加えられた場合です。判例によれば、休憩中であっても、職務が休憩の前後にわたって一体的・継続的に行なわれる性質のものである場合には、本罪の成立を認めています。旧国鉄時代に、駅助役が「点呼」をとった後、「事務の引き継ぎ」のために移動する途中で暴行を受けた事案につき、「点呼」と「事務の引き継ぎ」の職務上の一体性・継続性があるとはいえないとして、職務性が否定されています(最判昭45・12・22刑集24・13・1812)。
 これに対して、地方自治体の議会の委員会議長が、議会の休憩を宣言し、退席しようとした際に、それに暴行を加えた事案では、委員長休憩を宣言したのは、委員会の審議が紛糾し、会派の責任者らを集めて意見の調整を図り、委員会の秩序の維持に努め、紛糾した議事に対処するための職責を果たすためであったので、職務の一体性・継続性を認めることができると判断されています(最決平元・3・10刑集43・3・188)。一時中断ないし停止の状況があっても、職務としての継続性・一体性があると認められるには、このように具体的な内容が明らかにされる必要があります。

職務の適法性とその判断方法
①適法性の要件
 本罪における職務やその執行方法は、適法でなければなりません。それが適法なものであることは条文では明記されていませんが、「書かれざる構成要件要素」として理解されています。日本は法治国家であり、その刑法が違法な公務を保護するとは考えられないからです。
 職務が適法であるためには、まず①職務行為が公務員の一般的な権限の範囲に属していること、そして②当該公務員が当該職務を執行する具体的な権限を有していること、さらに③職務を有効にするための重要な執行方法に基づいていることが必要です。警察官が刑事事件の被害者に示談をあっせんするのは、職務の一般的権限の範囲を超えているので(民事不介入の原則)、①の要件は満たされません(大判大4・10・6刑録21・1441)。従って、公務員がその職務権限に属する事項を行っている場合に限って、②の要件が満たされることになります。
 問題は③の要件です。判例では、収税官吏が押収処分を行うに際して、その身分を証明する証票を携帯すべき法規則に違反した事案について、身分証明の証票を携帯していなくても、収税官吏がその身分を有する以上、③の要件が満たされると判断されています(大判大14・3・23刑集4・187)。それに対して、被疑者の逮捕に際して、逮捕状を被疑者に示さなかった事案について、その逮捕行為は重要な形式を踏まえていないため、違法と判断されています(大阪高判昭32・7・22高刑10・6・521)。職務が人の権利を制限するような内容であればあるほど、その執行方法も法律によって厳格に定められなければなりません(強制処分法定主義)。従って、執行方法が法律に違反している場合には適法な職務と認めることはできません。しかし、職務の内容が重要であり、また執行が必要でかつ緊急である場合には、判例では、執行方法の違反性が相対的に低く評価されているようです。ただし、被疑者逮捕に関して、逮捕状を示さないという違反は、逮捕行為の適法性を否定すると解されていることに注目すべきでしょう。

②適法性の判断基準
 このように職務が適法か違法か断は、原則的に当該職務を管轄する法律に基づいて判断されます。つまり、当該職務の内容と執行方法を客観的に判断して、職務の適法性・違法性を認定することになります(客観説)。決して、当該公務員が適法だと信じて行ったことを理由にして、職務の適法性・違法性を判断してはなりません(主観説。大判昭7・3・24刑集11・296)。ただし、客観的に判断するとはいっても、行為後の事情を踏まえて判断する「純客観説」と行為時における一般人の認識を基準に判断する「行為時標準説」とのあいだで対立があります。通説・判例は、行為時標準説に立っています(最決昭41・4・14判時449・64)。例えば、窃盗の嫌疑で警察官に現行犯逮捕されそうになったので、それに対して抵抗するために、暴行を加え、後に裁判で窃盗罪については、冤罪を理由に無罪を言い渡されても、公務執行妨害罪は成立する余地が残ります。窃盗罪としては無罪であったことを理由に、「現行犯逮捕」が遡って違法になるわけではないからです。逮捕行為の時点において現行犯と認めるだけの十分な理由があった以上、逮捕行為は適法であると判断されます。従って、職務の適法性は、事後に判明した事情をふまえて判断されるのではなく、行為時の事情、一般人の認識内容を基準に判断されると解されています。

③錯誤
 しかしながら、このような誤認逮捕の場合、被疑者から見れば、身に覚えのない事件での逮捕には、理由がなく、違法としか思えないので、それに抵抗することは、ある意味で当然のことです。問題は、抵抗のために暴行を加えたことをどのように評価するかです。このような場合、逮捕行為は適法であるので、被疑者の暴行は公務執行妨害材の構成要件に該当する違法な行為と評価されます。しかし、被疑者にはそのような事実の認識はありません。この錯誤を「事実の錯誤」として扱うならば、公務執行妨害罪の故意が否定されることになります(大阪地判昭47・9・6判タ306・298)。これに対して、故意を構成要件該当の事実の認識(構成要件的故意)として捉え、違法性の意識は「構成要件的故意」から独立した責任要素であると解する立場からは、被疑者の錯誤は「違法性の錯誤」として扱われ、公務執行妨害罪の構成要件的故意を認めたうえで、違法性を錯誤したことに相当の理由がある場合にだけ「責任」が阻却されます。
 判例は、故意の成立に違法性の意識は必要ないという立場から、違法性の錯誤があっても、故意の成立は否定されないと解しています(大判昭7・3・24刑集11・296)。

2職務強要罪
 刑法95条② 公務員に、ある処分をさせ、若しくはさせないため、又はその職を辞させるために、暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする。

行為
 本罪の行為は、暴行または脅迫です。公務員に一定の処分を行わせ、また一定の処分を行わせないこと、また公務員を辞職させる目的が必要です(目的犯)。目的がなければ、暴行または脅迫罪が成立するだけです(脅迫罪の場合は、生命・身体などへの加害の告知が必要である)。
 適法な職務を保護するという点において、公務執行妨害罪を補充する役割を担い、また公務員に一定の作為・不作為をさせるという側面において、強要罪の特別規定という性格をを持っています。

処分
 本罪における「処分」とは、公務員によって行われる「処分」です。例えば、議員の場合、議会に出席して審議に参加するだけでなく、それを欠席して審議を拒否することがありますが、出席しようとしている議員に欠席を強要したり、また欠席しようとしている議員に出席を強要した場合、職務強要罪が成立します。出席するも欠席するも、当該議員(公務員)の職務権限や裁量権に基づく処分の一つだからです。
 争いがあるのは、本罪の処分に当該公務員の職務権限の範囲外の「処分」も含まれるかという問題です。公務員に対して、その職務権限以外の処分を行わせても、それは無効です。無効な処分を強要しても、本来行われるべき職務に支障が生じていなければ、本罪の成立を認める必要はありません。従って、「処分」には、職務権限外の「処分」は含まれないと解すべきす。しかし、判例は、当該公務員の職務権限外の処分も含まれる解しています。例えば、税務署長に対して、ある職員を更迭するよう要求して、「更迭決定」の書面の作成を強要した事案に関して、更迭の決定は税務署長の職務権限に属さないにもかかわらず、本罪が成立すると判断しています(最判昭28・1・22刑集7・1・8)。税務署長に「更迭」を決定する権限がなければ、「更迭決定」を承認する書面の作成を強要しても、税務署の人事や職務に影響は及ばないはずです。職務の遂行に支障は生じていないので、職務強要罪の成立は否定されると思われますが、税務署長の社会的地位や仕事の内容から、一定の人事権が与えられていると一般人が認識している場合には、職務権限の範囲内の処分が問題になっていると認識されるので、職務強要罪の成立が認められているようです。

3封印破棄罪
 刑法96条 公務員が施した封印若しくは差押えの表示を損壊し、又はその他の方法で無効にした者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。

行為客体
 本罪の行為客体は、「封印もしくは差押えの表示」です。封印とは、物の現状を変更することを禁止した処分として公務員によって行われた封緘(ふうかん)その他の物的設備をいいます。差押えの表示とは、公務員が職務上保全すべき物を自己の占有に移すために、その物に表示した物件をいいます(民事執行法123条③)。
 封印や差押えの表示は、破棄などの行為が行なわれる時点において、現実に存在することが必要である。仮処分の公示札の全面が紙で覆われていても、差押さの表示の存在が肯定されています(最決昭62・9・30刑集41・6・297)。

適法性
 本罪は、公務員が行った封印や差押えの表示の効力を保護する規定であるので、封印・差押えの表示は適法なものでなければなりません。執行吏の代理が、債務者の家屋を占有保管するために、誤解から債務者ではない第三者の家屋を仮処分した事案について、家屋の所有者または第三者によって執行方法の異議が唱えられ、それが法的に取り消されない限り、執行それ自体は原則的に有効であり、従ってその家屋に入居することは認められないので、差押えの表示は適法であると解されています(最決昭42・12・19刑集21・10・1407)。差し押さえの法的有効性に対する一般国民の信頼を維持するために、このような判断がなされているように思います。

行為
 封印・差押えの表示を損壊し、またはその他の方法で無効にすることです。剥離(はくり)し移動させた場合、損壊にあたります。その他の方法とは、差押え物件を搬出し売却するとか、差し押さえられた土地や家屋内に立ち入るなどの行為です。

違法性の錯誤
 民事訴訟法の解釈を謝って、誤解したために、債務を弁済すれば、物件に対する差押えの効力は失効すると解した被告人が、差押えの表示を剥がした事案について、判例では、本罪の故意が否定されるという判断がなされていました(大決大15・2・22刑集5・97)。被告人は、差押えが有効ではないと誤信しているために「有効な差押えの表示を損壊している」という事実の認識がなかったからです(事実の錯誤)。しかし、戦後、税金滞納に対する処分として行われた差押えが国税徴収法に違反し、それゆえに法的に無効であると誤信した場合、それは「違法性の錯誤」であって、故意の成立は否定されないと判断されたものがあります(最判昭32・10・3刑集11・10・2413)。違法性の認識不要説の立場からの判断であると思われます。
 これらの判例を整理・理解するためには、故意と違法性の認識の関係を理解しなければなりません。故意の成立には違法性の認識が必要であると解するならば(厳格故意説)、二つの事案では、違法性の認識はなかったので、故意の成立が否定されます。なぜならば、行為者には違法な行為を行っている事実の認識がないからです(事実の錯誤)。これに対して、故意の成立には違法性の認識の可能性で足りると解するならば(制限故意説)、違法であることを認識しえなかった場合、「事実の錯誤」であり、故意の成立が否定されますが、その可能性があった場合は「事実の錯誤」はなく、故意は成立します。
 また、故意は構成要件の要素としての事実の認識であって、違法性の認識はそれとは異なる責任の要素であると解すると(厳格責任説)、差押えの表示を剥がしている事実を認識している以上、差押え表示破棄罪の「構成要件的故意」が認められ、それが許されると誤信したのは、「違法性の錯誤」であり、錯誤したことに相当の理由があれば、「責任」は阻却されます。
 このように故意と違法性の認識の関係をどのように理解するか、また故意を構成要件要素と解するか、それとも責任要素と解するかという問題の正確な理解が必要です。

4強制執行妨害罪
 刑法96条の2 強制執行を免れる目的で、財産を隠匿し、損壊し、若しくは仮装譲渡し、又は仮装の債務を負担した者は、2年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

保護法益
 本罪は昭和16年(19411年)に創設された規定です。本罪の保護法益は、国による適法な強制執行であるが、それによって債権者の債権が保護されることから、国家の強制執行と債権者の債権のいずれが保護法益において重点であるかが争われています。学説は、本罪が国家的法益に対する罪であることを理由に、その保護法益は国家の強制執行であると解していました。しかし、判例が本罪を債権者の債権保護を主眼とする規定であると判断したため(最判昭35・6・24刑集14・8・1103)、学説においても債権者の債権を保護法益の中心に据える見解が広がっています。現在では、国家の作用としての強制執行の機能の保護に重点を置く説が再び有力化しています。

目的
 本罪は、強制執行を免れる目的で、妨害行為が行われることを要します(目的犯)。実際に強制執行を免れたことを要しません(抽象的危険犯)。ただし、強制執行を受ける可能性がないにもかかわらず、それがあると認識して妨害を行った場合、本罪の成立を認めるべきではないでしょう。本罪の目的は、たんなる主観的目的ではなく、「現実に強制執行を受けるおそれのある客観的な状況下」において、その強制執行を免れる目的だからです。
 債権者が、債権の履行を請求するための訴訟を提起しましたが、そのための強制執行の名義がまだ存在しない場合、債務者らが、その強制執行が行なわれると思って妨害した行為が、強制執行妨害罪にあたるでしょうか。これをめぐっては、争いがあります。債権の履行請求訴訟を提起した時点では、まだ法的な判断がくだされていないので、債権が存在するかどうかは未確定です。しかし、それは裁判提起時には原告に知られていないだけです。つまり、後に明らかになるだけで、債権の存否それ自体は客観的な事実の問題ですあることに注意する必要があります。判例によれば、債権の存在は強制執行妨害の時点で認定される必要はないが、強制執行妨害罪の刑事訴訟の審理過程においては、確定されていなければならなならないといいます。つまり、債権の履行請求訴訟が提起され、債務者が強制執行妨害の行為が行っている段階では、民事訴訟では債権の存否はまだ明らかになってはいないでしょうが、その後、強制執行妨害材の刑事訴訟が行なわれる段階においては、民事訴訟が結審し、債権の存在が確認されていることが予想されます。しかし、刑事訴訟の段階においても、債権の存在が確定されなかったならば、本罪の成立は否定されるということです(最判昭35・6・24刑集14・8・1103)。これは、「妨害の行為時」において客観的に存在していた債権が、刑事裁判の過程において確定していなければならないという主旨です。
 これに対して、判例の立場を踏まえながらも、「権利関係に争いのあることを前提とする保全執行も本罪にいう強制執行に含まれるのであるから、債権の存在が確定されなくても、強制執行の機能保護の必要性は存在すると解することができると思われる。したがって、行為時に債権が存在する可能性があれば足りると解すべきであろう」(山口・549)と論ずる学説もあります。このように解すると、刑事訴訟の審理過程において債権の存在が確定されなくても、行為時に存在する可能性があったことを理由に、本罪の成立が肯定できることになります。ただし、それは判例の見解と食い違うように思われます。
 本罪の保護法益の捉え方に関して、債権者の保護という側面を重視するならば、強制執行は債権の実行のための手段であり、従って強制執行の行為の時点において債権が存在していることが必要ですが、強制執行の保護の側面を重視するならば、行為時において債権が存在していることは必ずしも必要ではなく、その可能性で足りることになるでしょう。

行為
 本罪の行為は、財産を隠匿し、損壊し、仮装譲渡し、または仮装の債務を負担することです。仮装譲渡とは、表面上譲渡が行われたことを装うことであり、仮装の債務を負担するとは、実際には債務がないにもかかわらず、債務を負担しているかのように装うことをいいます。現実に譲渡し、また現実に債務がある場合には、本罪は成立しません。

5競売妨害罪・入札妨害罪
 刑法96条の3① 偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札の公正を害すべき行為をした者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。
② 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする。

競売妨害・入札妨害
本罪は、昭和16年(1941年)に設けられた規定です。公に行われる競売が、参加者の公正かつ自由な競争によって、債権者や競売・入札施行者の利益になるように設けられた規定です。

①競売・入札
 「競売」とは、売主が、多数の者に対して、口頭または文書によって、買い受けの申し出をするよう促し、最高価格の申し出をした者(競落者)に売却する売買手続です。「入札」とは、2人以上の競争参加者のなかで、最も有利な申し出をした者(落札者)と契約するために、それらの者に文書で申し込みの意思表示をさせることをいう。いずれも、国またはそれに準ずる機関が実施する公的なものに限られます。

②行為
 偽計または威力を用いて、競売や入札の公正さを害することです。威力を用いて、競売での高い買い受けを抑えたり、入札で高い価格の申し出をさせるような行為がこれにあたります。

談合罪
①行為
 「談合」とは、競売人や入札者が互いに通謀して、(競売の場合)一定の価格以上での買い受けを申し出ないことを取り決めたり、また(入札の場合)一定の価格以上で入札することを取り決めたりして、特定の者が競落者・落札者になるよう協定を結ぶことをいいます(最決昭28・12・10刑集7・12・2418)。参加者の全員の場合だけでなく、その一部の間で協定が結ばれた場合も談合にあたります。談合は協定の締結によって成立し、実際に特定の者が不正の利益を得たことは必要ではありません(抽象的危険犯・最判昭32・12・13刑集11・13・3207)。

②目的
 本罪は、「公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的」に基づいて行われることを要します(目的犯)。競売人が通謀して、あらかじめ申し出る買い受け価格を取り決めた場合、競争原理が働いて上昇するかもしれない価格を下回ることが予想されます。また、入札者が通謀して、あらかじめ落札者を決めた場合、競争原理が働いて低下するであろう価格を上回ることが予想されます。「公正な価格」とは、このように公正な競争が行われたならば成立したであろう価格をいうと解されています(最判昭32・7・19刑集11・7・1966)。

 刑法Ⅱ(各論) 国家的法益に対する罪――国家の作用に対する罪
 第13週 司法作用に対する罪

(1)逃走の罪
 逃走罪、犯人蔵匿罪および証拠隠滅罪は、国家の刑事司法上の作用を害するという性格を持っています。そこに民事その他の司法作用を含めるべきではありません。

1逃走罪・加重逃走罪
 刑法97条 裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者が逃走したときは、1年以下の懲役に処する。
 刑法98条 前条に規定する者又は勾引状の執行を受けた者が拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし、又は2人以上通謀して、逃走したときは、3月以上5年以下の懲役に処する。

単純逃走罪
①行為主体
 本罪の主体は、裁判の執行により拘禁された既決の者または未決の者です。既決の者とは、確定判決によって自由刑が執行されている者です。未決の者とは、勾留状によって拘禁されている被告人です。拘禁とは、刑事施設に収容されている状態を指します。

②行為
 本罪の行為は、逃走です。拘禁の状態から離脱することを意味します。刑事施設の外壁を越えて、外部に脱出し、看守者の実力支配を脱したときに、既遂に達します。施設の外部に脱出しても、追跡を受けているような場合、まだ既遂に達しているとはいえません(福岡高判昭29・1・12高刑7・1・1)。

加重逃走罪
①行為主体
 勾引状の執行を受けた者とは、裁判所が一定の場所への引致を命じた令状の執行を受けた者をいいます。逮捕状によって逮捕された被疑者などがそれにあたります。

②行為
 本罪の行為は、拘禁場または拘束のための器具を損壊し、看守等に暴行または脅迫を加え、2人以上の者が通謀して、逃走する行為です。通謀する2以上の者は、ともに拘禁されていることを要します。A・Bが、通謀し、A・Bともに逃走すれば、両者に加重逃走罪が成立しますが、Aだけが逃走した場合、単純逃走罪しか成立しません。Bには、単純逃走罪の幇助が成立します(逃走援助罪は、拘禁されていない者が援助行為を行った場合に成立します)。

2被拘禁者奪取罪
 刑法99条 法令により拘禁された者を奪取した者は、3月以上5年以下の懲役に処する。

客体
 「法令により拘禁された者」とは、広く法的根拠に基づいて拘禁されている者です。刑事手続における拘禁作用を保護する規定であるので、逮捕された被疑者、「逃亡犯人引渡法」により拘禁された者、出入国管理および難民認定法(入管難民法)により収容されている者などが行為客体にあたります。少年法による少年院への被収容者も含まれます(福岡高宮崎支判昭30・6・24高刑裁特2・12・628)。精神福祉法による措置入院患者、心神喪失者等医療観察法による強制入院患者などについては争いがあります。刑事司法とは異なる福祉・医療目的で拘禁されているので、本罪の行為客体から除外すべきでしょう。従って、少年法上の保護処分もまた福祉的なものであるので、被収容少年も除外すべきでしょう。

行為
 本罪の行為は、「奪取」です。被拘禁者を看守者の支配から離脱させて、自己または第三者の実力支配に移すことをいいます。たんなる離脱であれば、逃走援助罪にあたります。

3逃走援助罪
 刑法100条① 法令により拘禁された者を逃走させる目的で、器具を提供し、その他逃走を容易にすべき行為をした者は、3年以下の懲役に処する。
② 前項の目的で、暴行又は脅迫をした者は、3月以上5年以下の懲役に処する。

基本的性格
 本罪は、法令により拘禁された者を逃走させる目的で援助を行う行為であり、それを逃走から独立させて処罰する規定です。

行為
 被拘禁者を逃走させる目的で、器具を提供するなどの行為をし、その際に暴行・脅迫を加える行為です(目的犯)。これは、拘禁されていない者が被拘禁者のために行う行為です。被拘禁者が逃走した場合、単純逃走罪(1年以下の懲役)が成立し、援助者には逃走援助罪(3年以下の懲役)が成立します。単純逃走罪は、逃走援助罪に比べて、適法行為の期待可能性が少ないため、法定刑に差があると解されます。

4看守者等による逃走援助罪
 刑法101条 法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者を逃走させたときは、1年以上10年以下の懲役に処する。

 本罪は、看守者または護送者による逃走援助罪の加重類型です(加重的身分犯)。作為のみならず、不作為によっても行うことができます。

5未遂罪
 刑法102条 この章の罪の未遂は、罰する。

 これは、単純逃走罪(97条)、加重逃走罪(98条)、被拘禁者奪取罪(99条)、逃走援助罪(100条)、看守者等による逃走援助罪(101条)の未遂を処罰する規定です。

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